No | 119448 | |
著者(漢字) | 宮本,安人 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ミヤモト,ヤスヒト | |
標題(和) | S1上の半線形放物型方程式のヘテロクリニック軌道について | |
標題(洋) | ON CONNECTING ORBITS OF SEMILINEAR PARABOLIC EQUATIONS ON S1 | |
報告番号 | 119448 | |
報告番号 | 甲19448 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第252号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | S1=R/Z上の関数空間X=C1(S1)内における,次の半線形放物型方程式について考える. ここで,非線形項fは次の3つの条件を満たすと仮定する. (A1) 関数f : R×R→RはC3級関数で,f(・,0)は有限個の根を持つ.この根をrj(j=1, 2, …, N)とする. (A2) ある定数Lが存在し,|u|>Lにおいてu・f(u, 0)<0. (A3) ある定数L'が存在し,|p|>L'においてfu(u, p)≦0. このとき,任意の関数uo(x)∈Xを初期関数とする解は時間大域的に存在し,X内の半群Φtを生成することが知られている.また,X内にグローバルアトラクターと呼ばれる極大で連結,コンパクトで半群Φtに関して不変な集合が存在し,(1)のすべての解がこの集合に引き寄せられることが,半線形放物型方程式の一般論から直ちにわかる.さらに,すべての解は次の方程式〓を満たすU(ζ)(ζ=x-ctここでcは定数)の形の解に近づくことが俣野[2]と Angenent-Fiedler[1]により示されている.ここで,(2)の解U(x-ct)は,c=0のとき定常解,c≠0かつ定数解でないとき rotating wave と呼ばれる.以降,二つの解をまとめて波と呼ぶことにする.また,U(ζ)が(2)の解であるとき,U(ζ+θ)(θ∈S1)も解であるので,平行移動により解を同一視する.全ての波をこの同一視によって割った商集合をSと表すことにする. グローバルアトラクターは rotating wave と定常解と,それらの波を繋ぐヘテロクリニック軌道と呼ばれる(1)の解(すなわち,t→-∞では波vに近づき,t→+∞では別の波wに近づくような軌道)の3種類の解からできている.従って,波の数#Sと各波の形(モード数)がわかっている場合,グローバルアトラクターの幾何的な構造を解析するためには,どの波とどの波がヘテロクリニック軌道で繋がっているか,また繋がっていないかを調べればよい. 本論文で以下のことが証明された.まず,すべての波の数#Sの下からの評価を得た(定理A).具体的には,〓ここで,[[y]]:=-[-y]-1, [y]はyを超えない最大の整数,(y)+:=max{y, 0}. またすべての波が双曲的(hyperbolic)で,各波のモース指数が奇数またはゼロならば,どの波とどの波がヘテロクリニック軌道で繋がっているか,または繋がっていないかを,完全に判定できることを示した(定理B).さらに,(3)で等式が成立する場合,各波のモース指数が奇数またはゼロになり,よって,定理Bの仮定を満たし定理Bの結論が成り立つことを示した(定理C).また,非線形項fがuのみに依存する場合,定理Cの仮定が成り立つような,非線形項についての一つの十分条件を得た(定理D).最後に,後述のように,各波の位置関係とモース指数には密接な関係があることを示した(補助定理E). 証明の鍵となったのは,次に述べる波の間の順序関係の存在である.波u(x, t)=U(ζ)について,Uの値域をR(u)とする.このとき,次のような順序関係を入れる.〓R(u)∩R(v)≠ならば.必ずR(u)⊃R(v)かR(v)⊃R(u)であることが示されるので(俣野-中村[3]や本論文の補助定理4.1),u〓vかv〓uとなる.従ってSは半順序構造を持つ.この半順序構造から,波のモード数と2つの波の差のゼロ点(後述)を決定することができる. まず2つとも定数解でない波uと波vが上記で定義された順序〓で隣接しているとき,すなわち.u〓w〓vとなるwが存在しないとき,その2つの波のモード数の差の絶対値が0または2であることを示した.この事実と[1]の結果を用いると,任意の隣接する2つの波の一般化されたモース指数(通常のモース指数以上の整数で最小の偶数)の差の絶対値も0または2であることがわかる.次に,[1]や[3]から波uと波vが定数でないならば,u〓vのときにz(u-v)=z(ux)であることがわかる.ここで,z(u)は次のように定義される関数のゼロ点の数である.z(u(・, t))=#{x∈S1|u(x, t)=0}, このu-vのゼロ点の数と,uとvのモース指数の情報から,ゼロ点の非増大法則と[1]の結果を用いて,ヘテロクリニック軌道が存在するかどうかを決定した. | |
審査要旨 | 論文提出者宮本安人は,一次元有界区間上の周期境界条件下における半線形放物型方程式を考察し,方程式が定める力学系の大域アトラクターを構成している解のうち,定常解または回転波解を結ぶヘテロクリニック軌道の存在・非存在を,条件付ながら完全に決定した. 論文提出者が考察したのは,S1=R/Z上の次の半線形放物型方程式である.〓 ここで,非線形項fは次の3つの条件を満たすとする.(A1)f:R×R→Rは実解析的関数で,f(・,0)は有限個の根を持つ.(A2)ある定数Lが存在し,|γ|>Lにおいてγ・f(γ,0)<0.(A3)ある定数"が存在し,|p|>L'においてfu(u,p)<0 このとき,任意の関数u0(x)∈Xを初期関数とする解は時間大域的に存在し,X内の半群Φtを生成することが知られている.また,X内に大域アトラクターと呼ばれる極大でコンパクト,半群Φヵに関して不変で連結な集合が存在し,(1)の全ての解が引き寄せられることが,半線形放物型方程式の一般論から直ちに分かる.さらに,すべての解は次の方程式〓を満たすU(ζ)(ζ)(ζ=x-ctここでcは定数)の形の解に近づくことが俣野(1988)と Angenent-Fiedler (1988) により示されている.ここで,(2)の解U(x-ct)は,c=0のとき定常解,c≠0かつ定数解でないとき回転波解と呼ばれる. 一次元有界区間上の半線形放物型方程式のダイナミクスや大域アトラクターに関する研究は,1970年代後半から盛んに研究されてきた. 以下の Dirichlet 問題(3)と Neumann 問題(4)の場合,大域アトラクターは定常解とヘテロクリニッ軌道のみからなることが一般論から分かり,周期境界条件(1)の場合は,俣野-中村(1997)により定常解と回転波解とそれらを結ぶヘテロクリニック軌道のみからなることが示されているので,どの解とどの解がヘテロクリニック軌道で繋がっているかを調べることが重要となる.いくつかの基礎的な事実に関する結果や部分的な解決を経た後に,以下の二つのような結果にまとめられた. まず,Brunovsky-Fiedler (1989) は Dirichlet 境界条件下における次の放物型方程式のヘテロクリニック軌道の存在・非存在を次の意味で完全に決定した.〓すなわち,全ての定常解のx=0における微分係数と,その定常解のモード数のみから,どの定常解とどの定常解が繋がっているか,繋がっていないかを完全に判定することができる. Fiedler-Rocha (1996) は Neumann 境界条件下における,以下のより一般の非線形項を持つ放物型方程式のヘテロクリニック軌道の存在・非存在を次の意味で完全に決定した.〓すなわち,{Uj(x)}Nj=1(U1(0)<U2(0)<…<UN(0))を(4)の定常解の集合とする.数列(U1(1),U2(1),…,UN(1))を大きい順に並べ替える置換のみから,どの定常解とどの定常解が繋がっているか,繋がっていないかを完全に判定することができる. Angenent-Fiedler (1988) は(1)の,回転波解または定常解を結ぶヘテロクリニック軌道が存在することを示した.しかし,全ての定常解と回転波解の形状(最大値・最小値とモード数)が分かっている場合に,どの解とどの解が繋がっているか,さらにこれらのヘテロクリニック軌道の存在・非存在を特徴付けるような上記の数列や置換のようなものが存在するか,という問題は未解決のままだった. 論文提出者は,定常解と回転波解の最大値と最小値に着目し,値域の包含関係による順序を導入し,この順序による各解の配列と,モード数の間にある法則を発見,証明し,これらの解が完全には自由な位置関係がとれないことを示した.この位置関係とモード数から,数列の集合(以後ストラクチャーと呼ぶことにする)を定義し,各解のモース指数が奇数またはゼロであるならば,ストラクチャーによりどの解とどの解が繋がっているか否かを,完全に判定できることを示した. 鍵となる補題の証明中に次を示した.パラメーターcに依存する常微分方程式系(5)が閉軌道を持つとき,それがcに連続的に依存する.〓ここで閉軌道の非退化性などは仮定されておらず,これ自身興味深い結果である.また,パラメーターに依存する相図を扱う問題に対して,新たな手法を提示したものとして技術的な面においても高く評価できる. 以上の諸点を考慮した結果,論文提出者宮本安人は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める. | |
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