学位論文要旨



No 122709
著者(漢字) 安田,雅哉
著者(英字)
著者(カナ) ヤスダ,マサヤ
標題(和) 良い還元を持つ楕円曲線のねじれ点について
標題(洋) Torsion points of elliptic curve with good reduction
報告番号 122709
報告番号 甲22709
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第311号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 斎藤,秀司
 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 宮岡,洋一
内容要旨 要旨を表示する

 有理数体上において、すべての素点において良い還元をもつ楕円曲線は存在しないことは良く知られている。さらに、類数が1の虚2次体において、そのような楕円曲線は存在しないことも証明されている。しかし、多くの実2次体上において、そのような楕円曲線の存在が知られている。この論文においては、実素点をもつ代数体上定義され、すべての素点において良い還元をもつ楕円曲線のMordell-Weil群のtorsion partについて考えた。ここで、Kを実素点をもつ代数体、EをK上定義されたすべての素点において良い還元をもつ楕円曲線とし、pを素数とする。Mordell-Weil群E(K)のtorsion partを考えるのに、p-等分点の群E(K)[p]を考察した。EはKのすべての素点で良い還元をもつので、EのKの整数環上のNeron-model のp-等分点は、Kの整数環上の有限群スキームの構造を持つ。そこで、Kの整数環上において、constant group schemeとdiagonalizable group schemeのExtension groupを考察した。そのことを利用して、ある条件下においてp-等分点の群E(K)[p]が自明な群であることを証明した。特に、ある実2次体においては、pが5以上の素数に対してE(K)[p]が自明であることを示した。

 次に、位数がp-冪の類数1の虚2次体Kの整数環上の有限群スキームを考察した。そのことを利用して、K上定義されたアーベル多様体でpの上の素点においてのみ悪い還元をもつものを考察した。ある条件下において、そのようなアーベル多様体は、K上では虚数乗法をもたないことを証明した。

審査要旨 要旨を表示する

 Eを代数体K上の楕円曲線とする.K=Q,またはKが類数1の虚2次体の場合には,すべての素点においてよい還元をもつ楕円曲線は存在しないことが知られている.しかし,実2次体上においては,すべての素点においてよい還元をもつような楕円曲線が存在する.このような状況の下,安田雅哉は,本論文において,実素点をもつ代数体上定義され,すべての素点においてよい還元をもつ楕円曲線の有理点のねじれ部分を考察し,次のような結果を得ている.

 定理.Kを実素点をもつ代数体,pを素数とする.ζpを1の原始p乗根とし,pがK(ζp)の類数を割らないとする.さらに,pの上の素点pの分岐指数をepとするとき,任意のpに対しep<p-1と仮定する.このとき,EがK上至る所よい還元を持つならば,Eは位数pのK-有理点を持たない.

 この定理を用いれば,K=Q(〓),またはK=Q(〓)とするとき,K上至る所よい還元をもつような楕円曲線Eをとれば,p〓5なる素数pに対し,Eには位数pのK上の有理点が存在しないことがわかる.

 つぎに,アーベル多様体の虚数乗法の存在についてつぎの結果を得ている.

 定理.mを平方因子を持たない負の整数,K=Q(〓)を類数1の虚2次体,pをmを割らない素数で,mがpの平方剰余であるとする.pはK(ζp)の類数を割らないとし,p上の素点でだけ悪い還元を持つK=Q(〓)上のアーベル多様体Aを考える.このとき,Aは虚数乗法を持たない.

 この系として,K=Q(〓)上のアーベル多様体で虚数乗法を持ち,至る所よい還元を持つものは存在しないことがわかる.

 2つの定理はいずれも,Kの整数環OK上のdiagonal group scheme μpのZ/pZによる拡大を調べ,これが消えることを示すことによってなされる.群スキームの拡大を調べる手法は,SchoofがQ上の楕円曲線で小さな1素点のみで半単純還元をもち,他の素点ではよい還元をもつようなものの非存在を調べるために考案したものの類似であるが,その手法を上記2つの定理の証明にうまく適用して結果を得ている.

 本論文は,長い歴史を持ち重要な対象である代数体上の楕円曲線をとりあげ,それを新たな視点から研究して新しい結果を付け加えた有意義なもので,この方面の研究に大きく貢献するものである.よって、論文提出者 安田 雅哉は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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