No | 121568 | |
著者(漢字) | 山本,修司 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤマモト,シュウジ | |
標題(和) | 実2次体におけるクロネッカー極限公式について | |
標題(洋) | On Kronecker limit formulas for real quadratic fields | |
報告番号 | 121568 | |
報告番号 | 甲21568 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数第290号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | Kを実2次体とし,イデアルf⊂OKを法とする狭義合同イデアル類群をClK(f)で表す.Kにおけるクロネッカー極限公式とは,ClK(f)の指標xに対してL関数L(s,x)のs=1における値L(1,x)(x=1)のときはローラン展開の定数項)を表す公式のことを指す.これは各合同類〓に対して部分ζ関数ζ(s,〓)のs=1におけるローラン展開の定数項を求めることと同等である.古典的にはKが有理数体(ディリクレークンマー)または虚2次体(クロネッカー)の場合の公式が知られており,これらが円単数,楕円単数と関係することから, Kが実2次体(またはより一般の代数体)の場合にも,クロネッカー極限公式と類体の構成問題との関係が期待されている(スターター新谷予想). 本論文ではまず,合同類〓に対して{(wk,xk,yk) k=1,...,rm}という有限個のデータを対応させた.ここでr,mは自然数,wkはKの元,xk,yk,はそれぞれ0<xk〓1,0〓yk<1を満たす有理数である.またwkは次のような純循環連分数展開を持つ: これらを用いて次のような極限公式が与えられる: 定理1(Theorem 2.2.1)埋め込みK→Rを固定し,KにおけるQ上の共役写像をx→x′で表す.またKの判別式をDとおき,≡1(modf)なる総正単数群の生成元で1より大きなものを εfと書く.このとき ここでPは なる関数,ただしLi2は2重対数関数,ψはガンマ関数の対数微分であり, である. この公式はf=OKの場合におけるZagier[3]の結果の拡張となっている.Zagierの公式にもεkは現れるが,(xk,yk)は自動的に全て(1,0)となるため明示的には現れていない.次に〓を で定義される合同類とすると,指標xは4種類の符号〓によって分類される.この符号における+1の個数をbxとおくと,xが原始指標のときには,関数等式によって なる等式が成り立つことが分かる.よってクロネッカー極限公式の研究は〓および〓なる値の研究に帰着する.本論文では前の二つについて考察した.〓については,第4節において次の公式を示した: 定理2(Theorem 4.1.1) Bi(X)をベルヌーイ多項式とするとき, これはf=OKの場合にはMeyer-Zagierの公式と一致する([4]を参照).なおこの表示の応用として,〓なる等式(Proposition 4.2.1)が直接の計算によって証明される. 一方第5節では,〓に関連してなる量について考察した.これは新谷卓郎[1,2]によって導入された不変量(の逆数)である.2重正弦関数S(w,z)を用いると,X(〓)は次のように表示される: 定理3(Theorem 5.1.1)zk=xkwk+ykとおくと これは新谷による表示とは(似ているが)一般には異なる.主な相違点は{(wk,xk,yk)}という,〓に標準的に付随するデータを用いていることである. 定理3において,x(〓)に対する二つの無限素点の寄与が分離しているのが見て取れる.そこで とおく.本論文における最後の主結果は次の定理である: 定理4 (Theorem 5.2.3) なお定理4から, 〓のときには,L(1,x)がx1(〓)のみを用いて表されることが分かる(符号が(-1,+1)の場合はX2〓のみ,となる).このことから,一般の総実代数体Kに対しても,L(1,x)にはxの符号が正となる無限素点のみが寄与する,との予想が考えられる. | |
審査要旨 | 虚2次体の類体は,虚数乗法をもつ楕円曲線上の楕円関数の等分点での値を用いて構成されることが良く知られている.また虚2次体のL関数の整数点での様子についても,楕円関数を用いた多くの結果が知られている.しかし実2次体の場合,虚数乗法をもつ楕円曲線に対応するものが何かは,未だ良く分かっていない. 山本修司氏は実2次体Kの狭義合同類指標xに対応するL関数L(s,x)のs=0,1での様子を研究した.実2次体のL関数の整数点での様子については,Heckeの積分公式をはじめとする様々な結果が知られているが,山本氏は特に1970年代の新谷卓郎とD. Zagierの研究のアイデアをうまく組み合わせることにより,彼らの結果を拡張,精密化した.新谷は,より一般にd次の総実代数体Fの場合に,Fの総正単数群E(F)+の作用と両立するRd+の単体的錐分割を1つ選ぶことにより,L関数を多重ゼータ関数(の一般化)を用いて記述し,その整数点での様子を研究した.特に実2次体の場合,総正単数群は1つの総正基本単数εで生成され,新谷はεn,εn+1で張られる錐(n∈Z)による分割を用いて詳しく研究した.一方Zagierは,xの導手が1すなわちxが狭義イデアル類群の指標である場合に,実2次体の連分数論を用いた別の錐分割を用いて,L関数の整数点での様子を調べた. これらの研究に関連して,山本氏が得た結果は次の通りである.(1) Zagierの連分数論を用いた錐分割を導手が一般の場合に拡張し,それを使ってL関数の多重ゼータ関数(の一般化)を用いた記述を与えた.新谷の記述は狭義イデアル類の代表の取り方に依存するが,山本氏の表示は依存しない.また記述にあらわれるデータ(Kの元と[0,1]に含まれる有理数からなる.以後山本氏にならって分割データと呼ぶ)は連分数展開と関連した漸化式を用いて具体的に計算しやすい.(2) L(x,s)のs=1でのLaurent展開の定数項に関するZagierのKro-necker極限公式を,(1)を用いて導手が一般の場合へ拡張した.(3) L(x,0)をベルヌイ多項式の分割データでの値と連分数展開の係数を用いて記述した.同種の公式はHerglotz, Meyer, Siegelなどにより古くから知られている.また新谷は総実代数体の場合にも錐分割を用いて同様の公式を得ていた.山本氏は新谷の手法を(1)に適用した.(4) xの無限素点での符号数が(1,-1)または(-1,1)の場合に,L′(0,x)を,符号が正の無限素点における2重三角関数の分割データでの値を用いて記述した.新谷も上で述べた別の分割を用いて同様の公式を示していたが,それには符号が負の無限素点での値も現れていた.連分数を用いた分割でも,アプリオリには符号が負の無限素点での値も現れるが,山本氏は2重三角関数の分割データにおける値のふるまいを詳しく解析することにより,負の無限素点の寄与がないことを示した.これは指標xに対するBeilinson予想において,L′(0,x)の超越的部分をあらわすregulator写像がxの符号が正の無限素点においてのみ現れることと対応していると思われ,興味深い. 以上のように,山本氏は実2次体の導手が一般の指標に対応するL関数を連分数論を用いて調べる新しい手法を与え,特に類体の構成問題とも関連するL′(0,x)の値についての新しい結果を得た.Zagierや新谷の研究以後30年近く進展のなかった分野で,このような新しい結果を得たことは評価できる.よって,論文提出者山本修司は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める. | |
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