学位論文要旨



No 121555
著者(漢字) 佐伯,真一
著者(英字)
著者(カナ) サイキ,シンイチ
標題(和) 円周上の4点穴あき球面束の中の圧縮不可能曲面
標題(洋) Incompressible surfaces in 4-punctured sphere bundles
報告番号 121555
報告番号 甲21555
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数第277号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 教授 松本,幸夫
 東京大学 教授 森田,茂之
 東京大学 教授 河野,俊丈
 東京大学 教授 古田,幹雄
 東京大学 助教授 河澄,響矢
内容要旨 要旨を表示する

HatcherとThurstonは1985年の論文で、3次元球面の2橋結び目補空間内の圧縮不可能な曲面を分類し、その標準的な形状を記述した。この論文で用いられた手法は、2橋結び目と4点で交わる2次元球面による曲面の断面を考え、この2次元球面を動かしたときの断面の変化を追跡することにより、曲面を復元するというものである。断面の様子の全体のなす空間である"diagram"はこの手法の中心であり、曲面の圧縮不可能性は変化の「極小性」に反映されている。また、 F1oydとHatcherは1988年の論文で、この手法を3次元球面の2橋絡み目補空間内の圧縮不可能な曲面の分類に拡張して用いた。絡み目の場合では、断面の様子の全体のなす空間は3次元の空間であり、この論文では3種類の2次元断面を用いている。さらに、FloydとHatcherは1982年の論文で、円周上の1点穴あきトーラス束内の圧縮不可能な曲面の分類にも拡張して用いた。この場合、曲面の各ファイバーとの交わりを考え、その様子のなす空間での移動を追跡している。

2橋結び目・絡み目の場合の手法の自然な拡張は、円周上の4点穴あき球面束内の圧縮不可能曲面を分類することである。実際、1988年の論文のRemarkでは、拡張した手法での曲面の分類の可能性に言及しており、それに必要と思われる断面の様子の空間について解析した未発表の論文を作成し、それを引用している。4点穴あき球面束の場合に必要となる断面の様子の空間は5次元の空間であり、この未発表の論文はその2次元の断面を31種類掲載している。

上に挙げた各論文では、曲面に対して連結性を要求していない。本論文では、円周上の4点穴あき球面束内の圧縮不可能曲面のうち、それぞれの穴に同じ枚数の曲面の境界付近が集まる2橋結び目型の曲面について、連結性と向き付け可能性の判定条件を与えた。曲面をその標準形のひねり部分で切断し、いくつかの平行な曲面にして、これらに順に番号を振る。切断したひねり部分を元に戻す作業は、この番号の集合の同値関係を与える。この同値関係を2面体群を用いて記述し、さらに番号1を含む同値類を調べることにより、向き付け可能性の判定条件も与えた。

また、種数が0(向き付け可能なら穴あき球面)または1(向き付け可能なら穴あきトーラス、不可能なら穴あき射影平面)の圧縮不可能曲面を実際に分類した。

審査要旨 要旨を表示する

3次元多様体の中の圧縮不可能曲面は、3次元多様体のトポロジーを記述する上で非常に重要な役割をはたす。特に、多様体内の結び目、絡み目の補空間の圧縮不可能曲面が分類されると、その結び目、絡み目に沿うデーン手術により得られる3次元多様体の圧縮不可能曲面の情報がほとんど得られることになる。

3次元球面内の2橋結び目の補空間に対してはHatcher-Thurstonにより、圧縮不可能曲面が分類され、3次元球面内の2橋絡み目の補空間、円周上の穴あきトーラス束についてもFroyd-Hatcherにより、圧縮不可能曲面が分類されている。

論文提出者佐伯真一は、円周上の4点穴あき球面束に対してその圧縮不可能曲面の分類について研究した。

圧縮不可能曲面が円周上の4点穴あき球面束の各境界成分と同じ個数の円周で交わる場合に、圧縮不可能曲面の標準形を確立した。これは、プロパーに埋め込まれた曲面のモース理論をおこなうもので、極大極小点を除去した後、鞍点の位置をそろえることができるというHatcher-Thurstonの手法を用いるものであるが、現実には、Hatcher-Thurston,Froyd-Hatcherの場合には起きなかった現象が含まれることも示された。これ標準形を用いて、圧縮不可能曲面と境界成分の交わりのバイファケーションを2面体群の作用で記述し、圧縮不可能曲面の連結性、向き付け可能性についての条件を書き表した。さらに、論文提出者は、種数が1以下となる場合の完全なリストを作成した。

円周上の4点穴あき球面束は、球面と円周の直積内の閉ブレードと考えることもできるが、論文提出者の結果を用いると、この絡み目に沿うデーン手術により得られる多様体内に圧縮不可能なトーラスが存在するかどうかも判定される。また球面束には、モノドロミー・フローが存在するが、これが絡み目に沿うデーン手術により得られる多様体内に誘導するフローは、重要なアノソフ流の例を含むことがわかっており、このような力学系の研究への応用もある

このように、論文提出者の結果は円周上の4点穴あき球面束に対してその圧縮不可能曲面の分類を具体的におこなった点で重要であり、そのことによって3次元多様体のトポロジーの研究に重要な意味を持つものである。よって論文提出者佐伯真一は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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