No | 120470 | |
著者(漢字) | 小川,誠 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オガワ,マコト | |
標題(和) | VLSI連想プロセッサのための回路技術の研究 | |
標題(洋) | Circuit Technologies for VLSI Associative Processors | |
報告番号 | 120470 | |
報告番号 | 甲20470 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(科学) | |
学位記番号 | 博創域第90号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 基盤情報学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 情報技術が進歩・普及する中で、コンピュータを「より身近に」あるいは「より高度に」利用するため、人間のように柔軟な知的情報処理の実現が求められている。従来のコンピュータが得意としている数値計算・論理演算とは異なり、知的情報処理においては、曖昧さを含んだ入力情報から記憶されている膨大な情報の中で最も似ているもの検索する「連想」が重要な処理の一つとなっている。その手段の一つとして、ベクトル量子化などのパタンマッチングは優れた性能を発揮する。ベクトル量子化では、入力・記憶情報をベクトルとして表現し、マンハッタン距離のようなベクトル間距離を使い一致度を求める。アルゴリズムは単純でVLSIでも容易に実現できるが、その一方で計算量が非常に大きく従来のコンピュータ、特にマイクロプロセッサでは実時間処理が難しいという問題点もある。 本研究では、計算量の多い連想処理を効率良く実時間で行うため、VLSI連想プロセッサを開発することを目的とする。特に知的情報処理はその応用分野の広さ故に、ユビキタス・モバイルコンピューティングからWEBサービスを提供するサーバなど実に多様な環境で利用されることが想定される。こうした様々な応用に向け、連想プロセッサのためのアナログ・デジタル回路技術の研究を行った。 第3章では、アナログ不揮発性メモリ融合型マッチング回路について述べる。本研究のマッチング回路の特徴は、アナログ不揮発性メモリを用いることでテンプレートベクトルを保持するメモリ機能と距離演算を行う機能とが融合されていることである。その結果、距離演算を全ベクトル・全エレメント並列に実行する超並列連想プロセッサを高密度で実現した。0.7μm2層ポリ1層メタルプロセスを用いてテストチップの設計・試作を行い、開発した回路の動作を確認した。テストチップには、64エレメントのテンプレートベクトルを256 個保持することができ、プロセッサコアの面積は7.4mm x 4.5mm であった。また、マッチング回路ではメモリセルを機能回路として利用するため、回路構成が通常のメモリと異なる。そこで、アナログメモリの書き込み特性を測定し、書き込み精度としては5mV以内、書き込み電圧のレンジとしては3〜4.2Vで距離演算に十分な精度・レンジを確保できることを示した。 第4章では、ガウス関数型のアナログマッチング回路について述べる。第3章のマッチング回路は、電圧モードにより距離演算を行うため低消費電力を実現できる一方で、配線が多くレイアウトが非効率であった。そこで、電流モードにより距離演算を行い効率の良いレイアウトを実現するマッチング回路の開発を行った。距離演算結果は電流値として読み出されるため、複数エレメントの総和を1本の配線上で行うことができる。開発したマッチング回路では6個のNMOSのみで構成されており、高密度に集積化することも可能となっている。また、超並列なアナログ連想プロセッサにおいては、与えられるデジタル入力データを並列にデジタル・アナログ(DA)変換する必要がある。そこでDA変換回路を小面積で実現できるよう、簡単な回路構成のUnity-Gainバッファを開発した。このunity-gainバッファの特徴は、複雑なオペアンプの替わりに単純なCMOS インバータを用いていることである。通常、CMOSインバータの様にDC ゲインの低いアンプでunity-gain バッファを構成すると精度が低下するという問題があるが、新たに開発した2段階リセット方式を用いることにより、DCゲインの低いCMOSインバータを用いても高精度を実現することが可能となった。開発した回路は、0.6μm2層ポリ3層メタルプロセスで設計・試作し、テストチップにより動作を確認した。さらに、アナログ不揮発性メモリを用いることでより高密度に集積化できることも示した。 第5章では、デジタル連想プロセッサについて述べる。アナログ連想プロセッサでは低消費電力・超並列処理が可能であるが、柔軟性に欠けるという問題点もある。そこで、デジタル回路を用いることで、柔軟な処理が可能な連想プロセッサの開発を行った。デジタル連想プロセッサにおいては、Winner-Take-All(WTA)回路がボトルネックとなる。WTA回路とは、多数の入力の中から最小値(あるいは最大値)をもつ入力を瞬時に検索する回路である。WTA回路は入力数・回路規模が非常に大きいため遅延時間が大きく、従来のWTA回路では1回のWTA処理に数クロックもの時間がかかっていた。そこで、回路内の信号を二次元的に伝播させることで回路の高速化を行い、入力数が増えても1サイクルで処理が完了する二次元ビット伝播WTA回路を開発した。また、柔軟なWTAを行う際には多数の入力を自由にマスクする機能が必要となるが、マスキング処理を効率良く行うことが可能なブロックアドレス指定方式も開発した。このアドレス指定方式を用いることで、従来のアドレス指定では一つ一つ選択していたものが、1回のアドレス指定で複数のものを同時に選択することが可能となった。ブロックアドレス方式では、通常のデコーダ回路にわずかな回路を追加し、またアドレスのビット長を1ビット長くすることで実現できる。柔軟な連想処理においては、単なるマンハッタン距離の演算だけでなく、エレメントごとに重みを掛けること等も必要となる。このような応用のために、距離演算器では小面積の回路で乗算を行うことが可能となっている。0.6μm3層メタルのプロセスでテストチップの設計・試作を行い、開発した回路の動作を確認した。テストチップには、32並列の距離演算回路、128入力のWTA回路、最大256エレメント128ベクトルを記憶可能なテンプレートベクトルメモリを持つ。さらに、より微細な0.18μm5層メタルプロセスを用いて、並列度を向上させたデジタル連想プロセッサの設計も行った。このプロセッサでは、4.5mmx4.5mm の面積に256並列の距離演算回路、512並列のWTA回路、64エレメントx512ベクトルのテンプレートベクトルメモリを持つ。 第6章では、ダイナミック・プログラミング(DP)マッチングプロセッサについて述べる。従来の連想プロセッサではベクトル間距離を元に類似度計算を行っていたが、音声データ等のシーケンスデータに対しては、単純なベクトル間距離を用いてマッチングすることが難しい。そこで、シーケンスデータのマッチングを効率良く行うDPマッチングをVLSIプロセッサで実現した。開発したDPマッチングプロセッサの特徴は、デジタル回路上で信号を時間領域においてアナログ的に用いる点で、アナログデータは信号の遅延時間として表される。これにより、従来のデジタルプロセッサでは複雑な制御を行い数クロックかけて処理していたDPマッチングを、回路上で簡単に行うことが可能となっている。開発したDPマッチング回路は、0.18μm5層メタルの一般的なデジタル回路用プロセスで設計・試作されたテストチップにより動作を確認した。DPマッチング回路は、16エレメントの二つのシーケンス間で一致度を計算し、その一致度を出力する。時間領域のアナログ処理を用いたことで、従来の電流・電圧モードのアナログ回路と異なり、容易に電源電圧を低下させることができ、低消費電力な動作が可能となっている。また、デジタル回路同様、スケーリングによる微細化・低電源電圧化も容易となっている。試作したプロセッサでは1.3Vの電源電圧の元、2mW以下の消費電力で1回のマッチング処理を行う。 様々な連想プロセッサのための回路技術を開発したことが、本研究の主たる成果である。低消費電力・並列処理を目指したアナログ連想プロセッサのために、アナログ不揮発性メモリ融合型マッチング回路、ガウス関数型マッチング回路、CMOSインバータを用いたUnity-Gainバッファ等の回路技術を開発した。また、柔軟な処理を目指したデジタル連想プロセッサのために、高速な二次元ビット伝播WTA回路、ブロックアドレス指定方式・デコーダ回路を開発した。そしてシーケンスマッチングを行うために、デジタル回路を時間領域でアナログ的に用いたDPマッチング回路を開発した。 | |
審査要旨 | 本論文は、Circuit Technologies for VLSI Associative Processors(和訳:VLSI連想プロセッサのための回路技術の研究)と題し、人間のように柔軟な情報処理実現の最も基本となる連想演算に関し、これを高速・低消費電力で実行するVLSI実現のためのアナログ並びにデジタル回路技術に関する研究成果を纏めたもので、全文7章よりなり、英文で書かれている。 第1章は、序論であり、本研究の背景について議論するとともに、本論文の構成について述べている。 第2章では、連想演算としてのベクトル量子化アルゴリズムについて概観すると共に、このアルゴリズムのVLSI化に関する過去の研究についてのレビューを行い、本研究の位置づけを明らかにしている。 第3章では、アナログ不揮発性メモリ融合型マッチング回路について述べている。不揮発性メモリトランジスタにテンプレート情報をアナログ値として記憶させると共に、このトランジスタをそのままマッチング回路の構成に用いて、小面積の連想プロセッサを実現した。0.7μm2層ポリシリコンプロセスでVLSIチップを試作し、その基本動作を確認した。 第4章は、ベル型の特性を持ったアナログマッチング回路について述べている。6個のNMOSでマッチングセルを構成し、マッチング結果を電流信号として出力し、簡単な電流加算でベクトル間の類似度演算を実行する。3章で開発した回路は電圧モードで動作し、容量結合によって加算を実行するため、多くの配線領域を要し集積度が上がらなかったが、本ベル型特性のセルにより4倍以上の集積度向上を実現した。また新たに考案した2段リセット方式の導入により、簡単なCMOSインバータ回路で高精度のD/Aコンバータを実現し、チップ上での並列データ変換を可能にした。 第5章では、目的に応じて柔軟に機能変換のできるデジタル方式の連想プロセッサッについて述べている。ここでは、2次元ビット伝播型Winner-Take-All(WTA)と名付けた新た回路方式を開発し、最類似ベクトルの高速探索を可能にした。これは、テンプレート数の増加に対しても探索時間がほとんど増加しない方式である。また柔軟な連想処理にとって重要なテンプレート群の選択に関しても、新たなアドレッシング方式を提案し、ほとんど回路面積を増加させることなく様々な連想処理実行を可能にした。0.6μm3層メタルプロセスでテストチップを試作、その動作を実証した。さらに、0.18μm5層メタルプロセスを用いて並列度を向上させたデジタル連想プロセッサの設計も行い、更なる性能向上が可能であることを示した。これは、デジタル連想プロセッサ開発に関し有用な知見である。 第6章は、ダイナミック・プログラミング(DP)マッチングプロセッサについて述べている。DPマッチングとは、シーケンスのマッチング演算であり、前章までのベクトルマッチングとは異なり、各ベクトルエレメントの位置シフトやスキップ等を許し、そのあらゆる組み合わせに対し最適のマッチング結果を見出すものである。この計算コストの極めて高い演算に対し、パルス信号の遅延線を用いた独自の演算回路によって、高速・低消費電力の処理を実現した。この回路では、アレイ状に配置された遅延線網上をパルス信号が自由に伝播することにより、自動的に最適の組み合わせ見出すことができる。パルス電圧はデジタル値として扱い、時間軸上のパルスの位置・パルス幅によってアナログ演算を行う方式であり、通常のデジタル回路と同様電圧スケーリングによって低消費電力化が可能である一方、アナログ回路の並列演算によって高速処理が実現している。0.18μm5層メタルプロセスを用いてテストチップを試作し、その有効性を実証した。これは、新たな回路方式の提案として重要な成果である。 第7章は結論である。 以上要するに本論文は、人間のように柔軟な情報処理の基本演算として重要な連想演算に関し、これを高速・低消費電力で実行できるアナログ並びにデジタルVLSI回路技術の新方式を提案すると共に、実際にVLSIチップを設計・試作することにより提案した方式の有効性を実証したもので、半導体電子工学の発展に寄与するところが少なくない。 よって本論文は博士(科学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/115 |