No | 118427 | |
著者(漢字) | 松本,浩一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マツモト,コウイチ | |
標題(和) | 低流動性資産のポートフォリオ最適化 | |
標題(洋) | Optimal Portfolio of the Low Liquid Asset | |
報告番号 | 118427 | |
報告番号 | 甲18427 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数第227号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では安全資産と危険資産のポートフォリオ最適化問題を取り扱う.通常,ファイナンスでは任意の時間に取引が可能なモデルを考える場合が多い.しかし,資産の流動性が十分でない場合,公正な条件で取引をしてくれる相手がいつでも見つかるとは限らない.そこで,本論文では危険資産の流動性が十分でないと仮定し,取引可能な時刻をポアソン過程のジャンプ時刻で表現する.また,投資家は対数型効用関数または冪乗型効用関数を持つと仮定する.このような設定の下で流動性の低下が投資戦略にどのような影響を与えるかを明らかにする. モデル設定 〓を通常の条件を満たすフィルター付き確率空間とする.Pにおける{Ft}-ブラウン運動を〓とする.また,〓を強度λの{Ft}-ポアソン過程とする. 時刻tにおける安全資産の価格過程β(t)と危険資産の価格過程S(t)が以下の確率微分方程式に従うことを仮定する.ここで,S0,μ,σは正の定数とし,r<μを仮定する.危険資産の流動性は十分でなく,その取引はポアソン過程のジャンプ時刻にのみ実現可能であると仮定する.したがって,投資家は平均的な取引成功回数を知っているが,事前に取引成功時刻を知ることはできない.また,ポアソン過程の強度が強いほど取引の成功確率は高くなるので,強度が強いことは流動性が高いことを意味する. 本論文では有限な投資期間[0,T]における最適ポートフォリオ問題を取り扱う.つまり,投資家の値関数と最適投資戦略について研究する.投資家は時点t∈[0,T]において,危険資産をW1(t),安全資産をW0(t)保有しており,V(t)だけ安全資産から危険資産へ資産の入れ替えを試みるとする.前述のように危険資産の取引はポアソン過程P(t)がジャンプしたときのみ成功するので,W1(t)とW0(t)はそれぞれ,確率微分方程式に従う.ここで,w1,w0は危険資産と安全資産の初期保有額で正の定数とする.また,投資家の意思に基づいて決定されるこのV(t)を投資戦略と呼ぶ. [t,T]において投資家は空売りや総資産以上の危険資産への投資を禁じられているとすると,投資戦略Vはを満たす必要がある.Vがこの条件を満たして可予測なとき,このVを[t,T]における許容的投資戦略と呼ぶ.本論文では許容的投資戦略の中で最適投資戦略を考える. 投資家の全資産をW(t)とし,危険資産への投資比率をX(t)とする.これらの変数はW0(t),W1(t)を用いてのように表される.投資戦略Vに対応する危険資産の投資比率をvとする.vはVと一対一に対応し,と表現できる.したがって,Vとvは同一視できるのでvも投資戦略と呼ぶ.Vが[t,T]における許容的投資戦略であることはvが可予測で,〓であることと同値である.そこで,[t,T]における許容的投資戦略の集合をのように定義する.また,投資戦略vを明示的に示したいときは,W(t),X(t)をそれぞれW(t;v),X(t;v)のように表記することとする. 投資家の効用関数をU:(0,∞)→Rとする.この場合,最適投資戦略vλはν[0,T]の中でE[U(W(T;v))]を最大化させる戦略であり,値関数Vλ(t,x,w):[0,T]×[0,1]×(0,∞)→Rは以下によって定義される.E[・]はPの下での期待値である. 対数型効用関数 U(W)=logWのときについて考える.x0を次のように定義する.ここで,0<x0<1とする.危険資産が十分に流動的で連続的取引が可能なとき,最適投資戦略v∞と値関係V∞(t,x,w)はによって与えられることが知られている.これに対して本論文では危険資産が十分に流動的でないとき,以下の定理が得られることを示す. Theorem1.2.1最適投資戦略vλは存在し,値関数Vλは以下によって与えられる.ここで特にλが十分に大きいとき,最適投資戦略は一意的で以下を満たす.ここでCは定数である. この定理により最適投資戦略の存在は示せたが,最適投資戦略を解析的式で表現することはできない.そこで,次の定理により最適投資戦略の漸近展開が可能であることを示す. Theorem1.2.2次を満たす有界で連続な関数〓が存在する.すべてのn∈Nに対して,ここでCn,λnは正の定数である. 本論文ではh*iが逐次的に計算可能であることを示す.例えばi=1のとき,となる.ここでである. 次に流動性の低下が期待効用にどのような影響を与えるかを示す. Theorem1.2.3任意の〓に対して,λ→∞のとき,及び,である.この収束は〓において一様である. 冪乗型効用関数 U(W)=Wα(0<α<1)のときについて考える.x0を次のように定義する.ここで,0<x0<1とする.危険資産が十分に流動的で連続的取引が可能なとき,最適投資戦略v∞と値関数V∞(t,x,w)はによって与えられることが知られている.これに対して本論文では危険資産が十分に流動的でないとき,以下の定理が得られることを示す. Theorem2.1.1最適投資戦略vλは存在し,値関数は以下によって与えられる.ここでAλ(t,x)は以下の積分方程式の解である.ただし,であり,Yy(t)は確率微分方程式の解である.特にλが十分に大きいとき,最適投資戦略は一意的で以下を満たす.ここで,C0は定数である. この定理により最適投資戦略の存在は示せたが,最適投資戦略を解析的式で表現することはできない.そこで,次の定理により最適投資戦略の漸近展開が可能であることを示す. Theorem2.1.2すべてのN∈Nに対して以下を満たす最適投資戦略の近似vλNが存在する.ここで,CNとλNは定数である. 本論文ではvλNが逐次的に構築できることを示す.例えばN=1のときは以下のようになる.ここでである. 次に流動性の低下が期待効用にどのような影響を与えるかを示す. Theorem2.1.3任意の〓に対して,λ→∞のとき及び,である.この収束は〓において一様である. | |
審査要旨 | 本論文では安全資産と危険資産のポートフォリオ最適化問題を扱っている。通常ファイナンスでは任意の時間で取引が可能であるモデルを考えるが、本論文では危険資産の流動性が十分でなく、取引可能な時刻がintensityλのポアソン過程のジャンプ時刻で与えられると仮定する。投資家は対数型効用関数または冪乗型効用関数を持つと仮定し、満期時刻での資産の期待効用を最大にする投資戦略がλによりどのように変化するか、特にλ=∞の周辺でどのようになるかを明らかにしている。 〓をフィルター付き確率空間とし、B(t)を{Ft}-ブラウン運動、P(t)をintensityλの{Ft}-ポアソン過程とする。時刻tにおける安全資産の価格過程β(t)と危険資産の価格過程S(t)が以下の確率微分方程式で与えられるとする。ここで、S0,μ,σは正の定数とし、r<μを仮定する。投資家は時点t∈[0,T]において、危険資産をW1(t)、安全資産をW0(t)保有しており、V(t)だけ安全資産から危険資産へ資産の入れ替えを試みるとする。危険資産の取引はポアソン過程P(t)がジャンプしたときのみ成功するので、W1(t)とW0(t)はそれぞれ、確率微分方程式に従う。ここで、w1,w0は危険資産と安全資産の初期保有額で正の定数とする。投資家は空売りや総資産以上の危険資産への投資を禁じられていると仮定する。則ち、許容的投資戦略Vはを満たし可予測なもの全体とする。投資家の効用関数をU:(0,∞)→Rとする。この場合、最適投資戦略VλはE[U(W(T;v))]を最大化させる戦略である。 本論文ではまずU(W)=logWの場合を考察し、最適戦略Vλが存在し、それがある関数方程式から定まる関数〓により、で与えられることを示した。さらに有界連続な関数〓が存在しとなること、h*iが逐次的に計算可能であることが示されている。値関数に関しても同様な考察がなされている。例えばi=1のとき、となる。ここでである。 本論文では効用関数が冪乗型効用関数の場合にも、結果はより複雑になるが、同様な結果を示している。これらの結果は従来知られていたMertonの結果の拡張ともなっている。 以上のように本論文は独創性のあるきわめて質の高いもので、論文提出者松本浩一は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 | |
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