学位論文要旨



No 118432
著者(漢字) 李,昌勲
著者(英字)
著者(カナ) リ,チャンフン
標題(和) ミニマム型擬微分作用素の指数解析
標題(洋) Exponential Calculus of Pseudodifferential Operators of Minimum Type
報告番号 118432
報告番号 甲18432
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数第232号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 片岡,清臣
 東京大学 教授 大島,利雄
 東京大学 教授 中村,周
 東京大学 助教授 平地,健吾
 東京大学 助教授 坂井,秀隆
内容要旨 要旨を表示する

 擬微分作用素とは微分作用素を余接束上で局所化した概念である。この論文では擬微分作用素を余接束上で定義された関数の同値類として定義する。この関数を擬微分作用素の表象(symbol)という。擬微分作用素の和、積等の演算は表象を用いて表現することができ、このことによって擬微分作用素を具体的に取り扱うことが可能となる。表象を用いて擬微分作用素同士の演算を記述することをsymbolic calculusという。題目のexponential calculusとは指数関数表象の形で表現される解析的擬微分作用素についてのsymbolic calculusを意味する。ここで指数関数表象とは文字通りその表象が指数関数の形になっているものである。通常の解析的擬微分作用素に対する指数解析は青木によって見事な形で完成されているが、この論文ではある種の直積構造を考慮した場合を考える。すなわち、直積型またはミニマム型解析的擬微分作用素に関する指数解析に対し青木の理論を拡張する。このような形の表象により定まる作用素を研究する主たる目的は、片岡による超関数論におけるエネルギー法に使われる正定値無限階擬微分作用素の指数解析などに応用されることにある。この論文は大きく二つの部分で構成されている。以下その1部と2部の内容について述べる。

 第1部ではまず、T*(Cnz)×T*(Cmw)における直積型の表象の空間を定義し、青木の形式表象の理論をこの場合に拡張する。さらにその特殊な場合としてミニマム型表象をつぎのように定義する。

 Ω,Ω'をそれぞれ余接束T*(Cnz×Cmw)の錐状開集合とする。

 Ω(r):=Ω∩{|ξ|>r},Ω'(r'):=Ω'∩{|η|>r'}とする。Λ1(|ξ|),Λ2(|η|)はそれぞれ|ξ|,|η|の劣線形(infra-linear)関数とする。

 (定義)p(z,ξ,w,η)をΩ×Ω'上、増大度(Λ1,Λ2)のミニマム型であるとは次を満たすときである。

 1.p(z,ξ,w,η)はあるr,r'>Oに対してΩ(r)×Ω'(r')上、正則である。

 2.あるCq>0が存在してΩ(r)×Ω'(r')上、が成り立つ。

 (定理1)p(z,ξ,w,η),q(z,ξ,w,η)がΩ×Ω'上、ミニマム型表象であるとき、つぎを満たすミニマム型形式表象r(s,t;z,ξ,w,η)が存在する。ここで、:exp(p(z,ξ,w,η))::exp(q(z,ξ,w,η)):=:es<∂ξ,∂z*>+t<∂η,∂w*>exp(p(z,ξ,w,η)+q(z*,ξ*,w*,η*))|(z*,ξ*,w*,η*)=(z,ξ,w,η):

 第2部では1部の指数解析を議論する。

 (定理2)pが増大度(Λ1,Λ2)のミニマム型形式表象であるとき、e:p:がe(Λl,Λ2)型形式表象に対応する直積型擬微分作用素になる。

 (定理3)pがミニマム型形式表象であるとき、e:p:=:eq:を満たすミニマム型形式表象qが存在する。

 (定理4)qがミニマム型形式表象であるとき、e:p:=:eq:を満たすミニマム型形式表象pが存在する。

 結論的に:ep:の逆が:eq:の形で実現されることを示す。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文提出者は,ミニマム型擬微分作用素の指数解析に関する研究をおこなった。1階未満の解析的擬微分作用素,例えばP(x,∂x)=(-Δx)θ(0<θ<1/2)などの指数関数またはその形式表象の指数関数を表象とする擬微分作用素は,佐藤超関数やウルトラ超分布に(超局所的に)作用する演算子であるがいわゆる無限階の作用素も含むので一般的にはあまり研究されてはこなかった。しかし1980年代に近畿大学の青木貴史によりその指数解析,すなわちこのような作用素全体が擬微分作用素としての積により群をなすことが証明された。また同時に上の2つの作用素の表示の間の関係も示された。すなわち作用素の指数関数の表象はある1階未満の表象の指数関数で書けること,またその逆も成立することが示された。後者は指数表象で表される作用素に対して作用素としての対数がとれることを意味している。証明は結合や逆元の指数部分の表象の漸近展開を実際に漸化式で陽に与え,増大度を漸化不等式を使って評価し,やはり1階未満の解析的擬微分作用素になることを示す,という極めて直接的な方法である。これは有限次元の場合,正方行列の指数関数に関するHausdorff-Youngの公式に相当するものであるが格段に複雑であり漸化式の導出,漸化不等式の解析には極めて独創的なアイデアが必要とされた。

 論文提出者の目的はこの理論を通常の解析的擬微分作用素ではなくある種の直積構造をもった解析的擬微分作用素に対して拡張することである。すなわち多様体が2つの複素多様体X,Yの直積X×Yとなっているときを考える。X,Yの局所複素座標をそれぞれz=(z1,...,zn),w=(w1,...,wm)で表しその余接バンドルT*X,T*Yの座標を(z,ξ),(w,η)で表すときX×Y上の擬微分作用素はT*(X×Y)=T*X×T*Y上のある種の解析関数のクラス:P(z,w,ξ,η):(表象)で表される。すなわちP(z,w,ξ,η)はT*(X×Y)のいわゆる錐状開集合で定義された解析関数で|ξ|+|η|→+∞のとき劣指数的増大度を持つものである。このとき直積構造を考慮するとはまず定義域が直積型であること,すなわちv,wをそれぞれT*X,T*Yの錐状開集合とするときP(z,w,ξ,η)はV×Wの形の定義域をもちさらにそこにおいて上の評価式を満たすものとする。ここで厄介なことは無限大になる方向が独立に2つあること(|ξ|,|η|)である。このため例え0階といわれる表象でものような作用素は|ξ|>1,|η|>1で考えても有界とならず解析が難しい。これに対しのような作用素はV,Wを適当にとれば有界となり扱いがやさしい。また非有界な表象についても片岡清臣が1985年頃佐藤超関数に対する解析的エネルギー法の理論で使ったエルミート半正定値な表象のうちミニマム型と呼ばれるものはのようにいわゆるミニマム型評価を満たし,2つの無限大の方向からくる難しさを回避できる。片岡はこのような作用素の指数関数がエネルギー法の定式化に欠かせないことを示したが論文提出者はこのミニマム型作用素をエルミート正定値性とは離れて独立に考え,その指数解析の一般論を展開した。すなわちミニマム型表象を指数の肩にもつような解析的擬微分作用素に対しても青木型の定理がすべて成立することを示した。

 証明はほぼ青木理論どおりにいく箇所が多いが変数が2倍になることにより一層議論が複雑になりかなりの努力とアイデアが必要とされる。またミニマムタイプということをフルに使って証明をうまく変更しないと通用しない箇所が多く,論文提出者の寄与は十分評価できる。また片岡が考察していたのは0

 よって,論文提出者李昌勳は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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