学位論文要旨



No 123868
著者(漢字) 林,小涛
著者(英字)
著者(カナ) リン,ショウトウ
標題(和) 空間周期的な反応拡散方程式の進行波の最小速度に対する変分問題
標題(洋) A variational problem associated with the minimal speed of travelling waves for spatially periodic reaction-diffusion equations
報告番号 123868
報告番号 甲23868
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第326号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 俣野,博
 東京大学 教授 舟木,直久
 東京大学 教授 片岡,清臣
 東京大学 准教授 山本,昌宏
 東京大学 准教授 稲葉,寿
 東京大学 准教授 ヴァイス,ゲオグ
内容要旨 要旨を表示する

反応拡散方程式系の進行波解は物理学、数理生態学などに現れる多様な現象を理論的に理解するために重要な役割を果たしてきた.典型的な方程式はである.解u(x,t)がU(x-ct)の形で表されるとき、これを定常進行波という.ここでcは定数であり、進行波の速度を表す.f(u)が二つの零点(すなわち空間的に一様な定常状態)を持ち、そのうち一つのみが安定であるとき、方程式は単安定型方程式と言われる.単安定型反応拡散方程式の場合、安定状態と不安定状態を結ぶ進行波の存在について古くから研究があり、ある臨界定数c*より大きい任意のcに対して、速度cの進行波西解は存在し、c*より小さい速度の進行波解は存在しないことが知られている.現実の世界には、均質の環境だけではなく、空間的に不均質の環境も多い.従って、空間的に非一様な係数をもつ方程式を考える必要性があり、最近次第に研究が盛んになりつつある.反応項が空間的に非一様であれば、方程式はut=uxx+f(x,u)の形になる.この場合、通常の定常進行波は存在し得ないので、進行波の概念を拡張しておく必要がある.特にf(x,u)がxについて周期的な場合は、「周期進行波」というものを考えることになる.これは、あるT>0に対して、u(x,t+T)≡u(x-L,t)を満たす解である.(ここでLはfの空間周期.)このとき、c:=L/Tを進行波の平均速度、または単に速度という.定常進行波の結論と同じく、周期的な進行波の最小速度が存在することが知られている.

周期進行波の速度がf(x,u)にどう依存するかは重要な問題である.反応項が滑らかな場合、ある種の線形化固有値問題を用いて最小速度が特徴づけられることはWeinberger、Berestyckiなど数学者の研究によって明らかにされた.本論文では次の方程式を考える

ここで、b(x)は、与えられた定数α>0,L>0に対して、次の条件を満たす.

(1)

bが滑らかな場合、

ここμ(c,λ)は線形作用

の主固有値である.ただし、ψには周期条件ψ(x+L)≡ψ(x)を課すものとする.

本論文では、上記の条件を満たす方程式の最小速度c*(b)の有界性を証明し、周期的に並んだDiracのdelta関数h=αLΣkδ(x-kL)が最小速度を最大にすることを明らかにした.即ち、次式を証明した.

ここで、A(α)は(1)をみたす滑らかな'bの全体で、A(α)は(1)をみたす測度bの全体である.特に、bが滑らかな場合、C*(h)>C*(b)が成り立つので、C*(b)の最大値は滑らかな関数によって達成されないことが分かる.

以下,本論文の主要結果を節ごとに分けて述べる.

・第一節で反応拡散方程式を導入.周期的進行波解を定義して、方程式の反応項が満たす条件を説明した.最小速度の特徴づける線形固有値問題を導入.本論文の結果を説明した.

・第二節で必要な用語と主定理を述べた.主定理の内容は上記の条件を満たす滑らかなbに対するc*(b)が有界であること、更に、ん=αLΣkδ(x-kL)に対応する最小速度がc*(b)の最大値を達成することである.

・第三節で、bが測度の場合に、方程式の適切性を議論した.解の存在性、唯一性及び初期値に連続的に依存することを証明.

・第四節で、ある線形固有値問題で特徴づけられる値c*e(b)を導入.係数わが滑らかな場合は、すでに述べたようにC*(b)=c*e(b)となることが知られている.本節では、まず、bが測度の場合に、Cき(b)が有界であることを示し、次に、cき(h)=max{c*e(b)}も証明した.

・第五節で、測度bに対する最小速度c*(b)の存在性を証明.c*(b)=c*e(b)を証明.

・第六節では、第三節と第五節で用いた解の一様同等連続性の補題を証明.

審査要旨 要旨を表示する

論文提出者林小涛は,空間周期的な媒質中の進行波の速度に関わる変分問題を考察し,進行波の速度を最大化する係数の決定に成功した.その結果,最良係数は関数のクラスには属さず,ある種の測度になることが明らかになった.

反応拡散方程式系の進行波解は,物理学や数理生態学などに現れる多様な現象を理論的に解明するために重要な役割を果たしてきた.典型的な方程式はである.解u(x,t)がσ(x-ct)という形で表されるとき,これを定常進行波という.ここでcは定数であり,進行波の速度を表す.!(のが二つの零点(すなわち空間的に一様な定常状態)を持ち,そのうち一つのみが安定であるとき,方程式は単安定型方程式と言われる.単安定型反応拡散方程式の場合,安定状態と不安定状態を結ぶ進行波の存在について古くから研究があり,ある臨界定数c*より大きい任意のcに対して速度cの進行波解は存在し,c*より小さい速度の進行波解は存在しないことが知られている.

現実の世界では,環境は必ずしも均質ではなく,空間的に不均質の環境も多い.従って,空間的に非一様な係数をもつ方程式を考える必要がある.たとえば反応項が空間的に非一様であれば,方程式はut=uxx+f(x,u)の形になる.この場合,通常の定常進行波は存在し得ないので,進行波の概念を拡張しておく必要がある.とくにf(x,u)がxについて周期的な場合は,「周期進行波」を考えることになる.これは,あるT>0に対して,u(x,t+T)……u(x-L,t)を満たす解である.(ここでLはfの空間周期.)このとき,c:=L/Tを進行波の平均速度,または単に速度という.定常進行波の結論と同じく,周期的な進行波の最小速度が存在することが知られている.

周期進行波の速度がf(x,u)にどう依存するかは重要な問題である.反応項が滑らかな場合は,ある種の線形化固有値問題を用いて最小速度が特徴づけられることが予想される.実際,この予想に基づき,外来生物の侵入速度に関する数理生態学上の先駆的な研究が重定一川崎一寺本(1987)によってなされた.また,WeinbergerやBerestycki-Hamelらの研究(2002)で,最小速度の固有値による特徴付けが理論的に正しいことが証明されている.

本申請論文では次の方程式を扱った.

ここでb(x)は,与えられた定数α>0,L>0に対して次の条件を満たす関数または測度である.

(*)

係数b(x)が滑らかな場合は,上記のWeinbergerおよびBeres七ycki-Hamelの結果により,次式が成り立つ.

(**)

ここでμ(c,λ)は線形作用

の主固有値である.ただし,-ψには周期条件ψ(x+L)≡ψ(x)を課すものとする.

論文提出者は,上記の関係式(**)がbが滑らかな関数でなく空間周期性をもつ測度の場合にも成り立つことを示し,さらに,最小速度c*(b)を条件(*)の下で最大化する変分問題

を考察した.ここで,bは条件(*)をみたす測度の全体を動く.そして,上記の最大値が,周期的に並んだDiracのdelta関数h=αLΣkδ(x-kL)によって達成されること,およびbが滑らかな関数の場合には決して最大値が達成されないことを明らかにした.詳しくは,次式を証明した.

ここで,A(α)は(*)をみたす滑らかなbの全体で,A(α)は(*)をみたす測度bの全体である.

論文提出者の研究は,数理生態学などへの応用面から興味深いだけでなく,周期進行波の理論を係数が特異性を有する方程式のクラスに広げるものであり,反応拡散系の研究に新しい展開を与えたものとして高く評価できる.

以上の諸点を考慮した結果,論文提出者林小涛は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める.

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