学位論文要旨



No 123865
著者(漢字) 中村,健太郎
著者(英字)
著者(カナ) ナカムラ,ケンタロウ
標題(和) p-進体の二次元三角表現の分類
標題(洋) Classification of two dimensional trianguline representations of p-adic fields
報告番号 123865
報告番号 甲23865
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第323号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 志甫,淳
 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 斎藤,秀司
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 准教授 辻,雄
内容要旨 要旨を表示する

p を素数とする.p 進局所体K のガロア群の表現に関する重要な理論として,K のWeil-Deligne 群の表現とGLn(K) の表現とが自然な対応をもつという局所Langlands 対応の理論がある.l をp と異なる素数とする時,p 進局所体のガロア群のl 進表現は自然にWeil-Deligne 群の表現と対応するので,局所Langlands 対応によりGLn(K) のある表現と対応する.しかしながら,p 進局所体のガロア群のp 進表現の場合はfiltration 付きのWeil-Deligne 群の表現と対応するので,対応すべきGL2(K) の表現にも付加構造があるべきである.K = Qp の2 次元既約表現の場合,それはGL2(Qp) のある種のp 進Banach表現と対応するというのがBreuil により創始されたp 進局所Langlands 対応の予想で,この対応はColmez により構成された.その構成の過程でColmezはQp のガロア群の2 次元三角表現というある種のp 進表現の具体的な分類を行った.

本博士論文においては一般のQp の有限次拡大K に対して,そのガロア群の2 次元三角表現表現の研究が行われている.主結果は(A) K のガロア群の2 次元三角表現とGL2(K) の(古典的) 局所Langlands 対応との関係,および(B) K のガロア群の2 次元三角表現の分類, 特に潜在的半安定な2 次元三角表現の具体的記述,である.これらはK = Qp のときのColmez による結果の一般化となっている.

まず三角表現の定義を簡単に述べる.K のガロア群のp 進表現の圏を自然にB-pair と呼ばれる代数的対象の圏に忠実充満に埋め込むことができる.三角表現とはK のガロア群のp 進表現でB-pair として見たときに階数1 のものの拡大として書けるもののことである.B-pair の圏は(φ, Γ)-加群と呼ばれる別の代数的対象の圏と圏同値になることがBerger により知られている.Colmez によるK = Qp のときの結果は(φ, Γ)-加群を用いて証明されていたが,本博士論文ではB-pair を用いることにより一般化に成功している.

(A) の詳しい主張は次の通りである:V を2 次元潜在的半安定p 進表現とするとき,V が(適当な係数拡大の後に) 三角表現となることと,V から定まるWeil-Deligne 群の表現のF 半単純化から古典的局所Langlands 対応によって決まる保型表現がnon-supercuspidal となることが同値となる.V から決まるB-pair の階数1 の部分B-pair を用いてV から定まるfiltered φ-加群の様子を調べることにより証明がなされている.

(B) の分類の手順は以下の通りである:(1) 階数1 のB-pair を具体的に分類する.(2) 階数1 のB-pair の拡大類の群をガロアコホモロジーを用いて計算する.(3) (2) での拡大類がp 進表現から来るための必要充分条件をKedlaya のslope filtration 定理を用いて求める.(4) Bloch-Kato の計算を用いて拡大類が潜在的半安定となる条件を求め,そのときに拡大類をfiltered(φ,N)-加群を用いて記述する.最終的にはK× の局所定数な指標δ1, δ2 と整数の組{kσ}σ:K→K である条件を満たすものに対してあるパラメーター空間を定義し,そのパラメーター空間の元に対して具体的にfiltered (φ,N)-加群を構成し,そして任意の2 次元潜在的半安定p 進表現がこのようにして構成されたfiltered (φ,N)-加群に対応するp 進表現とLubin-Tate 指標のベキの差を除いて一致することを示した.K = Qp のときのColmez の結果ではパラメーター空間は1 次元以下の簡単なものであったが,本論文の結果ではパラメーター空間が複雑なものとなっており,興味深い現象といえる.

p 進局所Langlands 対応はp 進局所体のガロア群のp 進表現の理論のなかで現在中心的な話題の一つであるが,K = Qp の2 次元既約表現以外の場合は予想の正確な形を含めまだ知られていない.本論文で行われている研究は一般のp 進局所体K に対するp 進局所Langlands 対応に向けた重要な研究である.よって,論文提出者 中村健太郎 は博士(数理科学) の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める.

審査要旨 要旨を表示する

pを素数とする.p進局所体Kのガロア群の表現に関する重要な理論として,KのWeil-Deligne群の表現とGLn(K)の表現とが自然な対応をもつという局所Langlands対応の理論がある.Zをpと異なる素数とする時,p進局所体のガロア群のl進表現は自然にWeil-Deligne群の表現と対応するので,局所Langlands対応によりGLn(K)のある表現と対応する.しかしながら,p進局所体のガロア群のp進表現の場合は丘ltration付きのWeil-Deligneの表現と対応するので,対応すべきGL2(K)の表現にも付加構造があるべきである.K=Qpの2次元既約表現の場合,それはGL2(Qp)のある種のp進Banach表現と対応するというのがBreuilにより創始されたp進局所Langlands対応の予想で,この対応はColmezにより構成された.その構成の過程でColmezはQpのガロア群の2次元三角表現というある種のp進表現の具体的な分類を行った.

本博士論文においては一般のQpの有限次拡大Kに対して,そのガロア群の2次元三角表現表現の研究が行われている.主結果は(A)Kのガロア群の2次元三角表現とGL2(K)の(古典的)局所Langlands対応との関係,および(B)Kのガロア群の2次元三角表現の分類特に潜在的半安定な2次元三角表現の具体的記述,である.これらはK=QpのときのColmezによる結果の一般化となっている

まず三角表現の定義を簡単に述べる.Kのガロア群のp進表現の圏を自然にB-pairと呼ばれる代数的対象の圏に忠実充満に埋め込むことができる.三角表現とはκのガロア群のp進表現でB-pairとして見たときに階数1のものの拡大として書けるもののことである.B-pairの圏は(ψ,F)-加群と呼ばれる別の代数的対象の圏と圏同値になることがBergerにより知られている.ColmezによるK=Qpのときの結果は(ψ,F)-加群を用いて証明されていたが,本博士論文では.B-pairを用いることにより一般化に成功している.

(A)の詳しい主張は次の通りである:Vを2次元潜在的半安定P進表現とするとき,Vが(適当な係数拡大の後に)三角表現となることと,Vから定まるWeil-Deligne群の表現のF半単純化から古典的局所Langlands対応によって決まる保型表現がnon-supercuspidalとなることが同値となる.Vから決まるB-pairの階数1の部分B-pairを用いてVから定まるfilteredψ-加群の様子を調べることにより証明がなされている.

(B)の分類の手順は以下の通りである1(1)階数1のB-pairを具体的に分類する.(2)階数1のB-pairの拡大類の群をガロアコホモロジーを用いて計算する.(3)(2)での拡大類がp進表現から来るための必要充分条件をKedlayaのslope丘1tration定理を用いて求める.(4)Bloch-Katoの計算を用いて拡大類が潜在的半安定となる条件を求め,そのときに拡大類を丘ltered(ψ,N)-加群を用いて記述する.最終的にはK×の局所定数な指標δ1,δ2と整数の組{kσ}σ:K→Kである条件を満たすものに対してあるパラメーター空間を定義し,そのパラメーター一空間の元に対して具体的にfiltered(ψ,N)-加群を構成し,そして任意の2次元潜在的半安定p進表現がこのようにして構成された丘1tered(ψ,N)-加群に対応するp進表現とLubin-Tate指標のべキの差を除いて一致することを示した.K=QpのときのColmezの結果ではパラメーター空間は1次元以下の簡単なものであったが,本論文の結果ではパラメーター空間が複雑なものとなっており,興味深い現象といえる.

p進局所Langlands対応はp進局所体のガロア群のp進表現の理論のなかで現在中心的な話題の一つであるが,K=Qpの2次元既約表現以外の場合は予想の正確な形を含めまだ知られていない.本論文で行われている研究は一般のp進局所体Kに対するP進局所Langlands対応に向けた重要な研究である.よって,論文提出者中村健太郎は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める.

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