No | 122695 | |
著者(漢字) | 土谷,洋平 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ツチヤ,ヨウヘイ | |
標題(和) | 遅れ型非線形可積分方程式について | |
標題(洋) | On Integrable Nonlinear Delay Equations | |
報告番号 | 122695 | |
報告番号 | 甲22695 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第297号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1 研究の動機,意義付け 本論文は非局所的なソリトン方程式のKP階層から見た特徴づけに関する総説である.また,追従モデルと呼ばれる交通流モデルに関する結果も附録として最後に付けてある. 非局所的とはこの場合特異積分変換 の項を持つという意味である.ただしδは正の定数である.非局所的な方程式は,虚数方向の空間遅れの項をもつ偏微分方程式に書き直して考えるのが常である.また追従モデルも時間遅れの項を持つ非線形発展方程式である.よって本論文は遅れを持つ非線形偏微分方程式に関するものである.実際のところ,本研究は主に次の2点を問題意識として行われている. (1)遅れを持つ非線形微分方程式に対してKP階層の理論のような代数的な枠組みがどれほど適用可能か. (2)可積分系の方法を用いて遅れ型非線形微分方程式の特殊解を見つけたい. 2 結果 主な結果を以下に列挙する. 1.佐藤理論に基づいて非局所非線形Schrodinger方程式(INLS方程式) のPlemelj形式 を最低次に持つ階層を構成した. 変数y,z(μ),t1(μ),t2(μ),...(μ=1,2)のベクトル値関数f=〓に対して線形常微分方程式 と,分散関係式 を課す.ただし太字で表した文字は2×2行列であり,特にEμは を表すものとする.ここからPの満たす方程式系(佐藤方程式)を導き,簡約条件(∂t1(1)-∂z(2))P=0あるいは(∂t1(2)-∂z(1))P=0を課す.すると,W(1)の成分が方程式(2)を満たすことが示される.すなわち佐藤理論に基づいてINLS階層が構成される. 2.INLSの明るい多ソリトン解を求めた. 佐藤理論によって導かれたことにより,(2)の多ソリトン解がWronski行列式の形で自然に得られる.これをUとおく.問題はUが微差分方程式(2)だけではなく積分変換で書かれた元々のINLS方程式(1)の解にもなっているかどうかである.そのためには,(2)の多ソリトン解をUとおくと,Uが解析的条件 (1)x,tが実数ならばU(x-iδ,t)とU(x+iδ,t)が複素共役, (2)U(z,t)は領域Imz〓δを含むある開集合で正則, (3)zが(2)の領域にあるとき,z=x+iyとしてlim(x→∞)U(z,t)=-lim(x→∞)U(z,t).を満たせば十分であることを示し,さらにこれらの性質を満たすUを具体的に構成した. 3.一般内部波階層,INLS階層のような非局所可積分系を双線形恒等式およびFermion描像の観点から特徴づけた.すなわち一般内部波階層は2s-簡約KP階層の,INLS階層はNLS階層の径数δに沿った変形であると考えられることを示した. 代表的な可積分系であるKP階層,2成分KP階層には佐藤方程式以外にも双線形恒等式およびFermion描像と呼ばれる2種類の表式がある.非局所的な可積分方程式の階層である一般化内部波階層と本論文で得られたINLS階層をとりあげ,それぞれの双線形恒等式とFermion描像を考察した.その結果S次の一般化内部波階層の対称性は であり,INLS階層の対称性はu2であると考えられることが分かった.ただし であり,Hnはgl(∞)のHeisenberg部分代数の標準的な基底である. 4.追従型交通流モデルの衝撃波解を発見した. 追従モデルと呼ばれる交通流モデルは,古典可積分系とは関係無いが非線形な遅れ型偏微分方程式であるので大いに本研究の興味の対象である. 追従モデルは一次元的な道路を複数の車が走っている状況を記述するモデルであって,具体的に書くと次のような時間遅れのある微差分方程式の形をしている. Xn(t)=F(xn(t-γ)-xn-1(t-γ)) (n=1,2,...) 式中xn(t)はn番目の車の時刻tにおける位置座標であり,時間遅れγは交通状況に対する人の反応時間を表す.関数Fは模型を特徴づけるもので,力学系におけるポテンシャルに対応する.Fが指数関数,双曲正接関数の場合に指数関数を用いて表されるキンクの衝撃波解を求めた. | |
審査要旨 | 本論文は遅れ型非線形微(差)分方程式に関する3つの重要な結果を与えている. 一つは、可積分な遅れ型非線形微分方程式をKP階層における佐藤理論の拡張によって構成したことともにその方程式の対称性の特徴づけが得られたことである。もう一つは、非局所的なソリトン方程式と遅れ型微分方程式との関係を用い、非線形Schrodinger方程式の非局所的な拡張であるINLS方程式の明るいソリトン解を求めたことである。3つ目の結果は、交通流モデルとして使われている遅れ型非線形微差分方程式の新しい衝撃波解を発見したことである。 非局所的とは、本論文では特異積分変換 の項を持つという意味である。非局所的な方程式は,虚数方向の空間遅れの項をもつ偏微分方程式に書き直して考えるのが常である。本論文の前半では、非局所非線形Schrodinger方程式(INLS方程式) iut=Uxx-U(i+T)(|U|2)x (1) のPlemelj形式 を最低次に持つ階層が構成されている.そのために用いられた佐藤理論の拡張は、変数y,Z(μ),t1(μ),t2(μ),...(μ=1,2)のベクトル値関数f=〓に対して線形常微分方程式P∂nyf:=∂nyf+W(1)∂(n-1y)f+W(2)∂(n-2y)+...+W(n)f=0と,分散関係式 を課すことによって得られたものである。本論文提出者は、Pの満たす佐藤方程式系に簡約条件(∂t1(1)-∂z(2))P=0を課すと,W(1)の成分が方程式(2)を満たすことを示した.なお、佐藤理論を用いることにより,(2)の多ソリトン解がWronski行列式の形で自然に得られるが、その解が微差分方程式(2)だけではなくINLS方程式(1)の解にもなるのかという問題がある.そのためには,方程式系(2)の解Uがa)「x,tが実数ならばU(x-iδ,t)とU(x+iδ,t)が複素共役である」b)「U(z,t)は領域ImZ〓δを含むある開集合で正則である」c)「Zがb)の領域にあるとき,Z=x+iyとして〓U(z,t)=-〓U(z,t)が成り立つ」の3つの条件を満たせば十分であることが示され,この条件を満たす明るいソリトン解が構成された.さらに、一般内部波階層,INLS階層のような非局所可積分系を双線形恒等式およびFermion描像による特徴づけが得られた.すなわち一般内部波階層は2s-簡約KP階層の,INLS階層はNLS階層の径数δに沿った変形であると考えられることが示された.特に、非局所的な可積分方程式の階層である一般化内部波階層と本論文で得られたINLS階層のそれぞれの双線形恒等式とFermion描像が考察され、その結果s次の一般化内部波階層の対称性は であり,INLS階層の対称性はu2であると考えられることが明らかになった.ただしH2s:=〓n〓2〓H(sn)であり,Hnはgl(∞)のHeisenberg部分代数の標準的な基底である. 本論文の後半で考察されたのは、次のような時間遅れのある微差分方程式である. この方程式は「追従モデル」と呼ばれている一次元的な道路を複数の車が走っている状況を記述する交通流モデルである.式中xn(t)はn番目の車の時刻tにおける位置座標であり,時間遅れγは交通状況に対する人の反応時間を表す.関数Fは模型を特徴づけるもので,力学系におけるポテンシャルに対応する.このモデルに関して、論文提出者が、Fが指数関数または双曲正接関数の場合、広田の双線形化法を用いて新しい衝撃波解を構成した. まとめると、論文提出者は、非局所的な可積分系に関して、(1)佐藤理論に基づいてINLS階層を構成し、(2)その階層における方程式の明るいソリトン解を得、(3)それらの方程式の対称性の特徴付けを完遂した.さらに、(4)追従モデルの新しい衝撃波解を得た.特に(3)に得られた結果が可積分系に関して非常に興味深い結果であると思われている.よって、論文提出者土谷洋平は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. | |
UTokyo Repositoryリンク |