No | 121560 | |
著者(漢字) | 八嶋,洋行 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤシマ,ヒロユキ | |
標題(和) | 有限鏡映群の原始ベクトル場と実半解析的集合の幾何学との関係について | |
標題(洋) | The primitive vector field and the real semi-analytic geometry of a finite reflection group. | |
報告番号 | 121560 | |
報告番号 | 甲21560 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数第282号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | V=Rlを1次元のEuclid空間とする.Wを有限で既約な鏡映群とし,鏡映群WのVへの作用は効果的であるとする.さらにWΣを鏡映群Wの放物型部分群として,V′をWΣが効果的に作用するベクトル空間とする.この論文では,鏡映群Wから定まる判別式(discriminant)ΔとWから定まる(圏的)商空間上の原始的ベクトル場ξを用いて,V′からVへのWΣ同変な埋め込み写像を構成する. A(W)を,鏡映がWの元になっている超平面全体の集合とし,Wに関する鏡映面配置と呼ぶ.(W,Γ)をWのCoxeter系とし,Dを(W,Γ)のW-作用に関する基本領域とする. Kを体R,Cのいずれかとし,〓とする.Rを鏡映群の不変式環とすると,Chevalleyの定理により,代数的に独立な斉次不変多項式〓が存在して,Rは〓と書き表すことができる.ここで,この生成元集合を以下1つとって固定する. ここで商写像π:〓を〓とする.この写像の値域K-〓をVKの圏的商空間とよび,以下VKと書くことにする.ここで,VKの〓ι方向のベクトル場は原始形式や平坦構造の理論における,原始ベクトル場となる([Sal1],[Sal2]).以下ξでVKの原始ベクトル場を表すことにする.また,〓を原始ベクトル場の方向に関する射影とし,この写像の値域を〓と書くことにする.ここで,〓を〓の内点集合とする. ここで,Wの判別式Δを〓とおく.ここで,lHは超平面Hを定義する1次式とする.Δ∈Rなので,圏的商空間Vの中に判別式の零点集合DW:{Δ=0}を定める.このとき判別式Δは, Wの各生成元σ∈Γに対応するEW上の1価解析関数ψσが存在して と書き表される([Sai3]).原始ベクトル場ξは判別式の零点集合DWの正規点集合と横断的であることから,解析関数の零点集合γι-ψσ=0を原始ベクトル場に沿って動かした像γι-ψσ=±ξは実基本領域の商Dとの共通部分はι-1次元の実半解析的集合になる.ε∈Rに対して,p-1(EW)上で定義される半解析的集合Lσ(ε)を とおく.また,σ∈Γに対して符号±1を次のように定める. 〓の部分集合Σに対してV上の実解析的集合〓,およびV上の半解析的集合LΣ⊂Vをそれぞれ次のように定義する.この半解析的集合LΣはWの部分群としてのWΣ作用に関して不変である. この半解析的集合LΣを像とするV′からVへのWΣ-同変な埋め込み写像を構成することができた. Theorem 1.ΣをΓの真部分集合としr=|Σ|とする.WΣをΣで生成されるWの放物型部分群とする.V′=RrをWΣが効果的に作用するEuclid空間とする.このとき,同相な埋め込み写像ιΣ:V′で,次の性質を満たすものが存在する. 1.ιΣV′=LΣでιΣはV′とLΣの間の同相写像を与える. 2.写像ιΣはV′の鏡映面配置A(WΣ)の補空間V′\∪H∈A(WΣ)HをVの鏡映面配置A(W)の補空間V\∪H∈A(W)Hにうつす. 3.H∈A(WΣ)を鏡映面とし,ω∈WΣをHに関する鏡映とする.このとき,ιΣは超平面HをA(W)の超平面H′の中にうつす.このとき,この超平面H′に関する鏡映ω′∈Wは自然な単射準同型WΣ〓Wを通してωと同一視される. 4.写像ιΣはWΣ作用に関して同変である. 特に|Σ|=ι-1の場合は上の2.から4.を満たす滑らかな半解析的写像Ψj:V′→Vであって,像Ψj(Rι-1)がι-1と微分同相になるものが存在する. これら定理により,Artin群のコホモロジーに関する系が得られる. ここで,鏡映群WのArtin群Wとは,複素化した鏡映面配置の補空間〓のW-作用に関する商空間の基本群W:=π1(M(A(W))/W)である.上の写像ΨΣは性質1.2.から,超平面配置によって定義される面分の組み合わせ的な構造を保つ.それにより埋め込み写像ΨΣはSalvetti複体XW([Sal1],[Sal2])の埋め込み〓を誘導する.これにより,次の系が得られる. Corollary 2.埋め込み写像ΨΣはArtin群WとWΣの整係数コホモロジーの間の準同型写像〓を誘導する. | |
審査要旨 | 実線形空間Vに有限鏡映群Wが既約に作用しているとする.Wの鏡映面の補集合〓の複素化XCについて,商空間XC/Wの基本群はArtin群とよばれ,古典的な組みひも群の一連の一般化を与える.1970年代にDeligneによってXCの普遍被覆空間は可縮であることが証明された.したがって,Xc/WのコホモロジーはArtin群のコホモロジーと同型である.また, XCおよび商空間XC/Wのセル分割はSalvettiによって実鏡映面の集合が定義するstratificationを用いて与えられており,とくにXc/Wは多面体の境界をはりあわせた空間とホモトピー同値であることが知られている.このセル分割によって定まる複体はSalvetti複体とよばれ,これを用いたArtin群のコホモロジーに関する研究が, DeConcini, Procesi, Salvettiらによってなされている. 本論文の主題は,Wを定義するCoxeter系Γのある部分集合Σに対応して定義される放物型部分群WΣに対して,WとWΣそれぞれの鏡映面の集合の関係を,解析的に記述することである.そのための手法として,齋藤恭司によって構成された,原始ベクトル場が本質的に用いられている.WΣの作用する実線形空間をWΣで表す.本論文では,原始ベクトル場が生成するフローとdiscriminant集合の位置関係を詳細に記述し,このフローに関するdiscriminant集合のシフトを用いることによって,実半解折的な埋め込み写像ι:VΣ→Vで,WΣおよびWの作用と同変であるものを構成した.これによって,WΣの鏡映面の補集合は, Xの実半解析的部分集合として実現することができる. WΣとW対応にするArtin群を,それぞれ,AΣ,Aで表す.上の構成は,それぞれの複素化に拡張され,Artin群のコホモロジーを記述するSalvetti複体の間の自然な埋め込み写像が構成さる.したがって,群のコホモロジーの間の写像〓が誘導され,これは, Artin群とその放物型部分群のコホモロジーの関係の記述に有効に用いられる. 本論文は,原始ベクトル場の手法を用いて, Coxetcr群とその放物型部分群の鏡映面の相互関係および,Artin群とその放物型部分のコホモロジーに対して新しい知見をもたらしたものであり,位相幾何学と複素解析幾何学の分野に大きく貢献する.よって,論文提出者 八嶋洋行は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. | |
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