No | 119465 | |
著者(漢字) | 大崎,秀一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオサキ,シュウイチ | |
標題(和) | 電磁流体プラズマの平衡,安定性,波のスペクトルに対するホール効果 | |
標題(洋) | Hall Effect on Equilibrium, Stability and Wave Spectrum of Magneto-Fluid Plasmas | |
報告番号 | 119465 | |
報告番号 | 甲19465 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(科学) | |
学位記番号 | 博創域第13号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 先端エネルギー工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | MHDとホールMDH ”プラズマ流”、またはそれに伴う”流れ”と”磁場”がカップリングした場はプラズマ集団現象の最も重要な特徴の一つである。太陽観測衛星衛星やハッブル望遠鏡などによって、宇宙のプラズマの姿が詳しく見えるにしたがって、多様な流れがプラズマを支配し、豊かな構造を生み出していることが認識されている。実験室系(核融合プラズマ等)の研究でも静かに閉じ込めていたはずのプラズマが自発的に流れを生み出し、特性を大きく変化させることが分かってきた。このように様々な現象においてプラズマ流の重要性が明らかになる一方で、平衡や安定性、波動に対する流れの効果を理解するための物理と数学が十分であるとはいえない。 プラズマの理論的研究には、電磁流体力学Maguetohydorodynamics ; MHD)が広く用いられている。(MHDによって作られてきた。静的なプラズマのマクロな現象を記述するにはMHD理論は妥当であると考えられている。しかし電磁流体力学という名前にも関わらず、MHD理論ではプラズマ流が支配的であるような運動に関して、小さな側面しか理解されていない。実際MHDによる研究の多くは静的なプラズマに関するものである。それは流れがない方が単純であるという理由からだけではなく、流れのないプラズマに対しては強力な数学的手法が存在するからである。例えば、平衡に関するグラッド・シャフラノフ(Grad-Shafrncv)方程式[1]や安定性解析に関するエネルギー原理[2]などである。逆に言うと流れがある場合には多くの困難が存在するのである。流れのあるMHD平衡を考えると、平衡を記述する偏微分方程式は流速に応じて楕円型から双曲型へと変化することが知られている[3]。これは衝撃波の発生を示唆するが、2次元(以上)では解の存在さえ不明である。非圧縮流を仮定することで、方程式は楕円型となるが特異点を含んでいる。これは、MHD理論が(ポロイダル断面で)磁場を横切る流れを許さないことに起因している。さらに流れをもつプラズマの線形安定性解析においては、作用素が非エルミートになるため、流れがない場合と異なり、モード展開による解析を行っても安定性の完全な理解を得ることはできない。またプラズマ中の複雑な構造形成には、かけ離れたスケールの運動が共存し、かつそれらが相互作用することが重要な役割を果たしていると考えられるが、MHD方程式は特性長をもたない方程式であるため、(プラズマ領域に比べて小さな)ミクロスケールの効果を記述することは困難である。実際、コロナ加熱やリコネクション、Hモード閉じ込めにおける境界層などミクロスケールの効果が重要であると考えられる現象は数多くある。 本研究ではプラズマ流の効果、ミクロスケールの効果をより詳細に研究するため二流体モデルを用いた。イオン流は(電子の質量が小さいため)近似的にプラズマ流と見なすことができ、電子は磁力線に沿って運動するため、イオン流体と電子流体を区別する二流体モデルでは一流体モデル(MHD)に比べてより広範な流れ場、磁場配位を考察することができる。電子慣性を無視した二流体モデルは以下の適切に規格化されたホール(Hall)MHDによって記述することができる。〓ここでBとはそれぞれ磁場と(イオン)流速を表すベクトル場、はプラズマの圧力、は数密度を表す。また、〓でLOは系の特徴的な長さ、〓はイオン表皮長を表す。ホールMHD方程式とは、MHD方程式に(2)のホール項〓が加わった方程式である。つまりホール項は二流体効果を表す主要項である。また微小パラメータを係数とする方程式の最高階微分項であるホール項は、数学的には特異摂動項である。物理的には、ホール項によってイオン表皮長という特性長がMHD方程式に導入され、マクロスケール(系の大きさ)とミクロスケール(イオン表皮長)の相互作用を記述することが可能となる。流れをもつプラズマの平衡と安定性、および波のスペクトルに対するホール効果について研究を行った。 流れをもつプラズマの平衡 軸対称(〓)な系において非圧縮流をもつプラズマのMHD平衡方程式は〓と書ける。ここでΨによる微分を表す。グラッド・シャフラノフ作用素〓楕円型微分作用素であるた(3)は楕円型偏微分方程式であるが、〓のところに特異点をもつ。ポロイダル断面上で流れ場が磁場に平行でなくてはならないというMHD方程式の制限〓が特異点を生み出す原因となっている。 このような困難を取り除くのが特異摂動である。ホール項による特異摂動を考えるとポロイダル磁場に垂直成分をもつポロイダル流を考えることができ(流れ関数は磁気面関数でなくなる)、平衡方程式はΨ、Φに対する以下の2つの楕円型偏微分方程式で表される。〓これらは特異点をもたない楕円型方程式なので境界値問題として解くことができる。内部導体をもつトーラス領域で(4)-(5)を解いて、二流体モデルの緩和状態と考えられている二重ベルトラミ(doble Beltraeni)平衡解[4]を得ることができる。 流れのあるプラズマのリアプノフ安定性解析 上述(51)のように流れのある平衡の線形安定性解析では、作用素が非エルミートになるためモード展開によって完全な理解を得ることはできない。摂動がexp(-iwt)に比例するものとして得られる分散関係を解いて、固有値Wが全て実数であったとしても代数的(gn)に成長する不安定性が存在することが知られている。本研究では摂動のエネルギーに上限を与えるような運動の定数(リアプノフ関数)を見つけ、ベルトラミ場(Beltranni field)と呼ばれる流れをもつ平衡の安定十分条件(リアプノフ安定条件)を求めた。 変分によって特徴付けられる平衡(これをベルトラミ平衡と呼ぶ)については、その変分に関連して摂動に対する運動の定数を見つけることができる[5]。二次元流体、MHD、二流体MHD方程式では、エネルギーやヘリシティーなどの保存量Hi(U)、(Uは流れ場や磁場)が存在する。Hi(U)を組み合わせた汎関教〓(ベルトラミパラメータuiは定数)の変分〓をとることによって、緩和状態を記述するベルトラミ平衡(UO)を導くことができる。ベルトラミ平衡に摂動u(U=Uo+U)を考えると、摂動に対してHi(u)は定数でないが、その線形和である〓が運動の定数となることが証明される。二次元中性流体、MHDではこの運動の定数G(U)と強圧条件(coereiveness condition); ここではポアンカレ型の不等式で書かれる)を用いると、摂動のエネルギー‖u‖2の上限が与えられる。つまり、G(u)をリアプノフ関数として用いることができ、安定性の議論を行なうことができる。具体的にはベルトラミパラメータuiと領域の大きさに依存する定数を関連付けることによって代数的不安定性、非線形不安定性も考慮した安定性の十分条件(リアプノフ安定条件)を得ることができる。ここで鍵となるのは強圧条件である。強圧条件は微分の階数で測られるので、強圧条件と運動の定数G(U)を用いて安定性条件を得るためには、汎関数Gの最高階微分項が正値である、つまりがG凸であることが必要となる。 しかし二流体MHD方程式では特異摂動の効果によって、汎関数Gの最高階微分項は正値でなくなる(汎関数Gが凸でなくなる)。つまり二流体MHD方程式の平衡解である二重ベルトラミ平衡の安定性解析において、G(U)をリアプノフ関数として用いることができない。リアプノフ安定性の議論を行うためには、より高階かつ正値であるような運動の定数が必要となる。具体的にはエンストロフィー(渦度の二乗)オーダーの保存量が要求される。エンストロフィーは二次元流体の保存量であるが、三次元では対流微分項の引き伸ばし効果によって保存が破られる。二流体MHD方程式でも一般にエンストロフィーは保存量ではなく、それと同等の保存量も存在しない(見つけられていない)。 特殊な二重ベルトラミ平衡を考えると、摂動に対してG(u)以外にさらにエンストロフィーオーダーである運動の定数を見つけることができ[6]る。具体的には(I)流れ場が直線で磁場がねじれてる場合、(II)磁場が直線で流れ場がねじれてる場合、の2通りである。この2通りの場合に対しては、ベルトラミパラメータと領域に依存した定数(ラプラシアンの最小固有値)を関連付けてリアプノフ安定性条件を求めることができる。しかし一般の二重ベルトラミ平衡の安定性に関しては未解決の問題である アルフベン波とホール効果 磁気プラズマ中の代表的なMHD波にアルフベン(Alfven)波がある。アルフベン波は磁力線に沿って(一次元的に)伝播する。光などのような波は三次元的に伝播するので光源から遠ざかると波は広がって弱くなる。アルフベン波は、このような空間的広がりをもたないので磁力線に沿って極めて遠距離まで到達する。このような伝播方向の退化は連続スペクトルを発生する原因となる。理想MHD方程式では、非一様磁場中を伝播するアルフベン波は連続スペクトルをもち、固有関数は特異点をもつ階常微分方程式の(フロベニウス型の)解として与えられる。しかしスペクトルの特異摂動(微分の最高階数が変化する摂動)を加えるとスペクトルに定性的な変化が生じる。具体的には散逸による特異摂動を加えると、連続スペクトルの下端点が摂動を受けて不安定なモード(この不安定性をテアリング不安定性と呼ぶ)が発生することが知られている。また電子の慣性を考慮すると、方程式に階微分項が加わり特異点が取り除かれる。その結果、連続スペクトルは点スペクトルへと変化する。 ホールMHD方程式(1)-(2)に表されるように、MHD方程式に特異摂動として加わるホール項がアルフベン連続スペクトルにどのように影響するか研究を行った。ホールMHD方程式より、非一様磁場中を伝播するアルフベン波のモード方程式は低ベータ(圧力)の場合以下のように計算される。〓ここで、〓、は楕円偏波する摂動を表し、下付の、はそれぞれ( に沿って非一様な)磁場に対して平行、垂直方向を意味する。また〓はホール効果、〓(Cxは音速)は圧力あるいは音波の効果を表す。e-oの極限で(6)は理想MHDのモード方程式となり、〓に特異点をもつ2階の常微分方程式となることが分かる。音速ゼロの極限でホール効果を考えると〓、周波数シフト(w-Ω)、直線偏波から楕円偏波への変化が起こるが、方程式は〓に特異点をもち、連続スペクトルを与える。しかし、ホール効果と音波のカップリング〓を考えると、(6)の右辺に4階微分項が付け足される。この特異摂動項によってモード方程式は特異点をもたない階の常微分方程式となり、スペクトルは連続スペクトルから点スペクトルへと変化する。 | |
審査要旨 | 本論文はHall Effect on Equilibrium, Stability and Wave Spectrum of Magneto-Fluid Plasmas (電磁流体プラズマの平衡、安定性、波のスペクトルに対するホール効果)と題している.プラズマの理論研究には,電磁流体力学(MHD)のモデルが広く用いられている.これは,荷電粒子のミクロな運動効果が無視できるマクロなスケールでの現象,とくに磁場の構造や変動を記述するために有用なモデルである.例えば,流れのない平衡を記述するグラッド-シャフラノフ(Grad-Shafranov)方程式や,平衡状態からのずれに関する安定性解析に用いられるエネルギー原理などは,MHDモデルから導かれるものであり,核融合炉心プラズマの設計や宇宙,天体プラズマ現象の解析においてゆるぎないものとして用いられている.しかし,プラズマの流れがある場合に,MHDモデルは,しばしば不適切であり,これでは十分理解できない現象があることが指摘されている.例えば,流れがあるプラズマの平衡方程式は極めて複雑なものとなり,その解には様々な特異性が現れると考えられている.またプラズマ流の中に現れる複雑な構造では,かけ離れたスケールが共存し,かつそれらが相互作用する.理想MHD方程式は特性長をもたない方程式であるため,プラズマが本来もつ特性長を説明できない.また,ミクロな特性長の不在のために,物理量の急激な変動は特異点となって現れ数学的な困難を生むと考えられる.核融合炉心プラズマや太陽コロナ,惑星磁気圏プラズマなどの,いわゆる「無衝突プラズマ」では,電気抵抗や粘性の効果が効くスケールより大きなスケールである「イオンスキン長」が,先ず重要な特成長を規定する.このスケールにおいて「ホール効果」が効いてくる.本研究では,理想MHD方程式に対してホール効果を「特異摂動」として付加した「二流体MHDモデル」を用いて,プラズマの平衡や安定性,波動に対するプラズマ流やミクロ(イオンスキン長)スケールの効果を理論的に解析している.論文は,以下のように構成されている. 第1章は緒論にあてられている.プラズマ流やイオンスキン長スケールの運動が,プラズマのマクロな構造や運動に与える影響について述べ,MHDモデルの限界を明らかにしている. 第2章では,ホール項が一流体と二流体モデルを区別する特異摂動項であること,ホール項によってより広範な流れ場を考慮できることが議論されている.また緩和平衡状態を記述する解析解として知られているダブルベルトラミ平衡解を紹介している. 第3章では,流れがあるプラズマの平衡について議論している.流れのあるプラズマをMHDモデルで記述すると,平衡を支配する偏微分方程式が流速に応じて楕円型と双曲型の間で変化することが知られている.これは衝撃波の発生を示唆するが,2次元(以上)では解の存在さえ不明である.非圧縮流を仮定すると,方程式は楕円型となるが特異点を含んでいる.これは,MHD理論が(ポロイダル断面で)磁場を横切る流れを許さないことに起因している.ホール効果は,この制限をとりのぞき,二流体MHDの平衡方程式は特異点を含まない連立楕円型方程式になることを示している.また,トーラス状の領域でダブルベルトラミ平衡解を数値計算して,その構造を明らかにしている. 第4章では,運動の保存量を用いた変分原理によって,流れのあるプラズマの安定性を議論している.シアー流があるプラズマの線形安定性解析においては,生成作用素が非エルミートになるため,指数関数的な時間変動を仮定するノーマルモード解析の手法では安定性を完全に理解することはできない.それに代わるものとして,揺らぎの運動に関する保存量(リアプノフ関数に相当する)を用いて安定性を議論している.MHDモデルでは,この保存量と強圧条件を用いて,摂動のノルムの上限が与える条件を示している.この安定性の十分条件は,任意の形状とあらゆる不安定性を含む一般的条件である.しかし二流体MHDモデルでは,特異摂動の効果によって一般に強圧条件が成立しない.特別なダブルベルトラミ平衡に対してはエンストロフィーに相当する保存量が存在し,この強圧性によって安定性の十分条件を得ている. 第5章では,アルフヴェン波のスペクトルがホール効果によって,どのように変化するかが研究されている.磁化したプラズマ中を伝わる代表的な波であるアルフヴェン波は,一般に連続スペクトルをもち,その特異固有関数は2階常微分方程式の(フロベニウス型の)解として与えられる.ここでは,ホール効果と音波のカップリングによってモード方程式に4階微分項が現れることが示されている.この特異摂動項によって固有方程式は特異点をもたない4階の常微分方程式となり,スペクトルは連続スペクトルから点スペクトルへと変化することが結論されている. 第6章はまとめに当てられている. 以上を要するに,本研究は電磁流体プラズマの平衡,安定性,波のスペクトルに対するホール効果を明らかにしたものであり,その結果は流れやイオンスキン長スケールの効果が重要であると考えられる様々な宇宙,天体プラズマ,実験室系(核融合)プラズマに応用できるものであり,先端エネルギー工学,とくにプラズマ理工学の発展に貢献するところが大きい.したがって、博士(科学)の学位を授与できると認める. | |
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