No | 119444 | |
著者(漢字) | 中山,季之 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカヤマ,トシユキ | |
標題(和) | 確率微分方程式と数理ファイナンス | |
標題(洋) | Stochastic Differential Equations and Mathematical Finance | |
報告番号 | 119444 | |
報告番号 | 甲19444 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第248号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文ではサポート定理(確率微分方程式の解のパスの分布のサポートを記述)と BSDH(バックワード型確率微分方程式)に関する考察が中心となる.主な研究動機は数理ファイナンスにおける次の2つである.1.金利モデルの一種である HJM (Heath-Jarrow-Morton) モデルにおける SPDE(確率偏微分方程式)から発生し得る金利の期間構造を特徴付ける.2.マルコフ型とは限らない BSDE の時間と空間を離散化して数値的に解く方法の開発とその正当化.ここでいうHJMモデルにおけるSPDEとは,Bjをブラウン運動として〓のような形をしている.このような形のSPDEを Da Prato and Zabczyk の流儀に従って無限次元のSDEとして意味付けることが数理ファイナンスにおいてしばしば行われる.無限次元のSDEに対するサポート定理としてはAidaによる結果があるがこの場合に適用することはできない.この場合も含むようにサポート定理を拡張することができれば,不変性定理(SDE の解が特定の集合に留まるための必要十分条件を与える)が証明でき,金利モデルにおける "consistency problems" (Bjork,Filipovic 等) においても意味をなす.またデリバティブを評価する際,満期におけるキャッシュ・フローを終端条件とした確率微分方程式が登場することがしばしばある.これらをBSDEの問題として研究したものとしてはKaroui,Peng and Quenez等がある.数理ファイナンスに登場するBSDEはマルコフ型とは限らないが,非マルコフ型の場合にはまだ数値計算手法が確立されていない. 以上に述べたことを動機として,本論文では主に次の2つの問題を解いた.1.無限次元SDEに対するサポート定理の拡張 2.マルコフ型とは限らないBSDEに対して時間と空間を離散化したバックワード型確率差分方程式の構築とその収束証明 さらに1を使って不変性定理を証明した.2に関してはBSDEを差分近似したものが元のBSDHへ収束することを証明するために,ポーランド空間上の確率変数と確率測度の組からなる空間上のある距離に関する収束定理を構築した. 以下ではここに掲げた2っの問題について概略を述べる.1については可分ヒルベルト空間H上のSDE〓の mild solution(下式参照)に対するサポート定理の構成を行った.ここでA:D(A)→HはH上の任意の(C0)-半群(S(t))t≧0の生成作用素(先の例の1階の微分作用素だけに限らない)であり,(B(t))t∈[0,T]は可分ヒルベルト空間Uに値を取るQ-ウィナー過程(Da Prato and Zabczyk の意味,QはU上の核型狭義正定値作用素)であり,bやσにはある条件を課す.なお,有限次元SDEに対する結果として Stroock and Varadhan や Aida, Kusuoka and Stroock そして Millet and Sanz-Sole 等による結果がある.無限次元SDEに対しては,Aに関する項が無い場合のAidaによる結果がある.今回は解がD(A)に留まるようにできない可能性があり,一般には〓と書けないので,方程式〓により定義される mild solution (Da Prato and Zabczyk) を考える.従って今回は伊藤の公式による計算等ができないといった困難がある. 次に空間U0=Q1/2(U)を考え,区分的連続微分可能な写像h : [0,T]→U0でh(0)=0をみたすようなものの全体をC1で表し,写像h∈0C1対して次の微分方程式の mild solution をξ(・)=ξ(・;h)と表す.〓但しρ: H→Hはある仮定の下に定義される「修正項」である.そして集合L={ξ(・;h);h∈C1}⊂C([0,T];H)を考える.以上の設定下で〓が成り立つことを本論分では証明した.但し,supp X(・)はC([0,T];H)における分布PoX-1のサポートを表し,LはLのC([0,T];H)における閉包を表す. 次に2番目の目標であるBSDEに関して述べる.W=D([0,1];Rm)上の coordinate mapping process を(B(t))t∈[0,1], 即ちB(w,t)=w(t),w∈W, t∈[0,1]とし,W上の標準 Wiener measure をμとおく.さらにフィルトレーションF(t)=∩ε>0σ{B(s);s≦(t+ε)∧1}を導入する.対象とするBSDEは(W,μ)上の(Y,Z)に関する次のような方程式である(一般性を失うことなく区間[0,1]で考える).〓即ち次の確率積分方程式をみたす解(Y,Z)を考える.〓但し*は行列の転置を表わす.写像f:W×[0,1]×Rd×Rm×d→RdやF(1)-可測な写像ξ:W→Rdにある条件を与え,解の存在と一意性を最初に証明したのは Pardoux and Peng である 本論文で構築した差分方程式について述べるために記号の準備をする.一般の位置にあるe1,e2,…,em+1∈Rmをとる.即ち{e1-em+1,e2-em+1,…,em-em+1}は線形独立である.さらにp1,p2,…,pm+1∈(0,1)が与えられていて〓がみたされている状況を考える.但しIはm次の単位行列とする.ある確率空間 (ΩN,FN,PN) 上の独立で同分布に従うRm-値確率変数ηN(n),n=1,2,…,Nを,分布がPN(ηN(n)=ei)=piで与えられるように取る.ランダムウォークを次のように定義する.〓このランダムウォークに対して次のような連続時間確率過程を考える.〓 (ΩN,PN)上で次のような(yN,zN)に関するバックワード型の確率差分方程式を考える.〓但し離散時間確率過程(x(n))に対してΔx(n)=x(n)-x(n-1),n=1,2,…Nと定めた.十分に大きいNに対してこの差分方程式の解の存在と一意性をまず証明した.連続時間確率過程(yN(t),zN(t))t∈[0,1]を〓により定義する([x]はxを超えない最大の整数,[x]はxを下回らない最小の整数).以上の設定下で,W×D([0,1];Rd)×L2([0,1];Rm×d)上の分布の弱収束の意味で〓が成り立つことを本論分では証明した. | |
審査要旨 | 本論文では確率微分方程式の解が与える連続関数空間上の確率分布の台を決定するという問題を考察している。 可分ヒルベルト空間H上の確率微分方程式〓を考える。ここでA:D(A)→HはH上の(C0)-半群 (S(t))≧0の生成作用素であり,(B(t))t∈[0,T]はある可分ヒルベルト空間Uに値を取るQ-ウイナー過程(Da Prato-Zabczyk の意味,QはU上の核型狭義正定値対称作用素)であり,b:H→Hやσ:H→L2(U0;H)はある正則条件を満たすと仮定する (U0はU0=Q1/2(U)で与えられるヒルベルト空間)。この方程式に対する mild solution とは以下の確率積分方程式の解である。〓 この mild solution の与えるC([0,T]→H)上の確率測度の台を supp X(・) で表すことにする。 区分的に連続微分可能な関数h:[0,T]→U0でh(0)=0をみたすようなものの全体をC1で表し,h∈C1に対して次の微分方程式の mild solution をξ(・)=ξ(・;h)と表すことにする。〓但しρ:H→Hはある「修正項」である。C([0,T];H)の部分集合LをL={ξ(・;h);h∈C1}で与える。 以上の設定の下で、次のサポート定理を示した。 定理 suppX(・)=L但し,LはLのC([0,T];H)における閉包を表す。 サポート定理は有限次元空間上の確率微分方程式に対しては Stroock-Varadhan らの結果があり、無限次元の場合は会田による結果がある。しかし、Aが非有界である場合の一般的枠組みでのサポート定理は本論文で初めて示された。証明も pinned Brownian motion の導入など、新しい方法が用いられている。 論文ではまた、このサポート定理のファイナンスに対する以下のような応用も論じている。金利の期間構造を記述するモデルとして、以下のような確率偏微分方程式が用いられる。〓この方程式の解が特定の集合にとどまるための条件をサポート定理を用いて示した。この結果は Bjork, Filipovic らの結果の拡張となっている。 論文ではまた Backward な確率微分方程式の差分近似の問題も取り扱っており、ブラウン運動をランダムウォークで近似した場合に対応する Backward な確率差分方程式の解が Backward な確率微分方程式の解に法則の意味で収束することを示している。Backward な確率微分方程式に対しては、このような極限定理は今まで知られていなかった。この結果は Backward な確率微分方程式の数値計算の道を開くものである。 このように本論文では確率微分方程式の理論的研究のための新しい方向性を打ち出し、有効な定理を示しており、高く評価できるものである。 よって、論文提出者 中山 季之 は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める。 | |
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