No | 119445 | |
著者(漢字) | 深谷,竜司 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | フカヤ,リュウジ | |
標題(和) | 最適ポートフォリオ戦略における確率的流れの応用について | |
標題(洋) | Application of Stochastic Flows to Optimal Portfolio Strategies | |
報告番号 | 119445 | |
報告番号 | 甲19445 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第249号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 数理ファイナンスの分野において,多期間最適ポートフォリオ問題は古典的な問題である.Merton(1969, 1971) は証券価格が係数が定数であるような伊藤型確率微分方程式の解で与えられ,短期金利が固定値であり,投資家の効用函数が Hyperbolic Absolute Risk Aversion 型 (HARA 型) の場合の,投資家の多期間最適ポートフォリオ問題を定式化した.確率的多期間最適化問題に確率制御の手法を適用し,対応する非線型偏微分方程式 (Hamilton-Jacobi-Bellman 方程式) を解くことで,具体的な最適ポートフォリオ戦略を与えた.しかしながら,金融資本市場の実証分析の結果から,価格過程の係数や短期金利が定数(つまり,investment opportunity set が決定論的)との制約を緩めた問題の重要性が認識されるようになった.investment opportunity set が確率的である場合,最適ポートフォリオ戦略が myopic portfolio と,将来の金融環境の変化に対応してこれらをヘッジするような部分即ち nonmyopic portfolio に分解されること,さらに nonmyopic portfolio の挙動に対する研究が金融経済学における重要なテーマとなった.一方,派生商品の価格付け理論において成功をおさめたマルチンゲール・アプローチを多期間最適ポートフォリオ戦略に適用し,investment opportunity set が確率的な場合においても適用される一般的な手法を構築したのが,Karatzas-Lehoczky-Shreve(1987) と Cox-Huang(1989) である.確率的多期間最適化問題と同値な静的最適化問題を導出し,convex duality アプローチを用いて最適消費率と最適最終消費をそれぞれ確率過程および確率変数として求める.これらからポートフォリオ過程を定義して,これに対してマルチンゲール表現定理を適用し最適ポートフォリオ戦略を求めた.更に Ocone-Karatzas(1991) は Malliavin Calculus と Clark-Ocone 公式を適用して,最適ポートフォリオ戦略の解を Malliavin 微分の条件付き期待値計算に帰着できることを示した.Detemple-Garcia-Rindisbacher(2003) では investment opportunity set の確率的挙動が複雑な場合においても,Monte Carloシミュレーションなどを用いてポートフォリオを数値計算することが可能であることを示した.また Takahashi-Yoshida(2001) は Malliavin Calculus と漸近展開法を組み合わせて最適ポートフォリオ戦略の解析的近似解を与える方法を導いた. 本論文では,最適ポートフォリオ戦略をモンテカルロ・シミュレーション等で確率論的に計算するために確率的流れを応用した新しいフレームワークを考察する.考察対象とする投資家の効用函数に経済状態に依存する要素を加えて,従来研究されてきた多期間最適ポートフォリオ問題を拡張する.証券価格や短期金利の確率微分方程式の係数が,あるマルコフ過程の函数として与えられる金融資本市場を考え,これらの設定のもと,最適ポートフォリオ戦略がフィードバック・コントロール解として求めるための十分条件を与える.このフィードバック・コントロール解は推移半群を作用させて得た新たな函数の有理式として表現され,即ちミューチャル・ファンド分離定理の一種の拡張となっていることに注意する.(Theorem 2.2.1) また,効用函数がHARA型で一定の条件を満たすとき,よりチェックしゃすい十分条件を与えた.(Theorem 2.5.3, Theorem 2.5.4) また,株式-債券- -キャッシュ配分問題 (Section 2.6) や日本債券市場における最適ポートフォリオ戦略 (Chapter 3) などを具体的に考察する.以下,メインとなる主張を概説する. 経済状態を表す確率変数,X(t)はRn-値連続確率過程,X(t)=(X1(t),…,Xn(t)).X(t)は次の位置パラメータ付き伊藤型確率微分方程式の解であるとする.〓時間tにおける短期金利を rt=r(t,X(t)) で定める.d個の証券価格をSi(t),i=1,…,dとする,但しSi(t)はR-値確率過程で次の確率微分方程式の一意的な解とする.〓次の確率過程を定義する.0≦s≦t≦T, x∈Rnに対して,〓 g0(t,x),g1(t,x)…,gd(t,x)およびh0(t,x),h1(t,x),…,hd(t,x)はそれぞれ[0,T0]×RnからRへの函数とし,0≦s≦t≦T0およびx∈Rnに対して位置パラメータ付き確率過程を次のように定義する.〓, 〓 U0 : (w0,∞)→Rおよびu0:(C0,∞)×[0,T0],但しw0≧0, c0≧0を決定論的効用函数とする.I1:(0,∞)×[0,T0]→(c0,∞)およびI2:(0,∞)→(w0,∞)をそれぞれ∂u0/∂w,U'0の逆函数とする. 状態に依存する函数U:(w0,∞)×Ω→Rおよびu:(C0,∞)×[0,T0]×Ω→Rを次で定める.〓以上の設定のもと,状態に依存する効用函数 V:D→Rを次式で定義する.〓 函数,H:Θ→R,G:Θ→R,Xi:Θ→R,i=1,…,d,但しΘ:(0,∞)×Rn×(0,∞)×(0,∞)×[0,T0],を次のように定義する:(ξ,x,ζ,v,t)∈Θに対して,〓,〓. i=1,…,nに対して,〓.次の定理が成立する. 定理:効用函数のregularity等に関する条件((U1),(U2)),係数函数に対するregularityおよび市場の完備性に関する条件((S1),(S2),(S3),(S4),(S5),(S6),(S7)),確率過程の可積分性条件((A1),(A2)),初期の富に関する条件(Assumption1.4.1)を仮定する(各条件は本論文1.4で与えた).このとき,多期間最適ポートフォリオ問題〓に対して最適ポートフォリオ戦略〓(t)が存在する.〓(t)は次のようなフィードバック・コントロール解として与えられる:〓 定理:投資家の効用函数が次のようなHARA型であると仮定する.〓但し,0<γ≦1は共通であり,β>0とする.γ=1の場合は対数型効用函数と解釈する.このとき,次の条件が成立するならば,可積分性条件(A1),(A2)が成立する:任意のコンパクト集合K⊂Rnと任意の実数p∈R\{0}に対して,〓 | |
審査要旨 | 本論文は最適ポートフォリオ戦略に関して研究したものである。最適ポートフォリオ戦略の研究は1970年頃のMertonによる結果が出て以降多くの研究が現れている。本論文では証券価格や短期金利の確率微分方程式の係数が,確率微分方程式で与えられる拡散過程の函数として与えられる完備な金融資本市場を考え,最適ポートフォリオ戦略がフィードバック・コントロール解として求めるための十分条件を考察している。 本論文の大きな特徴は、最適ポートフォリオ戦略をモンテカルロ・シミュレーション等で計算するために確率的流れを応用した新しい公式を与えている所にある。考察対象とする投資家の効用函数に経済状態に依存する要素を加えており,従来研究されてきた多期間最適ポートフォリオ問題の一般化も行っている。また、効用函数がHARA型で一定の条件を満たすとき,チェックしやすい十分条件を与えた。 以下,本論文の内容を特別な場合に限り説明する。現れる関数はすべて適当な滑らかさと増大度を持つものとする。X(t,s,x), 0≦s≦t≦T,x∈Rn, を次の位置パラメータ付き伊藤型確率微分方程式の解であるとする。〓さらに、x0∈Rnを固定し、経済状態を表す確率変数X(t)はX(t)=X(t,x0)で与えられるものとする。時間tにおける短期金利をrt=r(t,X(t))で定める。d個の証券価格をSi(t), i=1,…,d,とする。但しSi(t)は確率過程で次の確率微分方程式の一意的な解とする。〓II(t;s,x), 0≦s≦t≦T, x∈Rn, は対応する状態価格デフレーターとし、Δ(t;s,x), E(t;s,x), 0≦s≦t≦T, x∈Rn, は乗法的汎関数とする。 w0≧0, c0≧0とし、U0 : (w0,∞)→R, u0 : (c0,∞)×[0,T0]→Rは適当な条件を持つ関数、I1 : (0,∞)×[0,T0]→(c0,∞)およびI2 : (0,∞)→(w0,∞)をそれぞれ∂u0/∂w, U'0の逆函数とする。状態に依存する函数U : (w0,∞)×Ω→Rおよびu : (c0,∞)×[0,T0]×Ω→Rを次で定める。〓以上の設定のもと,状態に依存する効用函数Vを次式で定義する。〓この効用関数を最大にする許容されたポートフォリオ戦略を求めることが目的である。 本論文では、先ずTheorem2。2。1で、ある適当な条件の下、最適ポートフォリオ戦略が存在し、それがII(t;s,x), Δ(t;s,x), E(t;s,x), X(t;s,x) 0≦s≦t≦T, x∈Rn, 及びそれらのxに関する微分を用いて表現できることを示した(式は非常に長いので省略する)。 つぎに関数U, uが次のようなHARA型である場合を考察した。〓但し,0<γ≦1,β>0。(γ=1の場合は対数型効用函数と解釈する)。このとき,Theorem 2。5。3, 2。5。4 において、ある適当な条件の下で、最適ポートフォリオ戦略は連続過程となり、それが計算実行可能な公式で表現できることを示した。 第2章の最後ではこれらの結果に基づき株式-債券-キャッシュ配分問題を考察して最適ポートフォリオ戦略の数値計算を実行している。第3章では日本債券市場における最適ポートフォリオ戦略を具体的に考察している。 このような一般的な条件の下で数値計算が実行可能な公式を与えたのは初めてであり、本論文は最適ポートフォリオ戦略と数値計算について新しい方向性を生み出したものとして高く評価できるものである。 よって、論文提出者 深谷 竜司は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める。 | |
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