学位論文要旨



No 118436
著者(漢字) 川北,真之
著者(英字)
著者(カナ) カワキタ,マサユキ
標題(和) 3次元因子収縮写像の反標準因子系の一般元
標題(洋) General Elephants of Three-Fold Divisorial Contractions
報告番号 118436
報告番号 甲18436
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数第236号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川又,雄二郎
 東京大学 教授 堀川,穎二
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 教授 宮岡,洋一
 東京大学 助教授 小木曽,啓示
 東京工業大学 教授 藤田,隆夫
内容要旨 要旨を表示する

 高次元代数多様体の研究において,一つの中心的役割を担うのが極小モデル理論である.この理論は,マイルドな特異点しか持たない代数多様体に対してそれと双有理で調べやすい代数多様体を与える.両者は因子収縮写像およびフリップの合成で結ばれる.森が3次元でこの理論を完成させて以来,3次元代数多様体の明示的研究が期待されるようになってきた.本論文の目的は,修士論文を出発点として,3次元因子収縮写像で例外因子をGorenstein点に収縮させる射の明示的研究を完結させることにある.

 1980年代,Reidは3次元Gorenstein端末特異点の特徴付けを得た際に,それがDu Val特異点の1パラメータスムージングの全空間とみなせることに着目し,反標準因子が豊富となる3次元の適当な状況下では反標準因子系の一般元は高々Du Val特異点しか持たないであろうと指摘した.これは今日general elephant予想として知られている.3次元Q-Fano多様体については,Reid,Shokurov,高木による肯定的結果がある.また最も端緒な例証として,森による3次元フリップの存在定理がこの予想を証明することを通してフロップの存在に帰着させて得られることが挙げられる.本論文の主定理は,我々の3次元因子収縮写像に対するgeneral elephant予想の肯定的解決である:

 主定理.f:(Y⊃E)→(X∋P)を3次元因子収縮写像で例外因子EをGorenstein点Pに収縮させる射の芽とする.このとき,Eのまわりで|-KY|の一般元は高々Du Val特異点しか持たない.

 修士諭文の結果であるfの数値的分類定理は,本研究の出発点である.Yの特異点から小変形によって得られる端末商特異点の集合を〓とする.aはKY=f*KX+aEで定義される食い違い係数,vQは〓を満たす数である.d:=dimOX/f*OY(-2E),J:={(rQ,vQ)}とおく.数値的分類定理は次の通りである.

 数値的分類定理.fは次の中のただひとつの型に属する.

 主定理の証明の概略を述べる.P∈Xの一般超平面切断をHX,そのY上の双有理変換をHとする.fがO型あるいはI型のときは,H自身が|-KY|の一般元であってしかも高々Du Val特異点しか持たないことが簡単に分かる.fがII,III,IV型の場合が本質的である.1次元スキームC:=H∩Eを考えれば,その1次コホモロジーが消滅する点で,フリップの場合の類似となる.しかしながら両者の間には致命的な差が存在する.フリップの場合,例外曲線に台を持つ任意の閉スキームの1次コホモロジーが消滅するのに対して,我々のCについてはそれが成立しない.にも拘らず,PがGorenstein点という仮定の下では,数値的分類定理で情報を補うことでC⊂Yの局所構造の解析が可能となる.解析結果は|-KY|の一般元の挙動の様子を暗に含み,主定理を導く.例えば一般的場合の典型であるIII型のとき,Yはただ一つのnon-Gorenstein特異点Qを持つが,Qのまわりの局所構造の解析によって同型が得られる.ここから|-KY|はQの外で自由であることが従う.そこで|-KY|の一般元をSとすると,数値的結果からSとCのQにおける交点数は1/rと計算され,上同型を考えればSはAr-1型のDu Val特異点であると分かる.主定理は|-KY|がnon-Gorenstein特異点の外で自由であること,|-KY|の一般元がnon-Gorenstein特異点でDu Val特異点であることから導かれた.この方針が基本であるが,例外的な場合では,その場合に-KY-EがCartierとなることを用いて,|-KY|がnon-Gorenstein特異点の外で自由であること,|-KY-E|がnon-Gorenstein特異点で自由であること,Eがnon-Gorenstein特異点でDu Val特異点であることを示して主定理を得る.

 fがII,III,IV型の場合はgeneral elephant予想よりも強い主張が成立することを補足しておく.すなわち,|-KY|の一般元S上の任意の点Qについて,Du Val特異点Q∈Sの型は3次元端末特異点の芽としてのQ∈Yの一般Du Val切断の型に一致する.また,SのX上の双有理変換をSXとしたとき,Du Val特異点の部分解消S→SXの例外集合E|Sは高々2個の規約成分から成る.

 主定理と数値的分類定理からfの分類結果が得られる.収縮先PはGoren-stein端末特異点,従って孤立複合Du Val特異点であるが,その可能性は滑らかな点から複合E8点まで様々である.Pは滑らかに近いほど情報を持たなくなるため,一般には収縮先がPとなる因子収縮写像fの可能性は広くなって問題は難しくなる.逆にPが悪い特異点であるほど特異点の記述が複雑となり,個々の場合のfの可能性の研究は易しくなっても包括的な扱いは望めなくなる.結局,滑らかな点あるいは複合An点のときと,複合Dn点あるいはEn点のときに二分して,前者については完全といえるfの記述を与え,後者については食い違い係数aを制限することをもって記述とした.具体的には以下の定理を得た.なお,定理1(1)(2)は修士論文の結果である.

 定理1.(1)Pを滑らかな点とする.このとき局所座標系x1,x2,x3と互いに素な自然数s,tが存在して,fは重み(1,s,t)の重み付きブローアップとなる.逆にこうして得られる写像はすべて因子収縮写像である.

 (2)Pを複合A1点とする.このとき適当な同型が存在して,fは以下のひとつの重み付きブローアップとなる.

 1.互いに素な自然数〓が存在して,重み(s,2t-s,t,1).

 2.N=3で,重み(1,5,3,2).

 逆にこうして得られる写像はすべて因子収縮写像である.

 (3)Pを複合An点,〓とする.このとき次のひとつが成立する.

 1.適当な同型が存在して,fは重み(r1,r2,a,1)の重み付きブローアップとなる.ここでr1,r2は互いに素な自然数,aはr1+r2を割り切る自然数,gはx3,x4の重みa,1とする重み付き位数がr1+r2で,単項式x3(r1+r2)/aを含む.逆にこうして得られる写像はすべて因子収縮写像である.

 2.Pは複合A2点で同型を持つ.ここで〓は全位数4以上,Yはちょうど一つnon-Gorenstein点を持ち〓に同型で,食い違い係数aは3である.

 定理2.Pを複合Dn点またはEn点とする.このとき食い違い係数aは4以下である.

審査要旨 要旨を表示する

 論文提出者川北真之は,3次元代数多様体の因子収縮写像について研究した.

 3次元代数多様体に対してはすでに極小モデルの一般理論が完成している.それによれば,任意の双有理写像は基本的な双有理写像であるところの因子収縮写像とフリップのいくつかの積に分解することができる.したがって,これらの基本的な双有理写像を分類することは大きな意味がある.フリップに対してはすでに森およびKollarによる分類があるので,川北氏は因子収縮写像の分類について研究したのである.

 川北氏に先立つ結果としては,因子収縮写像の像が商特異点になる場合(川又)や通常2重点になる場合(Corti)が知られていたが,川北氏はこれを大きく前進させ,因子収縮写像の像がGorenstein特異点になる場合にはほとんど分類が完成したといってよいところまできた.主結果は次のようなものである:3次元代数多様体の因子収縮写像f:Y→Xにおいて,例外因子E⊂YがGorenstein特異点P∈Xにつぶれていると仮定する.このとき,Yの反標準線形系|-KY|の一般元は高々Du Val特異点のみを持つ.この結果は,Reidによる「general elephant予想」を因子収縮写像の場合に肯定的に解いたものであり,これを使えば因子収縮写像の分類が容易になることが経験的に知られている.なお,フリップの場合のこれに対応する予想は森およびKollarによってすでに解かれている.

 川北氏の結果によれば,Yの特異点の様子が詳細に記述できるので,単なるgeneral elephant予想の解決よりもはるかに完全な分類に近い.川北氏の結果を述べる.式KY=f*KX+aEによって数aを定義し,I={Q}をYの仮想的特異点のバスケットとする.各点Qのタイプは〓であるとし,J={(rq,vQ)}Qとおく.このとき,Jおよびaの可能性によって6種類のタイプ(O,I,IIa,IIb,III,IV)がある.|-KY|の一般元をSYとし,そのfによる像をSXとするとき,川北氏は各タイプに対してSXおよびSYを記述している.例えば,タイプIでは,J={(7,3)}または{(3,1),(5,2)}であり,a=2となる.このとき,SXもDu Val特異点のみを持ち,XはCE7-型かまたはCE8-型になる.また,タイプIIaではJ={(r,2)}の形となり,a=2または4である.このとき,SXはDr-型かまたはDr+1-型になり,SYはAr-1-型になる.

 以上の結果から,XがCA-型になる場合には完全な分類ができる.すなわち以下のことが成り立つ.まず,Xが滑らかならば,X上に適当な局所座標系が存在して,重み(1,s,t)の重み付ブローアップになる.ここで,s,tは適当な数である.XがCA1-型になる場合にも,fは重み付ブローアップになる.詳しく言うと,Xは方程式xy+z2+wN=0で定義された重み付超曲面になり,fの重みは〓となるか,またはN=3であり,重みは(1,5,3,2)となる.

 XがCAn-型(〓)になる場合には,fは重み付ブローアップになるか,またはn=2かつa=3で,Xは方程式xy+z3+g(z,w)=0で定義された重み付超曲面になり,Yはただひとつの非Gorenstein点を持ち,それは商特異点〓のなかでx2+y2+z2+w3=0で定義された重み付超曲面の特異点になる.

 一方,XがCD-型かまたはCE-型になる場合には,fの記述はより複雑になり,完全な記述はできない.しかし,fのタイプはO,I,IIaまたはIIbになることがわかり,〓がいえる.

 以上の結果は3次元多様体の双有理幾何学の発展に大きく貢献するものである.よって,論文提出者川北真之は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める.

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