学位論文要旨



No 123861
著者(漢字) 王,言金
著者(英字) WANG,Yanjin
著者(カナ) オウ,ゲンキン
標題(和) あるシュレーディンガー方程式及び波動方程式に対するコーシー問題
標題(洋) Cauchy problems for some Schrdinger equations and wave equations
報告番号 123861
報告番号 甲23861
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第319号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 北田,均
 東京大学 教授 俣野,博
 東京大学 教授 片岡,清臣
 東京大学 教授 中村,周
 東京大学 准教授 山本,昌宏
内容要旨 要旨を表示する

本論文では,非線形シュレーディンガー方程式と非線形波動方程式に関するコーシー問題を考察し,さらにHarmonicポテンシャルを持ったHartree方程式に対して定在波の不安定性を考える.

非線形シュレーディンガー方程式〓

を考える.この方程式は屈折率が波の振幅に関し変化する媒体におけるレーザー光線の伝播などの非線形の波動の記述における様々な物理的な現象を記述する.以上の方程式に対してコーシー問題においては周知のとおり,1<p<1+4/ηのとき大域解が存在する.しかし1+4/η≦pの時負の初期エネルギーを持った方程式の解は時間について大域的に存在しないことがある.本論文ではまず次の二つのシュレーディンガー方程式を考える.

・空間二次元の時inhomogeneous非線形の項をもつシュレーディンガー方程式:〓(1)ここにuは(t,x)∈R×R2に関する複素数値の未知関数を表し,v(x)はある条件を満たす実数値関数である.

・Harmonicポテンシャルを持つHartree方程式:〓(2)ここにuは(t,x)∈R×Rnに関する複素数値の未知関数を表し,0<λ<ηのとき〓(3)という意味である.空間三次元及びλ=1のとき以上の方程式はSchrodinger-Poisson systemと同等である.

第二に,本論文では波動方程式

utt(t,x)-△u(t,x)=f(u)

を考える.ここにuは(t,x)∈R×Rnの実数値の未知関数を表し,f(u)はある非線形の項である.この方程式は音波,光波,水の波など様々な波動の伝播を記述する.波動方程式の初期値問題においては周知のとおり,初期エネルギーが負のとき方程式の解は時間について大域的に存在しないことがある.最近Levine氏とTbdorove氏は任意の与えられた正の初期エネルギーに対しある初期値に対する条件のもとで波動方程式の解が爆発することを証明した.またGazzola氏とSquassina氏は任意の与えられた正の初期エネルギーの場合波動方程式の解が時間について大域的に存在しない初期データに関する条件を挙げたが,その証明は複雑であり他の型の方程式に対して適用することは困難のように思われる.本論文の第二のテーマは様々な波動方程式に対し,任意の与えられた正の初期エネルギーの場合に対し波動方程式の時間発展問題の解が爆発する初期値についての条件をある種の統一的な視点から与えることにある.それらの方程式は次の四つの形の波動方程式である.

●Klein-Gordon方程式:〓(4)ここにuは(t,x)∈R×Rnの実数値の未知関数を表し,Uo(x)とu1(x)は実数値関数であり,m≠0は実定数であり,非線形の項f(u)は次の条件を満たす:ある∈>0が存在して,どんなs∈Rに関しても,〓(5)が成立する,ここにF(s)∫osf(ξ)dξ.明らかにf(s)=s(p-1)sは0<∈<p-1のとき(5)をみたす.

・inhomogeneous mediumの中の波動方程式:〓(6)ここにuは(t,x)∈R×Rnの実数値の未知関数を表し,Uo(x)とu1(x)は実数値関数であり,mは実定数であり,非線形の項f(u)は条件(5)をみたし,ρ(x)は次の条件をみたす:任意のx∈Rnに対して,ρ(x)>0であり,r∈(0,1)のときρ∈(o,r)(Rn)およびρ∈L(n/2)(Rn)∩L∞(Rn)である.この方程式は数理物理学の様々な領域,地球物理学,および海洋音響学におけるアプリケーションにおいて用いられる.

●非負のポテンシャルをもつ連立Klein-Gordon方程式系:〓(7)ここにUとUは(t,x)∈R×Rnの実数値の未知関数を表し,パラメーターα1とα2は正の定数,二つの質量は非零であり,m1≠0,m2≠0,K1(x)とK2(x)は二つの非負関数である。

●非線形Kirchhoff方程式:〓(8)ここにuは(t,x)の∈R×Ωの実数値の未知関数を表し,ΩはRnの有界なLipschitz領域であり,fは条件(5)を満たし.kは次の条件を満足する:ある∈0>0が存在して.任意のs∈Rに対して,が成立する.ここに∈は条件(5)と同じもので,k0は正の定数であり,K(s)=∫osk(ζ)dζである.この方程式は,Kirchhoff氏により非線形の弾性振動問題を記述するものとして確立された.

以上のSchrodinger方程式と波動方程式に対して,本論文では各章において次の主要結果を述べる.

・第一章でinhomogeneous非線性の項を持つSchrodinger方程式(1)を考える.v(x)がある条件を満たすとき,変分法の手法より,まず条件付き極値問題を構成する.そのうえでscaling argumenlとStrauss氏のcompactness lemmaを応用しこの極値問題を解く.そして方程式(1)の日寺間発展問題から生成される流れは三つの不変集合を持つことを示す.以上より3≦p<∞のとき空間二次元の場合に時間発展問題の大域解の存在性とblow upに関するsharp conditionsを得る.さらに方程式の解が無限の時間の後にblow upするある現象を論ずる。

・第二章では2<λ<min{π,4}およびn≧3の場合にHarmonicポテンシャルを持つHartree方程式(2)を考える.この章でも変分法を用いる.まずStrauss氏のcompactness lemma,Hardy-littlewood-Sobolev不等式と変分法の議論より方程式(2)に関してEuler方程式の基底状態φの存在を証明する.方程式(2)の定在波exp(iωt)φの強い不安定性を得るため,補助の極値問題を考える.そして方程式(2)の時間発展問題から生成される流れの不変集合を構成し,初期値がこの不変集合の中に入るとき方程式の解がblow upするという結果を証明する.最後に適切な条件のもとに方程式(2)の定在波exp(iωt)に関する強い不安定性を証明する.

・第三章でKlein-Gordon方程式(4)を考える.Klein-Gordon方程式の初期値問題においては周知のとおり,初期エネルギーが負のときKlein-Gordon方程式(4)の解は時間について大域的に存在しないことがある.一般的な非線形項を持つKlein-Gordon方程式(4)に対して,任意の与えられた正の初期エネルギーを持った初期値がある条件を満足すれば,方程式(4)の解は有限時間内に爆発し,したがってこの場合も解は大域的に存在しないという結果を得る.証明の手法はLevine氏の凹議論を応用する.

・第四章ではinhomogeneous mediumの中の波動方程式(6)を考える.まず非線形項が一般的な場合に負の初期エネルギーにたいし方程式(6)の解がある有限の時間において爆発するという結果を得る。初期値がゼロのエネルギーを持つ場合も初期値がある1つの条件を満足すれば解はある有限の時間において爆発することも示す.任意の正の初期エネルギーに対しても初期値がある条件を満足すれば対応する方程式(6)の解が有限時間内に爆発するという結果を得る.

●第五章で連立Klein-Gordon方程式系(7)を考える.この系に対して,不動点原理より系(7)の解が局所的に存在することが証明される.空間の次元が2と3のとき,変分法を使って解の爆発が得られる.この結果を用いて方程式系(7)の定在波のinstabilityも証明する。ただし,ある場合は大域的な解が存在する場合があることも示す.また,一般の空間次元の場合に,任意の初期エネルギーに対して解が有限時間内に爆発する初期値に対するある条件をあげる.

・第六章ではKirchhoff方程式(8)を考える.Kirchoff方程式(8)に対し第三章の手法を拡張し,任意の正の初期エネルギーを持った初期値がある条件を満足すればKirchoff方程式の解が有限時間内に爆発することを証明する.

審査要旨 要旨を表示する

王言金氏の仕事の主題は非線形シュレーディンガニ方程式および非線形波動方程式の解の爆発が起こる条件の研究である.

非線形波動方程式の場合、非線形項が大きいとき解が爆発する現象はよく知られている.これは初期エネルギーが負の場合に対応する。非線形項が小さい場合すなわち初期エネルギーが正の場合は必ずしも爆発しない場合があるが,ある条件の下では解が爆発することは最近幾人かの研究により知られている.王氏は解の初期値関数に依存するある汎関数を導入し一般の正の初期エネルギーの場合をその汎関数の正負によって分け,その汎関数の正負により解の非爆発と爆発を分類することに成功した.

波動方程式の爆発の条件に関する王氏の仕事は多くの方程式に適用できる.これまでに王氏が彼の方法を適用して初期エネルギーが正の場合に解の爆発の条件を与えた方程式は以下の通りである.

1.質量が正の場合のKlein-Gordon方程式

2.非均質媒体の中を伝播する波動の方程式

3.非負ポテンシャルを持つ連立のKlein-Gordon方程式

4.非線形Kirchhoff方程式

5.粘弾性項を持った波動方程式

6.張力項を持った4階波動方程式

質量が正の場合のKlein-Gordon方程式を例にとって王氏の方法を説明する.質量が正ならそれは1と仮定しても一般性は失われないからこの方程式は〓と書ける.ただし非線形項f(u)はLevineの条件:あるε>0が存在して任意のs∈Eに対し〓を満たすものとする.このような非線形項を持つ場合一般の抽象的波動方程式に対し,初期エネルギーが負であれば解は大域的に存在しないことはLevine(1974)によって示されている.上の方程式の場合時刻tにおけるエネルギーE(t)は〓により定義され,時間に依存しない一定値を取る,王氏は補助の汎関数としてを導入し,初期エネルギーが正の場合っまり

E(0)>0

の時は本質的に

I(uo)<o

という補助条件を加えれば解は有限時刻t=Tmax≦T(<∞)において爆発することを示した.この条件I(Uo)<0は,非線形項が小である(E(0)>0)場合の中でも非線形項がある程度大きい場合を取り出す条件である.証明の方法は上の条件の下に〓とおけばα=ε/4とするときt∈(0,T)に対し〓を満たすことを示す.するとG-αは凹(concave)関数で,あるTmax≦Tに対しt→TmaxのときG(t)-α→0となり,このことからG(t)→∞(t→Tmax)がいえる.G(t)の定義からこれはt→Tmaxの時U(t)が爆発することを示す.

他の波動方程式の場合も少々複雑になる場合もあるが基本的にこのように凹関数に帰着させる方法による.このような波動方程式に対し,シュレーディンガー方程式はたとえば〓のようになり,波動方程式が実時間についての方程式とすれば虚時間についての方程式となる.この場合エネルギー(線形で言うハミルトニアンに相当する)の符号の役割が波動方程式と逆転し,エネルギーE(0)<0の場合に相当するのはエネルギーが基底状態の自由エネルギーより大きい場合である.これは線形で言えば連続スペクトルに対応する場合である..波動方程式の場合は実時間であるので上述のようにE(0)<0の場合は解の爆発が起こるが,シュレーディンガー方程式の場合は時間が虚時間であるため解は複素平面上を振動する関数となり,振動積分として収束し時間に関し有界な解となる.逆にエネルギーが基底状態の自由エネルギーより小さい場合は波動方程式のE(0)>0の場合に相当し,補助関数〓により爆発解か有界な解になるかを判別することができる.この場合波動方程式と同様非線形項が大きな場合つまり

I(Uo)<0

のとき解は有限ないし無限時間内で爆発する.

シュレーディンガー型の方程式として王氏が考察したもう一つの方程式は多体電子系の運動の統計的近似を記述するHartree方程式である.この方程式の場合も基底状態を求める変分問題を解いて上のシュレーディンガー方程式の場合と同様の結果を得た.

波動方程式についての結果もシュレーディンガー方程式についての結果も双方とも独創的な方法を用い,かっ巧妙な議論および評価法を考案しており,手氏独自の結果となっている,同時にすべて新結果であり,この分野の研究に大きく貢献する仕事である.

よって、論文提出者王言金は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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