No | 124982 | |
著者(漢字) | 関,行宏 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | セキ,ユキヒロ | |
標題(和) | 非線形拡散方程式の特異点近くでの解の挙動 | |
標題(洋) | On behavior of solutions near singularities for nonlinear diffusion equations | |
報告番号 | 124982 | |
報告番号 | 甲24982 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第337号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は以下の3 つのテーマから構成されている. (1) 反応項を持つ非線形拡散方程式に対する"最小爆発時刻"での空間無限遠での爆発, (2) 軸対称平均曲率流に従って動く"最小消滅時刻"を持つ曲面の解析, (3) 吸収項を持つ半線形熱方程式に対するDead-core rate の研究. 【第一章・空間無限遠での爆発】 本章では準線形拡散方程式ut = Δum + up, p > 1,m > 0, に対する解の爆発現象について論ずる。ここで言う解の爆発とは、有限時刻T で解の上限ノルムが無限大に発散することを意味する。このT を爆発時刻と呼ぶ。歴史的な研究の発展を追うと、初期の研究では時間局所解を時刻無限大まで延長できるか、またある時刻までしか解を延長できず、爆発してしまうかを方程式の指数の条件や初期値の無限遠での減衰の速さ、あるいはエネルギーの符号などで判定することが多かった。その後、解が爆発するかどうかを問うのではなく、爆発するとしたらその時刻はいつか?解が非有界になる点の集合(爆発集合)はどのような性質を持つっているか?そのような点のまわりで解の形状はどのようになっているか?等、爆発現象をより詳しく調べる研究も盛んに行われるようになった。 爆発集合に関しては、有界領域でのディリクレ問題あるいは初期値が無限遠で減衰する場合の研究が多くなされてきた。ところが比較的最近になって初期値が定数でなく、無限遠で最大値M に収束するような場合には解が空間無限遠で爆発し、さらに空間内部では局所有界、つまり爆発集合は空集合になるという現象が起こることが分かった。無限遠の爆発する『方向』についても初期値の増大する方向で特徴付けられる。また、このときの爆発時刻は定数M を初期値とする常微分方程式の爆発時刻と一致する。この結果は方程式が半線形(上の方程式でm = 1 の場合) に示されていたことだが、非常に粗く言って、空間無限遠では反応項の効果で常微分方程式の解と同じように動き、空間内部では拡散効果が爆発を抑制すると解釈できる。では拡散の速さが変わるとき、この結果は変わるだろうかを考えたのがここでの研究である。拡散項を上記の形にとることでその速度が変わることに注意して欲しい。値の大きい場所ではm > 1 のとき拡散が早くなり、m < 1 のときは拡散が遅くなることが見て取れる。従って、後者の場合はm = 1 のときとほぼ同じ現象が起こると予想できる。後者の場合については部分的な結果が分かっていて、1 < m < pの場合に同様の結果になる(参考論文1)。しかし、その証明は技術的な理由でm < 1 の場合には適用できなかった。そこで半線形方程式の場合に知られていた別の手法をm < 1の場合にも適用できるように改良することによって、やはり望ましい結論が得られることを証明した。また、ここでは爆発時刻が陽に求まり、それが可能な爆発時刻の中で最も小さいものであることに注目して、そのような爆発時刻(最小爆発時刻)を持つような解の条件を初期値の条件で完全に特徴付けた。 これらの結果を総合すると、上記の準線形方程式で考えた場合、0 < m < p という条件で反応-拡散現象を見ると最小爆発時刻を持つ解は全て空間無限遠で爆発し、初期値が定数でなければ、爆発は空間内部では起こらない。そして、無限遠で爆発する『方向』は初期値の増大する方向で特徴付けられる。その意味で拡散の速さが違うだけで爆発現象はほぼ同じと解釈できるが、解の概念を弱めた場合に、何らかの延長解を構成できるか?という疑問が残る。本章の最後では1 ≦mのとき、上述の解はすべて弱い意味でも延長不可能であることを証明した。 【第二章・軸対称平均曲率流】 本章では第一章での結果を踏まえて、軸対称平均曲率流に従って動く曲面の時間発展の様子を考察する。平均曲率流に従って動く曲面については、初期曲面がコンパクトで(その囲む領域が)凸である場合その凸性を保ちつつ収縮して、有限時刻のうちに1点になって消えることが知られている。この凸性の仮定は本質的で、もし初期曲面(の囲む領域)が凸でない場合はその結果は一般に成り立たず、ある有限時刻で曲面のくびれ部分が千切れるような軸対称な曲面が存在する。一般のコンパクトな軸対称曲面を考える場合、このような『千切れるくびれ』は高々有限個であって、千切れる瞬間を除いて曲面は滑らかであり、最終的にはその曲面の各構成要素が回転軸上の点に収縮することが知られている。しかし、実際に曲面のくびれ部分がある時刻で千切れるかどうかを判定するのは困難であって、あくまで千切れる回数の可能性が有限回であるということしか分かっていない。このように、コンパクトな曲面についての研究は進んでいるが、非コンパクト曲面について、特に無限遠での挙動については研究されていなかった。 ここで考える曲面は非コンパクトであって、ある一変数正値関数のグラフを実軸に関して回転して得られるものである。このとき、平均曲率流方程式はその正値関数に対する一次元準線形拡散方程式に帰着される。曲面のくびれが千切れることは、この関数の下限がある時刻でゼロになることと同値である。ある一定の枠組みの中で最初の特異性発生時刻(quenching time) においてはどのくびれも千切れない曲面をすべて決定することを試みた。その枠組みを『曲面を記述する正値関数の下限を半径とするシリンダーの消滅時刻と同じquenching time を持つものの全体』とした。この枠組みでは第一章でのアナロジーで、無限遠で最初開いている『曲面の端』はそのquenching time において閉ざされ、さらに曲面は切れることなく滑らかに繋がっていることが予想される。 これを実際に証明するには方程式の構造がかなり異なるので、単純には第一章で用いた手法を応用できないという困難さがあった。この困難を乗り越えるため、第一章から形式的に予想される補題などを古典的な放物型方程式の理論と軸対称平均曲率流の研究で知られていたいくつかの結果を組み合わせ、望ましい結果を得ることができた。 【第三章・Dead-core rate】 本章では吸収項を持つ半線形熱方程式に対するDead-core rate を考察する。Dead-core とは解のゼロ点の集合のことであるが、ここで扱う問題は正値解が初めてDead-core を形成する時の速さ(Dead-core rate) を調べることである。もっとも自然と考えられるDead-corerate は拡散項を無視して得られる常微分方程式と同じ速さ(self-similar rate) であるが、そのような解に対しては解のその時刻での振る舞いは自己相似的であることが予測され、その点付近での詳しい解の形状が求められると期待できる。 実際、吸収項を反応項に取り替えた方程式に対する爆発問題では、その爆発の速さが自己相似的であれば、爆発点付近での解の振る舞いを詳しく調べることが出来、その可能な爆発解の形状が非常に詳しく研究されている。従って、どのような条件の下で爆発の速さが自己相似的であるかを調べることは解の爆発現象を調べる上で重要な手がかりを与えると言える。 このアナロジーを主題の吸収項付き半線形熱方程式に対するDead-core の研究に適用することを考えると、まず解のDead-core rate は一般に自己相似的かどうかを調べることが重要である。もし『すべての解』に対してそれが自己相似的であるならば、そのときの解の振る舞いを詳しく調べることが出来ると期待される。ところが、最近になって初期値がある定常解付近から選ぶと解のDead-core rate は一般に自己相似的ではなく、それよりも速いことが示された。その正確なDead-core rate を求めることは一般には難しい。Dead-core rate が自己相似的でない解については上記のように解の振る舞いを詳しく調べることが出来るかどうかは今のところ分かっていないが、自己相似的でないDead-core rate は具体的にどのようなものであるかを調べることは、それを調べる上でも基本的な問題であろう。その為にも(self-similar rate でない) 正確なDead-core rate が求まる特殊解を構成することは重要なステップである。また、それが出来ればその特殊解にある意味で近い解を探して行くことにより、それと同じDead-core rate を持つ解の族が求められると期待できる。このような理由で、基準となる特殊解のクラスはできるだけ緩い条件の下で構成される方が応用上も便利であると思われる。現在そのような特殊解は空間1次元で、ある定常解との交差数が奇数回であるという仮定の下で発見されている。もし解に球対称性を仮定するならば、この結果は高次元でも同じように成り立つであろうし、『ある定常解との交差数が奇数回』という仮定で『奇数』を『偶数』に変えても自然に成り立つと考えられる。今回得た結果はこれらが実際にどのように証明されるかを詳述したものである。『交差数が奇数回』という仮定は、実はそのような解の構成において原点から十分離れたところで求めるべき解は必ずその定常解を超えないという条件になっており、それがそのような解の構成を可能にする。従って、その仮定を外すには原点から離れたところでのアプリオリ評価を別の観点で示すことができればよい。そこで解の増大度に注目し、それが定常解の増大度を超えないことを示すことにより、上記のことを証明した。 | |
審査要旨 | 非線形拡散方程式の初期値問題は、時間局所的に解が存在しても、有限時間で解が存在しなくなる事があり得る。解の値が無限大に発散する場合は爆発、ゼロに収束する場合は消滅、死滅など状況によって様々な名前が付けられている。爆発現象の研究は、非線形解析の重要な一分野である。 本博士論文では、次の3つのテーマを扱っている。 (1)反応項を持つ非線形拡散方程式に対する"最小爆発時刻"での空間無限遠での爆発, (2)軸対称平均曲率流に従って動く"最小千切れ時刻"を持つ曲面の解析, (3)吸収項を持つ半線形熱方程式に対する消滅速度の研究. 空間無限遠爆発問題では、準線形拡散方程式のある時刻で爆発する解について論ずる。空間全体で爆発が起きるわけではないので、解が非有界になる点の集合を爆発集合と呼ぶ。 爆発集合に関しては、有界領域でのディリクレ問題あるいは初期値が無限遠で減衰する場合の研究が多くなされてきた。ところが比較的最近になって半線形方程式について初期値が定数ではなく、無限遠で「上限値」に収束するような場合には解が空間無限遠で爆発し、さらに空間内部では局所有界、つまり爆発集合は空集合になるという現象が起こることが分かった。無限遠の爆発する『方向』についても初期値の増大する方向で特徴付けられる。また、このときの爆発時刻は「上限値」を初期値とする常微分方程式の爆発時刻と一致する。粗く言って、空間無限遠では反応項の効果で常微分方程式の解と同じ様に動き、空間内部では拡散効果が爆発を抑制すると解釈できる。では、拡散の速さが解の値によって変わるとき、この結果は変わるだろうかを考えたのが本博士論文の研究である。拡散が熱方程式の場合より早い場合にも熱方程式と同様の結果を得た。(遅い場合は論文提出者が既に別論文で示している。)また、本論分では爆発時刻が陽に求まり、それが可能な爆発時刻の中で最も小さいものであることに注目して、そのような爆発時刻(最小爆発時刻)を持つような解の条件を初期値の条件で完全に特徴付けることに成功している。 解の概念を弱めた場合に、何らかの延長解を構成できるかという問題に対しては、上述の解は全て弱い意味でも延長不可能であることを証明した。 空間無限遠爆発の結果を踏まえ、さらに軸対称平均曲率流に従って動く曲面の時間発展の様子を考察した。初期曲面(の囲む領域)が凸でない場合は、ある有限時刻で曲面のくびれ部分が千切れるような軸対称な曲面が存在する。一般のコンパクトな軸対称曲面を考える場合、このような『千切れるくびれ』は高々有限個であって、千切れる瞬間を除いて曲面は滑らかであり、最終的にはその曲面の各構成要素が回転軸上の点に収縮するとこが知られている。このように、コンパクトな曲面についての研究は進んでいるが、非コンパクト曲面について、特に無限遠での挙動については研究されていなかった。 ここで考える曲面は非コンパクトであって、ある一変数正値関数のグラフを実軸に関して回転して得られるものである。このとき、平均曲率流方程式はその正値関数に対する一次元準線形拡散方程式に帰着される。曲面のくびれが千切れることは、この関数の下限がある時刻でゼロになることと同値である。ある一定の枠組みの中で最初の特異性発生時刻(千切れ時刻)においてはどのくびれも千切れない曲面を全て決定することを試みた。その枠組みを『曲面を記述する正値関数の下限を半径とするシリンダーの消滅時刻と同じ千切れ時刻を持つものの全体』とした。この枠組みではテーマ(1)とのアナロジーで、無限遠で最初開いている『曲面の端』はその千切れ時刻において閉ざされ、さらに曲面は切れることなく滑らかに繋がっていることが予想される。 これを実際に証明するには方程式の構造がかなり異なるので、単純には(1)について用いた手法を応用できないという困難さがあった。この困難を乗り越えるため、テーマ(1)から形式的に予想される補題などを古典的な放物型方程式の理論と軸対称平均曲率流の研究で知られていたいくつかの結果を組み合わせ、この困難さを克服している。 吸収項を持つ半線形熱方程式に対する消滅速度を考察する。解のその消滅時刻での振る舞いは自己相似的であることが予測され、その点付近での詳しい解の形状が求められると期待できる。しかし、近年自己相似的ではない消滅解の存在が示されている。 消滅速度が自己相似的でない解については上記のように解の振る舞いを詳しく調べることが出来るかどうかは今のところ分かっていないが、自己相似的でない消滅速度は具体的にどのようなものであるかを調べることは、それを調べる上でも基本的な問題である。現在自己相似的ではない消滅速度の特殊解は空間1次元で、ある定常解との交差数が奇数回であるという仮定の下で発見されている。もし解に球対称性を仮定するならば、この結果は高次元でも同じように成り立つであろうし、『ある定常解との交差数が奇数回』という仮定で『奇数』を『偶数』に変えても自然に成り立つと考えられる。本論文で得た結果はこれらが実際にどのように証明されるかを詳述したものである。『交差数が奇数回』という仮定は、実はそのような解の構成において原点から十分離れたところで求めるべき解は必ずその定常解を超えないという条件になっており、それがそのような解の構成を可能にする。従って、その仮定を外すには原点から離れたところでのアプリオリ評価を別の観点で示すことができればよい。そこで解の増大度に注目し、それが定常解の増大度を超えないことを示すことにより、上記のことを証明した。 これは全て大変レベルの高い成果である。よって論文提出者の関行宏氏は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/28151 |