No | 119443 | |
著者(漢字) | 千葉,康生 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チバ,ヤスオ | |
標題(和) | 分数ベキの特異点をもつ擬微分方程式のWKB解 | |
標題(洋) | WKB solutions for microdifferential equations with fractional power singularities | |
報告番号 | 119443 | |
報告番号 | 甲19443 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第247号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 次のような偏微分方程式を考える.〓ここで∂*は∂/∂*(*=x,z)を表し,各aj(x)(j=1,2,…,m)は正則であるとする. この方程式に合計3つの仮定を課す. 仮定1.P(x,Dx,Dz)の主表象σ(P)(x,ζ,ζ)は(0,0;0,√-1η)の近傍で次の形をしているものとする.〓ここでλは正の数,各αj(x)(j=1,2,…,m)は原点の近傍で解析的とする.さらに,各αj(0)(j=1,2,…,m)は互いに異なるものとする. 我々は方程式(1)において,超局所解析の考えに基づいて,∂zを大きいパラメータζとみなすことにする.つまり,〓という,大きいパラメータつきの作用素を考えることにする.ここで,Dxでd/dxを表すことにする. さて,この作用素に対して,次のような操作を行い変形する. まず,xmPを計算し,〓という分数ベキ変換をする.さらに,マイクロ函数をマイクロ函数に変換する,量子化Legendre変換〓を行う. 仮定2(Levi condition). k=1,2,…,mに対して,〓と仮定する.ただし,bk(x)は解析的である. すると,作用素Pは次のPLに変換される.〓ただし,c0(=Dmwの係数),c1,…,cmはζ-1Dwに関して0階の擬微分作用素である. 仮定3. PLに対して,次を仮定する.〓[KtS]の理論により,量子化接触変換することで,最終的に我々は〓という擬微分方程式を考えることになる.ここで,各βj(j=2,3,…,m)は互いに異なり,γk(k=1,2,…,m)は0階以下の擬微分作用素〓Xの元である. 以上の準備の下に,大きいパラメータの負ベキ,つまり小さいパラメータを含むWKB解を構成するのであるが,実際に構成するのは,境界値をもつようなマイクロ函数に作用するような擬微分作用素U(w,Dz)である.以下がその手順である. Pを次の2つの部分に分ける.〓ここで,〓の形に書ける.WKB法を用いる量子力学の言葉を借りれば,L0は古典力学が現れる項であり,Rは小さいパラメータを含む量子力学部分であると言える. そして解Uκ=Σ0j=-∞Ujκ(w,ζ)(κ=0,1,2,…)に対して,次のような逐次近似のスキームを入れる.〓このスキームは〓と同値になる.したがって,ここで問題になるのは収束性であるが,これは次の形式ノルムによって保証される. 定義1(正則型).U=Σ0j=-∞Uj(w,ζ)の各項Uj(w,ζ)は〓で正則とする.このとき,m'=0,1,2,…に対して,形式ノルムNm'(U;T)を次で定義する.〓ただし,〓とする. 定義2(非正則型).U=Σ0j=-∞Uj(w,ζ)の各項ひUj(w,ζ)は{w∈Ω(α)}∩Dv(α)で正則とする,このとき,m'=0,1,2,…に対して,形式ノルムNμm'(U;T)を次で定義する.〓ただし,〓であり,κ(m')はκ(0)=0,κ(m')=m'-1(m≧1)を満たすものとする. 以上のノルムに基づいて,L0およびRを評価し,次の定理を得る. 定理3(正則型).U0≡U00を〓での,LU0=0の,ζに関して0次斉次な任意の解とする.各Uκ=Σ0j=-∞Ujκ(κ=1,2,…)はDv/2で〓を満たす形式表象とする.このとき,U=Σ∞κ=0Uκは形式ノルムNm(-;T)に関して〓上一様収束し,擬微分方程式〓の解となる. 非正則解に関しても領域を変えれば同様の結果が成り立つ. | |
審査要旨 | 本論文提出者は,分数ベキの特異点を持つ擬微分方程式のWKB解に関する研究を行った。すなわちx=0でm重の変わり点をもち,大きいパラメータζを含む,R上の解析的常微分方程式〓を考える.ここでaj(x)=Σjκ=ajκ(x)ζκと書けて各ajκ(x)はx=0の近傍で解析的であり,適当な自然数λとx=0における解析関数α1(x),…,αm(x)に対し作用素Pの主シンボルは原点の近傍で〓と書けるものである.論文提出者の研究課題はこの方程式のx=0付近での解の構造の研究を,いわゆるWKB解析の手法をとらずに,超局所解析の方法を用いて数学的に厳密に行い,その結果をWKB解析での結果と比較研究することである.WKB解析については最近京都大学数理解析研究所のグループを中心として,いわゆる「精密WKB解析」の名前で精緻な研究が続けられているが,発見的手法で構成した漸近的解に対して真の解が存在するのか,またなぜそのような方法が有効なのか,など理論的に解明すべき点は残されている.超局所解析による方法とはこれに対し最初から精密な理論的解析に基づく方法でこの問題を研究する.すなわち大きなパラメータζを逆に偏微分作用素ζ=∂tととらえて2変数の偏微分方程式〓を考える.このとき,この方程式の任意の超局所解(マイクロ関数解)のtに関する部分フーリエ変換(または部分ラプラス変換)は最初の方程式の漸近解に対応することが容易に示せる.他方,このこのような主シンボルをもつ偏微分方程式は特に各αj(x)が実数値である場合,x=0に多重特性根をもつ双曲型方程式に対する解の特異性分岐問題,として多変数の場合も含めて多くの数学者によって研究されてきた.特に天野-中村(C∞級係数の場合),高崎(実解析的係数の場合)らによるパラメトリックスの構成が際だっている.しかし彼らの方法は相関数を用いて解を振動積分の形に表していく,という,昔からの方法によるので最終的に問題をある種の不確定特異点を持つ常微分方程式のストークス解析に帰着せぎるを得ない.この場合,m=2のときは対応する常微分方程式が昔からよくわかっているのでよいが,m≧3のときの構造を具体的に解析することは困難であった.これに対し山根は博士論文の中で片岡による,分数ベキ座標変換と量子化Legendre変換の方法によるアイデア,に基づきm=2,3のときの具体例について,解の構成および特異性分岐の問題がRiemann球面上にm+1個の確定特異点をもつ極めて具体的な常微分方程式の解の構造の解析に帰着されることを示した.実際,m=3,λ=1のときの分岐条件を具体的に与えることにも成功している.しかしm=3,λ=1のときであっても係数関数が一般であれば分数ベキ座標変換の副作用としてx1/(λ+1)のような,x=0にベキ型の特異性をもつ関数が係数に現れる.実際,このような関数をこの種の問題で重要となる,ヘビサイド関数Y(x)にかけることは通常の超関数論では許されていない. 論文提出者はこのような状況下で一般のmおよび係数関数に対し,山根のいう,Pure-solutionsを構成することを目指した.それには,まず問題の特殊性を使えばこのような特異な掛け算を正当化ができること,しかも量子化Legendre変換の下ではそれが正則パラメーターをもつ大域的なマイクロ関数に対する分数ベキ微積分作用素に対応することを示した.次にいわゆ低階項に対する Levi 条件の下では分数ベキ項の影響は解の特異性の主要項には影響を与えず,山根が与えた Riemann 球面上のm+1個の確定特異点をもつ常微分方程式がやはり解の特異性の主要項を支配することを示した.そして最終的に,片岡-佐藤芳光らによる,フックス型擬微分方程式に対する形式シンボル型の正則パラメータつきマイクロ関数解の構成法にならい,Riemann球面上で逐次近似的に形式シンボル型解を構成するのに成功した.この形式シンボル型解を逆量子化Legendere変換すれば直ちに元の方程式に対する,特異性が最小のマイクロ関数解,すなわち Pure-solutions が得られる. 所期の目的であったWKB型解との比較研究までには至らなかったが,解の構成にあたって通常の超局所解析の枠を越える,ベキ型特異性を持つ演算を正当化して有効に用いたことは高く評価できる.特にその逐次近似法においては片岡-佐藤の場合よりはるかに困難な,摂動項が分数ベキ特異性をもつだけでなく主導項と同じ階数をもつ,という状況下で独創的な対処法を発見して収束の評価を得たことは極めて高く評価でき,結果とともに今後この方面の発展に大きく寄与すると思われる. よって,論文提出者 千葉 康生は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 | |
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