No | 119440 | |
著者(漢字) | 佐藤,晋 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | サトウ,ススム | |
標題(和) | Beukers積分と対数関数の有理点における値の非2次無理数度 | |
標題(洋) | Beukers' integral and the non-quadraticity measure for the values of logarithm at rational points | |
報告番号 | 119440 | |
報告番号 | 甲19440 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第244号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 論文の目的:対数関数の有理点における値について,その数の非2次無理数度のよい不等式評価を与える. 主定理:ζ>1を有理数とする.また〓と仮定する.このときlogζに関して非2次無理数度は次の数を超えない.〓ただしInはBeukers型の積分列であって,以下のように-1/2log2ζ+πilogζ,πilogζ,1のQ係数線形結合で表せるものである.〓anは上に出ているように-1/2log2ζ+πilogζの係数であり,Dnは an, bn, cn の分母を同時に払うような数である.ここで非2次無理数度を説明しよう.固定された3次以上の無理数に対して,その数の2次無理数あるいは有理数での絶対値近似を考える.このとき近似する側の数の高さを基準にしてある程度以上はいい近似が得られないという限界が存在する.その限界のことを非2次無理数度と呼ぶ。 研究史:対数関数の有理点における値の非2次無理数度に関する研究を簡単にみる.H. Cohen[2]は線形再帰式を用いて,log2が非2次無理数度287.819をもつことを示した.後にE. Reyssat[3]は対数関数のPade近似を用いて,同じくlog2が非2次無理数度105をもつことを証明した.その後にM. Hata[4]はBeukers積分を用いる新手法でlog2の非2次無理数度を25.0463まで改良し,さらにHataはより一般にκが1以上の整数に対するlogκ+1/κの結果も与えている.ここでBeukers積分とは,Beukers[1]がζ(2)とζ(3)の無理数性を証明するときに用いた多重積分のことである. より広い範囲の有理数ζに対してlogζの非2次無理数度を改良しようとするのは自然な問題である.我々の研究の目的はHataの用いたBeukers積分をさらに一般化したものに対して基本的な結果を得ようとするものである. 証明の手法と章構成: 最初にこの論文で変形Beukers積分という積分を次のように導入する.〓ここにPn, Qnは負べきも含めたある整数係数の多項式であり,RζはRζ=(1,ζ)×(ζ-1, 1)なる矩形領域である.右辺の極限が存在することをこの章で保証する.またInを複素重積分に書き換えておき,のちの漸近的評価に備える. 第1章で導入したInは次のような別の表現を持つ.〓ここに an, bn, cn はある有理数である.そこでこの章で,Dnan, Dnbn, Dncn がすべて整数となるような共通分母Dnを計算する. 前章のInの表示より〓なるlogζとlog2ζの同時有理近似が得られる.ここからlogζの非2次無理数度の評価を行う.その際にlogζとlog2ζの係数であるDnan,また剰余項に関するInの漸近挙動を計算する必要がある. Dnの評価は第2章で既に議論されており,この章ではanとInに関して解析的な挙動を調べる.このとき2次元のsaddle point methodを用いる.これは昔からよく知られる1次元の複素積分の漸近挙動を調べる鞍点法を、高次元にも適用できるようにしたものである. 以上の結果を踏まえて、前掲の主定理を得る. | |
審査要旨 | 先ず、この論文の主定理は以下の通りである. 最初にこの論文で変形Beukers積分という積分を次のように導入する.〓ここにPn,Qnは負べきも含めたある整数係数の多項式であり,RζはRζ=(1,ζ)×(ζ-1,1)なる矩形領域である. 主定理有理数ζ>1が与えられているとする.また〓と仮定する.このときlogζに関して非2次無理数度は次の数を超えない.〓ただしInはBeukers型の積分列であって,次のように-1/2log2ζ+πilogζ,πilogζ,1の有理数係数線形結合で表せるものである.〓anは上に出ているように-1/2log2ζ+πilogζの係数であり,Dnはan,bn,cnの分母を同時に払うような数である. ここで言う「非2次無理数度」の定義を思い起こそう.ある与えられた,3次以上の無理数に対して,その数の2次無理数あるいは有理数での絶対値近似を考える.このとき近似する側の数の高さを基準にしてある程度以上はいい近似が得られないという限界が存在する.その限界のことを非2次無理数度と呼ぶ。 この論文に直接に先行する,対数関数の有理点における値の非2次無理数度に関する研究を簡単にみる.H. Cohen は線形再帰式を用いて,log2が非2次無理数度287.819をもっことを示した.後に E. Reyssat は対数関数のPade近似を用いて,同じくlog2が非2次無理数度105をもっことを証明した.その後にM. Hata[2]はBeukers積分を用いる新手法でlog2の非2次無理数度を25.0463まで改良し,さらにHataはより一般にκが1以上の整数に対するlogκ+1/κの結果も与えている.ここでBeukers積分とは,Beukers[1]がζ(2)とζ(3)の無理数性を証明するときに用いた多重積分のことである. より広い範囲の有理数ζに対してlogζの非2次無理数度を改良しようとするのは自然な問題である.この研究の目的はHataの用いたBeukers積分をさらに一般化したものに対して基本的な結果を得ようとするものである. この論文における新しい着想は、有理点における対数値の非2次無理数度を求める、あるいは改良するために、Beuker型の2重積分〓において、多項式Pと有理関数Qに5つのパラメータ A, B, C, D, E を持つ新しいモデルを導入した点にあり、その解析的および数論的性質を調べ上げ、M. Hata によって始められた"C-saddle method"が適用できることを示している.この論文で得られた結果は、例えば1, log2,ζ(2)の有理数体上の一次独立性のような未解決問題に対しても応用できる可能性を示唆している. 多重対数関数や超幾何級数などの特殊関数の値に関する研究は、Aperyによるζ(3)の無理性の証明やChudnovsky兄弟による先駆的な研究以降、特にここ十数年にわたって、多くの優れた研究者によって精力的に続けられており、新しい結果を出すことが極めて難しくなってきている. このような状況をみるとき、これまでに比してより一般的なモデル(おそらく2次元のBeuker積分の文脈では最も一般的なもの)を考察した佐藤氏の結果は、この方面の研究の将来のために有意義な指標足りうる. 以上の理由より、論文提出者 佐藤晋 は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. | |
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