学位論文要旨



No 123867
著者(漢字) 李,忠華
著者(英字)
著者(カナ) リ,チュウカ
標題(和) 高次シャッフル正則化と多重ポリログ
標題(洋) Higher order shuffle regularization and multiple polylogarithms
報告番号 123867
報告番号 甲23867
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第325号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 寺杣,友秀
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 斎藤,秀司
 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 准教授 辻,雄
内容要旨 要旨を表示する

正整数の列k=(k1,k2,…kn)に対し,多重ポリログLik(z)を次の級数で定める。

(1)

この時,多重ポリログには次のような反復積分表示があることが知られている.

(2)

ここで,反復積分とは次で定義されるものである.

κ1>1ならばz→1のとき多重ポリログLik(z)は多重ゼータ値ζ(k)に収束する

(3)

(4)

ここで,wt(k)=k1+k2+…+knをkの重さ(weight)といい,k1>1となる時,kを収束インデックス(admissibleindex)という.

多重ゼータ値の積は,級数表示(3),または反復積分表示(4)を使うことにより二通りの方法で多重ゼータ値の和として書き表される.その二つを等しいとおいて得られる関係式を複シャッフル関係式と呼ぶ.この関係式により多くの関係式が得られるが,多重ゼータ値の全てのQ関係式が複シャッフル関係式から得られるわけではなく.それらから得られないものとしては,ζ(3)=ζ(2,1)等の例がある.

多重ゼータ値の全てのQ関係式を調べるためには,二通りの正則化調和シャッフル正則化とシャッフル正則化によって導びかれる"正則化された複シャッフル関係式"を考えなくてはならない.この様な正則化された複シャッフル関係式まで含めて考えれば,多重ゼータ値のすべてのQ関係式が得られると予想されている.(詳しくは田を参照)

シャッフル正則化は多重ポリログを用いて定まる発散多重ゼータ値の正則化である.kを正整数の列とすると,ある」>0が存在して

(5)

と書ける.ここで,Pk(T)∈R[T]をシャッフル正則化という.この論文では(5)の中での"0"部分を精密に与えた.

定理1.kを任意の正整数の列とする.このときある多項式Pki)(T)∈R[T]が存在して

(6)

と書ける.ここで,P(i)k(T)は次の様に書ける.

(a)は収束インデックス)と書く.このmを用いて

(7)

と書ける.ここで,βk,k",j∈Qである.またPk(Om)=S(k')/m!が成り立つ.(b)任意i>0に対してP(i)k(T)一nΣj=0Pk(ij)Tj,Pk(ij)は以下の様に書ける

(8)

また,αk,k(1),k(2),a,jとβk,k〃,jはある種の漸化式を満たす(論文(3.6)-(3.9)を参照).Pk(i)(T)を高次シャッフル正則化という.

上の(8)中のζi(k(1))は多重ゼータ部分和,すなわち正整数の列k=(k1,...,kn)に対して,

(9)

と定まるものである.形式級数Lik(z,T)∈R[Tl[[1-z]]を

(10)

と定義する.正整数め列kとk'に対して,多重ポリログのシャッフル積により

(11)

を満たすCk"k,k'∈Zが存在する,このとき,対数関数のモノドロミーを使って,下の定理が示される。

定理2.(11)のCk"k:k'を

(12)

なる関係式が成り立つ.

(12)の両辺のTと1-zの幕の係数を比較して,多重ゼータ値のある種の関係式が得られる.この種の関係式を高次正則化シャッフル関係式という.

さらにこの論文では定理2を次の様に一般化した(定理3)_4={eo,e1},eoとe1は非可換二変数として,C<>を二変数非可換形式幕級数環とする.このとき,C<>は以下の余積△により,Hopf代数になる

(13)

集合Shuffle(C)を次の2つの条件を満たす元Φ(e0,e1)∈C<>の全体と定義する

(i)Φ(e0,0)=Φ(0,e1)=1,

(ii)△Φ=Φ(×)Φ.

明らかに,アンシエータの集合([2]を参照)はShume(C)に含まれる.

任意のΦ(e0,el)∈Shuffle(C),任意の収束インデックスk=(kl,ん2,...,んη)に対して,Φに関連する多重ゼータ値ζΦ(k)を

(14)

と定義する.このとき,定理1の式(7)と(8)の中のζ(k")をζΦ(k"),ζ(k(2))をζΦ(k(2))におき換えると,Φに関連する多重ポリログ(実は形式級数)LiΦ,k(z)∈(C[[1-z]][log(1-z)1が定義できる.この時次の定理が示される.

定理3.(11)のCk"k:k'を

(15)

が成り立つ.

式(15)からΦに関連する多重ゼータ値のある種の関係式が得られる.この種の関係式をΦに関連する高次正則化シャッフル関係式という..

定理3の証明のアウトラインを以下述べることにする.まずΦに関連する多重ポリログの母関数GΦ0(z)∈C[[1-z]][log(1-z)]<>を考える.xoとx1は非可換二変数として,任意の鞠とx0の文字w=xi1、xi2、…ximに対して,ew=ei1、ei2…eimとおく.このとき,GΦ0(z)は

(16)

と書ける.ただし,のときは,

(17)

に定め,それらのQ一次結合については線形に拡張しておく.一般のwはmw=Σwi〓x0〓i,Wiはx1で終る語の文字のQ結合,という形に書けることがわかる_.このとき_,_cω(ぎ)は

(18)

によって定める.

ΦがDrinfeldのアンシエータのとき,GΦo(z)は多重ポリログの母関数Go(z)となる.このGo(z)はKnizhnik-Zamoladchikov方程式

(19)

の次の漸近条件をみたす唯一の解析解となる

(20)

この論文ではGΦ0(z)に対してもKnizhnik-Zamolodchikov方程式(19)が満たされることを示した.このことを用いて,次の定理を示した.

定理3'.任意のΦ∈Shuffle(C)に対してGΦ0(z)は群的元である.言い換えれば,

(21)

である.

一般にGΦ0(z)が群的元であることとGΦ0(z)の係数がシャッフル関係式を満たすことは同値であるので,これから定理3が従う.

参考文献[1]荒川恒男,金子昌信,多重ゼータ値および多重五値ノート.[2] P. Deligne, T. Terasoma, Harmonic shuffle relation for associators, preprint, 2005.
審査要旨 要旨を表示する

李君は修士において、多重ゼータ値の和に関する研究を行っており「高さを固定した多重ゼータ値の和について」という題目で修士で得られた結果の一般化を出版しました。博士課程では多重ゼータ値の関係式に関する研究をさらにすすました。具体的には、これまでに知られている正規化シャッフル関係式をさらに精密化した高次の正規化シャッフル関係式について研究を行い、そこで得られた結果を論文「多重対数関数と高次シャッフル関係式」にまとめ博士論文として提出しました。

様々な指数の間に成り立つ多重ゼータ値の間の関係式は近年盛んに研究されており、様々な結果が得られています。なかでも多重ゼータ値の積分表示より得られるシャッフル関係式および級数表示により得られる調和シャッフル関係式は多重ゼータ値の一連の関係式を与え強力な道具であると信じられています。これらのシャッフル関係式に関しては収束する多重ゼータのみを考えるのではなく、発散する多重ゼータを対数関数の多項式によりその発散を近似することにより得られる、正規化という操作を考えることにより、より豊富な関係式が得られることが井原一金子一Zagier及び、少し違う定式化によりRacinetにより研究されています。正規化の操作は積分シャッフル関係式、級数シャッフル関係式の両方について考えられるますが、李君の着目した点は積分シャッフル関係式の方です。もともとの正規化というプロセスは多重対数関数を対数関数の多項式として近似する操作ですが、これをさらに精密に収束票級数係数の対数関数の多項式どして展開することを考えそれに対するシャッフル関係式を考えました。以下これをここでは(テーラー+対数)展開と呼ぶことにします。多重対数関数に対して成り立つ微分方程式をもとにその(テーラー+対数)展開を帰納法的に決まってくる明示的な形で求めました。そこから得られるシャッフル関係式が高次正規化シャッフル関係式と呼ばれるものです。ここで多重対数関数の(テーラー+対数)展開において随所に特徴的に現れるものとして有限の多重ゼータ和とよばれる有理数です。この明示的表示から、実際(テーラー+対数)展開の係数はすべて多重ゼータ値の有理数を係数とした一次結合で表されることが結論付けされます。

さらに博士論文の後半部分ではそれらの関係式が本質的に古典的なシャッフル関係式から導かれることを示しました。これに関しては形式的非可換幕級数を用いた定式化がより簡明なので、博士論文ではその形で結果をのべ、証明もその線に基づいてなされています。まず2文字の語でインデックス付けされた古典的シャッフル関係式を満たす数列の母関数を考る。さらにそれが群的元であると仮定する。このときその係数を用いて(テーラー+多重)展開を多重対数関数の類似として構成しました。李君はその関数の列がシャッフル関係式を満たすことを示しました。これは各展開係数で見れば、高次正規化シャッフル関係式を満たしている事になります。

その証明については形式的な母関数が形式的な微分方程式を満たすことをみる方針で行うのですが、ここで計算のキーとして使われている方法がホフマンのシャッフル代数における対数関数による展開の類似物を用いる方法です。この手法はもともとの井原一金子一Zagierの正規化シャッフル関係式においても有効に用いられたものです。

また李氏は上記の博士論文や修士論文の拡張に関する仕事、以外に多重ゼータ関数のq類似に関する研究、正規化双シャッフル関係式から導かれるガンマ関数、ベータ関数の関係式に関しての研究を論文としてまとめ、参考論文として提出しています。以上の一連の仕事には専門家の立場からみてその技量が十分に認められるものであり、従って李忠華氏は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分の資格があると認める。

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