No | 119452 | |
著者(漢字) | 吉田,輝義 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヨシダ,テルヨシ | |
標題(和) | 消滅サイクルによる非可換ルビン・テイト理論について | |
標題(洋) | On non-abelian Lubin-Tate theory via vanishing cycles | |
報告番号 | 119452 | |
報告番号 | 甲19452 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第256号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 消滅サイクルによる非可換 Lubin-Tate 理論とは,局所体上のGLnに関する局所 Langlands 対応の本質的部分が高さnの形式OK加群の変形空間の消滅サイクルコホモロジー群上に実現していることを主張したものであり,Deligne-Carayol により予想された ([Car]).この予想は Harris-Taylor による局所 Langlands 対応の証明 ([HT]) に伴って,志村多様体の大域的理論を駆使して証明されたが,本論文では,この予想の特殊な場合(Galois 表現が馴分岐の場合)が,大域的方法に依存せずとも,形式OK加群の変形空間の方程式を計算しその適当なブローアップを調べるという純局所的な方法で本質的に証明できることを示す.この証明は,局所体の剰余体(有限体)上の簡約代数群の表現を代数多様体のl進コホモロジーの中に実現する Deligne-Lusztig 理論と関係づけるという方法で行う. 主結果を説明するためにまず記号を導入する.Kをp進体Qpの有限次拡大,その整数環をOK,剰余体をkとする.さらに素元πを一つ選び,これを固定する.Kの最大不分岐拡大の完備化Kurの整数環をW=OurKとする.Kurの絶対 Galois 群はKの惰性群IKである.自然数n≧1に対して,レベルπをもつ高さnの形式OK加群の変形空間をXとすると,これはW上の相対次元n-1次元の正則な完備局所環のスペクトラムである (Drinfeld [Dr]).このスキームの幾何的生成ファイバーXη=X×SpecW SpecKurのl進エタールコホモロジー群Hi(Xη, Ql)(lはkの標数と異なる)を左GLn(k)×IK-加群として考える. 一方,代数群GLn(k)およびそのWey1群(n次の対称群)の元(1,…,n),言い換えるとknをkのn次拡大として有理点群T(k)がk×nとなるようなGLnの部分トーラスTに対応する Deligne-Lusztig 多様体(k上の滑らかなアフィン代数多様体)をDLとする.この多様体はGLn(k)×k×nの右作用を持ち,標準全射IK→k×nによってコンパクト台エタールコホモロジー群Hic(DL, Ql)は左GLn(k)×IK-加群となる、これらのコホモロジー群の交代和を次のように表し,GLn(k)×IKの左作用をもつQl上の有限次元ベクトル空間のなす Grothendieck 群の元と考える:〓以上の記号により,本論文の消滅サイクルコホモロジー群に関する主定理は次のように述べることができる:定理1(論文 Theorem 6.16).(i) Grothendieck 群の元として,H*(Xη)=H*(DL).(ii) 各iに対するHi(Xη, Ql)のうち,GLn(k)の cuspidal 表現πまたはIKの指標χでm<nなるmに対してノルム写像κ×n→κ×mを経由しないものが現れるのはHn-1(Xη, Ql)のみであり,それらは〓πχ〓χという形で対になって現れる.ここでχ→πχは,GLn(k)の Steinberg 表現Stに対してπχ〓St=IndGLn(k)T(k)χという関係こよって特徴付けられる,これらの表現の間の1対1対応である. この定理の(ii)に現れる表現の対応は原理的には Harris-Taylor の主定理のうちの一つ([HT], Theorem VII.1.5)から導出できるものであるが,本論文では局所的な幾何学的議論のみによってまず(i)を示した後に,Deligne-Lusztig 理論を用いることで証明される.また(ii)のうち該当する表現が最も高次のコホモロジー群のみに現れるという点は,cuspidal 表現の側については Faltings [Fa]によって Harris-Taylor の結果を用いて示されている.(ただし,彼らの結果を上の形に翻訳するためには,このXのコホモロジーに現れる部分である,深さ0の supercuspidal 表現の場合の局所 Langlands 対応を具体的な形で知る必要がある.この場合,GLn(K)の supercuspidal 表現はGLn(k)の cuspidal 表現の引き戻しおよび誘導により得られるものであり,KのWeil群WKのn次元既約表現は,Kのn次不分岐拡大LのWeil群の指標で,IL=IKへの制限が上記定理(ii)の形の指標となるものから誘導されたものとなっている.馴分岐なWKの既約n次元表現はすべてこの場合に該当する.) さて,本論文では上の定理を,Xのよいモデルを構成して幾何的生成ファイバーのコホモロジー群を特殊ファイバーのコホモロジー群を用いて計算するという方法で証明する.その過程で,変形空間Xに関する次のような重要な知見が得られる. 定理2(論文 Proposition 3.4, Theorem 4.5, Proposition 6.10).(i) 変形空間XはW上のスキームとしてSpecW[[X1,…,Xn]]/(P(X1,…,Xn)-π), に同型である.ここでP∈W[[X1,…,Xn]]は次の形の形式的べき級数である.〓この[ai]および+〓はX上の普遍形式OK加群をW[[X1,…,Xn]]まで持ち上げて得られる形式OK加群のOK作用および加法である.(ii) 変形空間XにはW上の広義半安定モデルZst,すなわちW-スキームの固有射Zst→Xで生成ファイバー上では同型でありZstが広義半安定還元をもつものが存在する.ここで広義半安定還元とは,すべての閉点における完備局所環がW代数としてW[[T1,…,Tn]]/(Te1 1…Ted d-π) (d≦n)に同型であり,eiがすべて剰余標数char kと互いに素となることをいう.(iii) 離散付値環Wの馴分岐拡大研Wn=W(π1/(qn-1)上では,XのWn上平坦なモデルであってその特殊ファイバーの中にGLn(k)×IK作用を持つk上の多様体としてDLに同型なものを含むようなものが存在する. この定理の(i)に当たる記述はより高いレベルπmに対応する変形空間に対しても同様にできる.これらはある種のユニタリ型志村多様体の整数環上のモデルのW上の局所的な方程式を与えるものであり,例えばn=2, K=Qpの場合には Katz-Mazur の行ったモジュラー曲線の悪い還元の記述([KM] Theorem 13.8.4)の整数環上への精密化となる.また上の定理の(ii)で得られるモデルの構成法は,対応するユニタリ型志村多様体の整数環上の広義半安定モデルの構成に応用することができ,原理的にはこの場合のK上のユニタリ型志村多様体のl進コホモロジーの計算を大域体上の議論なしで行うことを可能にする.上の定理の(iii)は広義半安定モデルをWnに底を変更したスキームの一部を正規化することにより得られるもので,前記定理1の証明の基礎となる. 謝辞 指導教官の斎藤毅教授には,消滅サイクルコホモロジーに関してさまざまなご教示を頂き,また論文中のいくつかの命題の証明を本質的に改善していただいた.筆者は教授の博士課程在学中の指導および激励に謝辞を捧げる.またこの論文の多くの部分は筆者が研究指導委託によって Harvard 大学に滞在した期間に執筆された.Richard Taylor 教授をはじめ同大学の方々に深く感謝したい.伊藤哲史・伴克馬・三枝洋一・斎藤新悟の各氏には多くの数学上および執筆上の助力および叱咤激励を受けた.その他にも,お世話になった東京大学や他の諸大学の諸先生・諸先輩方および同僚諸兄に感謝を捧げたい. | |
審査要旨 | Kをp進体Qpの有限次拡大とする.局所 Langlands 対応は,Kの絶対 Galois 群GK=Gal(K/K)のn次元表現と,GLn(K)の既約可容表現との間の対応を与えるものであり,n=1の場合が局所類体論にあたる。任意のnに対し,局所 Langlands 対応は,最近M. HarrisとR. Taylorにより証明された.彼らは,志村多様体のコホモロジーを用いて,代数体上のLanglands対応の一部を示すことにより,局所Langlands対応を証明した.この証明は,局所類体論を,大域類体論から導くようなものであり,純局所的な証明を与えることが,課題となっている.この問題について,H. Carayol は,局所LangLands対応は,ある種の形式群とそのレベル構造の変形空間のコホモロジーを分解することにより得られることを予想していた.Harris-Taylor の証明の帰結として,この予想は証明されているが,上述のように,これは大域的方法によるものである.そこで問題は,この Carayol の予想を,純局所的に証明することである.吉田君は本論文において,有限体上のGLnの表現についてのDeligne-Lusztigの理論と結びつけることにより,レベルがπの場合のCarayolの予想の純局所的な証明を与えた. Kを局所体とし,その剰余体Fの位数をqとする.FをFの代数閉包とし,KurでKの最大不分岐拡大の完備化を表す.OK上の完備局所 Noether 環A上の1変数形式群Gは,OKの作用があたえられていてかつ,そのLie環へのOKの作用が与えられた環の準同型OK→Aと一致しているとき,形式OK加群であるという.n≧1を自然数とする。F上の形式OK加群G0で,局所体Kの素元πに対し,π倍射[π]の次数がqnであるものが,同型をのぞきただ一つ存在する.OKur上の任意の完備局所 Noether 環Aに対しA上の高さnの形式OK加群Gと同型G〓AF→G0の対の同型類の集合を対応させる関手は,巾級数環Auniv=OKur[[T1,…,Tn-1]]で表現される.Auniv上の普遍形式OK加群GunivのDrinfeldレベルπm構造のモジュライ空間をXmで表す.XmはAuniv上 Galois 群GLn(OK/πm)をもつ正則局所環Aのスペクトルである.IK-Ga(Kur/Kur)⊂GKを惰性群とする.消滅サイクルの空間Hq(Xm, Kur, Ql)は自然なGLn(OK/πm)×IKの作用をもつ.Carayol の予想は,この表現の分解に関するものである.本論文では,m=1の場合が調べられている. GLn(F)の既約表現πが cuspidal であるとは,πがGLn(F)の任意の非自明放物部分群からの誘導表現に現れないことをいう.Fnを有限体Fのn次拡大とする.F×nの指標χが generic であるとは,nの任意の約数1≦m<nに対しχNFn/Fm : F×n→F×mによるF×mの指標の引き戻しとならないことをいう.GLn(F)の Steinberg 表現をStとする.generic なF×nの指標χに対し,πχ〓St=IndGLn(F)F×nχという条件で特徴付けられるGLn(F)の cuspidal 表現をπχとする.対応χ→πχにより,F×nのgeneric 指標とGLn(F)の cuspidal 表現は1対1に対応する.Deligne と Lusztig は,GLn(F)×F×nの作用をもつF上の代数多様体DLを定義した.エタール・コホモロジーHqc(DL, Ql)は自然にGLn(F)×F×nの表現となる.Deligne と Lusztig は,エタール・コホモロジーHqc(DL, Ql)のGLn(F)×F×nの表現としての主要部分が,generic な指標χに関する直和〓χπχ〓χであることを示した. 標準全射IK→F×nにより,F×nの表現χをIKの表現と考える.このとき本論文の主結果は次のとおりである. 定理 m=1とし,X=X1とおく.1. 交代和Σq(-1)q[Hq(Xur, Ql)]とΣq(-1)q[Hqc(DL, Ql)]は,GLn(F)×IKの表現の Grothendieck 群の元として一致する.2, Hq(XKur, Ql)がGLn(F)の cuspldal 表現を含むならばq=n-1でる.またHq(XKur, Ql)がF×nの generic 指標を含むならばq=n-1である.χをF×nの generic 指標とし,πχを対応するGLn(F)の cuspidal 表現とする。このとき,Hn-1(XKur, Ql)のχ部分はπχ部分と等しく,χ〓πχの重複度は1である. 次の幾何学的な事実を示す. XをOK上のn次元正則平坦有限型スキーム,x∈Xをその閉ファイバーXFの閉点とする.D1,…,Dmを閉ファイバーXFのxを含む既約成分とし,e1,…emをXF=ΣieiDiの重複度とする.D1,…,Dmはxで正則と仮定し,H1,…,HmをD1,…,Dmが定めるP(mx/m2x)〓Pn-1Fの超平面とする.さらに,次の条件(1), (2)がなりたつと仮定する.(1) I⊂{1,…,m}を任意の部分集合とし,kを∩i∈IHiの余次元とする.このとき,∩i∈IHi=∩i∈I'Hiをみたす位数kの任意の部分集合I'={i1,…,ik}⊂Iに対し,Di1,…,Dikはxでたがいに横断的に交わり.∩i∈IDi=∩i∈I'Diがかりかつ。(2) 任意のy∈P(mx/m2x)に対し,Σi:y∈HieiはFで可逆である. このとき,必要ならXをxの開近傍でおきかえると,Xの正則なblow-up X'→Xで,X'の閉ファイバーX'F分は正規交叉因子で,その各既約成分の重複度はFで可逆であるようなものが存在する.このことより,消滅サイクルの空間RqψQl, xの交代和Σq(-1)q[RqψQl, x]は,Pn-1Fの超平面の族H1,…,Hmと,数列e1,…emのみで定まる簡単な記述をもつことがわかる. はじめに定義した変形空間Xが上の条件と同様な条件をみたしていることを示す.この場合は,Pn-1Fの超平面の族H1,…,HmはF上有理的な超平面すべてがなすものであり,さらに,eiはすべてq-1となっている. これらのことと,消滅サイクルに関する比較定理より,主結果の純局所的な証明が得られる. このように,本論文では,局所Langlands対応の幾何的な実現というCarayolの予想について,レベルがπの場合ではあるが,純局所的な証明を与えている.またその証明は,Deligne Lusztig が有限体上の代数群の表現の研究において定義した多様体を用い,それ自体興味深いものである.よって論文提出者吉田輝義は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. | |
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