学位論文要旨



No 120456
著者(漢字) 服部,新
著者(英字)
著者(カナ) ハットリ,シン
標題(和) 局所体上の楕円曲線のp-巾分点の分岐
標題(洋) Ramification of p power torsions of an elliptic curve over a local field
報告番号 120456
報告番号 甲20456
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第268号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 斎藤,秀司
 東京大学 助教授 辻,雄
 東京大学 助教授 志甫,淳
内容要旨 要旨を表示する

 Kを混標数(0,p)の完備離散付値体とし,πKをその素元とする.絶対Galois群GK=Gal(K/K)の有限加群への表現が整数環上の有限平坦群スキームの生成ファイバーとして得られるとき,よい表現であるという.このとき,整数環上のモデルを法πnK-還元することにより,よい表現を調べることと,より簡単な対象である,p-巾で消えるArtin環上の有限平坦群スキームを調べることを結び付けられる可能性が生じる。Kの絶対分岐指数eがp-1未満であれば,Raynaudの定理([4])によって,整数環上の有限平坦群スキームからその生成ファイバーのGalois表現を与える関手は忠実充満であるため,よい表現同士の相互関係までも整数環上の有限平坦群スキームとその還元を使って調べることができる.ところが,eが高い場合,このようなことはもはや成り立たず,整数環上の有限平坦群スキームを使ってその生成ファイバーのGalois表現の情報をうまく統制することは困難であると思われてきた.本論文の主題はこの困難を回避する方法を提示し,その応用として,よいGalois表現に対してeの大小によらない種々の結果を証明することである.

 主定理は次の通りである.

定理1(講文,Theorem 9,Corollary 10)A,A'をOK上のアーベル・スキームとする.このとき,N>ne+e/(p-1)なる自然数Nに対し,〓と〓とが同型な群スキームであれば,pn-分点が定めるGKの表現A[Pn](K)とA'[Pn](K)とは同型である.

 またAが超特異還元を持つ楕円曲線の場合は,自然数Nの下限を次のように取れる.Aの原点での形式的完備化のp-倍公式[P](X)におけるXPの係数の付値をf>0とするとき,

・pe/(p+1)>fなら,N>(e-f)/(p-1)

・pe/(p+1)〓fなら,N>e/(p2-1)

 証明にはAbbes-斎藤の分岐理論を用いる.彼らは古典的な上付き分岐群の定義を一般化し,OK上の有限平坦代数Rに対する分岐フィルトレーションを定義した([1,2]).具体的には,正の有理数aを添字とし,RのK-値点R(K)のGK-集合としての商からなる増大族{Fa(R)}a∈Q>0を定めた.

 本論文ではまずFa(R)がRの,πKのaより大きい自然数巾を法とした還元にしかよらないことを示した.古典的な分岐理論が,局所体Kの有限次Galois拡大Lの整数環の法πL-巾還元を使ってGalois群Gal(L/K)にフィルトレーションを入れる,というものだったことを考えると,この結果は分岐理論として備えていなければならない性質であると言える.

 従って主定理を得るためには,A[pn]の分岐フィルトレーションが何番目で自明になるかを調べればよい.Aが楕円曲線の場合,このことは,SpecRが1次元形式群のpn-分点である場合に分岐フィルトレーションのジャンプを完全に計算することにより実行される.正確には次の定理を示す.

定理2(論文,Theorem 4)ΓをOK上の1次元形式群とする.Γpn-倍公式[pn](X)のNewton多角形の左からm番目の辺の傾きをrm,y-切片をtmとおく.Γ[pn](K)の部分群KmをKm={z∈〓で定義する.このとき、tm<a〓tm-1ならFa(Γ[pn])=Γ[pn](K)/km.

 この定理の系として,〓OK上の有限群スキームが定めるKのGalois拡大の導手の上限を与えるFontaineの結果([3])を剰余体が完全でない場合にも拡張することができる.すなわち;

定理3(論文,Theorem 6,Corollary 7,8)gをpn-倍で消えるOK上の有限平坦群スキームとする.このとき,gの分岐フィルトレーションFa(g)はa>ne+e/(p-1)で自明になる。従ってaが自然数の場合,GK-加群g(K)は群スキーム〓のみに依存する.

 またとくに,a>ne+e/(p-1)であれば,Abbes-斎藤の意味でのKの第a-上付き分岐群GaKはg(K)に自明に作用する.

 この定理から主定理のAが高次元アーベル・スキームである場合が従う.

謝辞 指導教官の斎藤毅教授には論文執筆に際し微細にわたる重要な助言によって証明を本質的に改良して頂いた.日頃よりの指導と激励に心からの謝意を表する.

参考文献

[1] Abbes, A. and Saito, T.: Ramification of local fields with imperfect residue fields I, Amer.,J.,Math. 124 (2002), 879-920[2] Abbes, A. and Saito, T.: Ramification of local fields with imperfect residue fields II, Documenta Math. Extra volume:Kazuya Kato's Fiftieth Birthday (2003), 5-72[3] Fontaine,, J.M.: Il n'y a pas de variete abelienne sur Z, Inv. Math. 81 (1985), no. 3, 515-538[4] Raynaud, M.:Schemas en groupes de type (p, ..., p), Bull. Soc. math. France, 102(1974), 241-280.
審査要旨 要旨を表示する

 Kを標数0の完備離散付値体で,剰余体が標数p>0であるものとする.πをKの素元とする.EをK上の楕円曲線とし,Eはよい還元をもつと仮定する.自然数π〓1に対し,Eのpn等分点は整数環OK上の有限平坦可換群スキームε[pn]を定める.これの生成点でのファイバーは,Kの絶対Galois群GK=Gal(K/K)の表現E[pn](K)を定める.一方,ε[pn]を,自然数m〓1に対し,modπmすることにより,OK/πm上の有限平坦群スキームε[pn]modπmが得られる.本論文では,有限平坦群スキームε[pn]modπmが,Galois表現E[pn](K)を定めるかという問題について研究し,次の結果が得られた.

定理1 e=ordKpをKの絶対分岐指数とする.このとき,〓ならば,Galois表現E[pn](K)は有限平坦群スキームε[pn]modπmで定まる.

論文では,楕円曲線の等分点に限らず,pn倍すると0となるような,一般の有限平坦可換群スキームに対し,定理1の主張がなりたつことが示されている.また,楕円曲線の等分点については,楕円曲線のp分点の還元に応じ,定理1より精密な評価が得られている.

 定理1の証明は,分岐理論を用いてなされる.OK上の有限平坦可換環Aに対して集合{OK上の環準同型A→K}を対応させることで定まる関手F:(OK上の有限平坦可換環)→(GKの連続作用をもつ有限集合)を考える.分岐理論によれば,正の有理数j>0に対し,関手の逆系Fj:(OK上の有限平坦可換環)→(GKの連続作用をもつ有限集合)および,関手の射の逆系F→Fjが定義される.OK上の有限平坦可換環Aに対し,集合{c|j>CならばF(A)→Fj(A)は全単射である}の下限c(A)をAの導手とよぶ.これを用いて,定理1は次の主張に帰着される.

定理2gをpn倍が0であるような,OK上の有限平坦可換群スキームとし,Aをその座標環、A=Γ(g,O)とする.このとき,導手c(A)は〓以下である.

 定理2は,gが1の巾根のなす群の場合に帰着させて証明される.gが楕円曲線の等分点の場合には,形式群のp倍写像から定まるNewton多角形を調べることによって,より精密な結果が得られる.

 ここで得られた評価は,Breuil加群などを用いて得られるものよりも精密なものであり,たとえば,通常な還元をもつ楕円曲線については最良のものである.また,定理2のような評価は,Fontaineが,有理数体上定義されたすべての素数でよい還元をもつアーベル多様体が存在しないという定理を証明した際に用いられた.ここでは,分岐哩論を使うことにより,Fontaineのもとの証明よりも簡明な証明が得られている.

 以上のように,本論文では,局所体上の有限平坦群スキームの研究への分岐理論の応用について,興味深い新しい結果が示されている.よって論文提出者 服部新 は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める.

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