No | 126111 | |
著者(漢字) | ジ ダック クワン | |
著者(英字) | SI DUC QUANG | |
著者(カナ) | ジ ダック クワン | |
標題(和) | 正則写像のネヴァンリンナ理論と関連する問題 | |
標題(洋) | Nevanlinna theory for holomorphic mappings and related problems | |
報告番号 | 126111 | |
報告番号 | 甲26111 | |
学位授与日 | 2010.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第353号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では高次元ネヴァンリンナ理論を論じる。ネヴァンリンナ理論では、第一・第二主要定理と呼ばれる基本定理がある。高次元ネヴァンリンナ理論では、因子に対する交点理論がまず問題となる。因子に対しては第一主要定理が既に成立され、第二主要定理を確立することが問題となっている。 本論文では、有理型写像のネヴァンリンナ理論を研究し、新しい結果として第二主要定理または類似の評価式を以下の三つの場合に証明する:(i)複素射影空間への有理型写像、(ii)関数体上の正則曲線、(iii)穴あき円板から準アーベル多様体への正則曲線。これらの第二主要定理を証明した後、それらの応用について考察する。 本論文は、全体で5章から構成される。第1章では、有理型関数とコンパクト複素多様体への有理型写像のネヴァンリンナ理論の概要と第一主要定理を述べる。第2章と第3章では、複素射影空間への有理型写像の第二主要定理と関数体上のCartan-Nochka定理について考察し、これ等を動く因子の場合に拡張する。第4章では、準アーベル多様体への正則曲線の第二主要定理を示す。最後の第5章では、第2・3章の結果の応用を二つ与える。 以下、各章の内容について説明する。 第1章では、有理型関数についての基本事項とこれまでに知られている結果、及び因子に対する第一主要定理について述べる。 第2章では、動く因子に対する打ち切り個数関数による第二主要定理型の不等式を考察する。最近,M.Ru-J.Wang(2004)は、動く因子に対する打ち切り個数関数による第二主要定理型の不等式を証明した。この結果を改良し、次の定理を証明する(参照Chapter2,Theorem16)。 定理16([ThQo8],Theorem1)・f:Cm→Pn(c)を有理型写像とする。.4={α1,...,α,}をcmからpn(C)の双対空間pn(C)*への有理型写像aiの族で(f,ai)≠0(1≦2≦q)をみたすものとする。さらに、q>_n+2としAはある非退化条件を満たすと仮定する。すると、〓がc=1で成立する。 注.Ru-Wangは、c=1/n(2n-1)で示していた。 次に、複素射影空間の場合のCartan-Nochkaの定理の拡張を考える。本論文では、以下のように動く超平面に対する打ち切り個数関数によるCartan-Nochka型の第二主要定理を証明する(参照Chapter2,Theorem25)。 定理25([ThQl0],Theorem3.5).f:Cm→Pn(C)を有理型写像とする。{αi}q(i=1)を双対射影空間Pn(C)*への有理型写像族で、N準一般め位置にあり、aiはfに対し位数関数の増大度が小さいものとする。更に、fは、C({αi}q(i=1))上線形非退化と仮定する。このとき、任意の0<∈<1に対し ||(q-2N+n-1-∈)Tf(r)_ ここで、C({αi}q(i=1))は、各αiの成分の比をとり、それら全てからC上生成されるCm上の関数体を表す。 注定数P(∈,k)は、(〓)を満たすようにとれる. 第3章では、関数体上のCartan-Nochka定理を扱う。J.Wang(1995)、J.Noguchi(1996)等は関数体上のCartan-Nochka定理を証明した。ここでは、これを動く因子の場合に拡張する。 kを標数0の代数閉体とし(ここでは簡単のためk=Cと仮定する)、Rをk上の非特異1V次元射影代数多様体とする。KでR上の有理関数体を表す。R上のHodge計量形式ωを一つとり固定する。(α0,…,αm)(αj ∈ K,ゴ=0,…,m)のωに対する(射影的)高さをht((αj);ω)で表す。 αj ∈ K,j=0,…,mを全てが0ではないものとする。今α0≠0と仮定する。以下のようにR上の因子を定義する ((aj))∞=min{div(aj/a0);0_ L→Rで因子((αj))∞によって決まるR上の直線束を表す。本論文では、次の打ち切りの個数関数による第二主要定理を証明する(参照Chapter3,Theorem31)。 定理31([ThQ10],Theorem4.2).f=(σ0:…:σm):R→Pm(P)をσj ∈ Γ(R,L)で与えられる有理写像とする。q_>m+2としB={b1,…,bq}⊂(K*)m+1を非退化有限族とする。fをC(B)上線形非退化と仮定する。即ち、任意のc=(co,...,Cm)∈(C(B))m+1\{0}に対し(f,c)=Σm(i=0)ciai≠0.すると ht(f;ω)_ 十qN(ν1;ω)十2(9-1)1N(ν2;ω). ここで、νlとν2は以下のとおりに定義されるものである: ν1=max{div det(bisjt)1_ ν2=min{div det(bisjt)1_ 第4章では準アーベル多様体への正則曲線の孤立特異点での振る舞いをネヴァンリンナ理論として定量的に調べる。2002年と2008年の二つの論文でJ.Noguchi-J.Wikelmann-K.Yamanoiは、準アーベル多様体Mへの正則曲線f:C→MとM上の代数的因子Dに対して、打ち切りレベル1の個数関数による第二主定理を証明した。本論文では、穴空き円板△*⊂Cから準アーベル多様体Mへの正則曲線の場合を調べる。以下の定理を得る(参照Chapter4,Theorem42)。 定理42.f:△*→Mを準アーベル多様体Mへの代数非退化正則曲線とし、DをM上の代数的被約因子とする。このとき、Mの非特異同変コンパクト化Mが、fに依らずに(Dには依る)存在し、ある自然takoをもって ||Tf(r;c1(D))=Nko(r,f*D)十O(log+Tf(r;cl(D)))十O(log r). が成立する。 定理42の応用として次のPicardの大定理型の結果を得る(参照Chapter4,Theorem43). 定理43.定理42においてf:△*→Mを代数非退化正則曲線とし、St(D)={x∈M;x+D=D}0={0}と仮定する。このとき、f(△*∩D=0/ならば、fは△からMへの正則曲線に解析接続される。 注.との定理は、Dethloff-Lu(2001)によりFinsler計量の負曲率法によって証明されている。ここでは、ネヴァンリンナ理論による別の証明を与える。 最後の第5章では、応用について研究した結果を述べる。まず初めに有理型写像の一意性問題を扱い、次のような一意性定理を得た(参照Chapter5,Therorem48)。 定理48([QT08A],Lemma1).f,q:Cm→Pn(C)を2つの線形非退化有理型写像とし、{Hi}q(i=1)を一般の位置にあるPn(C)の超平面で dim(f-1(Hi)∩f-1(Hj))_<2,1_ を満たすものとする。(〓)とし (i)min{div(f,Hi)(z),n}=min{div(g,Hi)(z),n},∀i∈{1,…,q}, (ii)df(z)-dg(z),∀z ∈ ∪q(i=1)(Hi)\(I(f)∪I(g)), を仮定する。するとf≡g. 次に有理型写像族の正規性問題について考える。DをCmの領域とし、f:D→Pn(C)を有理型写像とする。D内の開集合y上で、fが被約表fif==(fo:…:fn)を持っとき、簡単の為にf(fo,…,fn):V→Cn+1もV上のfの被約表現と呼ぶこととする。DからPn(C)への有理型写像の列{fk}∞(κ=1)がD上有理型収束するとは、任意の点z ∈ Dに近傍Uz、と五のfκ、上の被約表現fκ=(fκ1,…,fκn)があって、全ての{j}∞(κ=1)、がUz、上広義一様収束することとする。 定理68([QT08B],Theorem1.4).FをDからPn(C)への有理型写像族としQ1,…,Qq (i)Dの任意のコンパクトな部分集合Kに対しf ∈ Fによる重複度を込めた因子としての引き戻しf*(Qj)∩ K(1_ (ii)Dの任意のコンパクトな部分集合Kに対しf ∈ ∫による引き戻しの台について、f-i(Qj)∩ K(n+2_ するとFは、D上の有理型正規族(有理型収束に関する正規族)である。 定理70([QT08B],Theorem1.5).FをDからPn(C)への正則写像の族とし、Qo,…,QnをDの各点で一般の位置にあるPn(C)の動く超曲面で、共通次数4_>1であるとする。Pn(C)にある動く超曲面Ll,…,LnをLi=Σn(j=0)aijQP(j)と定義する。ただしP>n(n+1)は固定され、αi」(1≦i〈xn,0≦ゴくn)はD上の正則関数で行列(αのに含まれる任意の正方部分行列の行列式はDの各点で0を取らないと仮定する。m1,…,mnを自然数または。。とし、次の条件を満たすものとする。 このとき、任意のf ∈ Fと任意のLi(1_ 定理71(Theorem1・6,[QT08B])・∫をDからPn(C)への有理型写像の族とし、Qo,…,Qnを共通次数d_>1の一般の位置にある動く超曲面とする。Pn(C)の動く超曲面L1,…,LnをLi=Σn(j=0)ajiQp(j)と与える.ただし自然数p>n(n+1)とし、aij(1_ | |
審査要旨 | ネヴァンリンナ理論は、ピカールの定理に初等的かつ定量的観点からの証明を与えることを目的として創始され(1925)、より広い観点から解析関数や有理型写像を解析することを目的とする理論あるいは解析手法である。1 次元及び同次元(微分非退化) 写像の場合は、概ね1970 年代に完了した。しかし非同次元の場合はまだ一般論は完成されていない。当該論文で扱っているのはこの場合である。 正則写像または有理型写像f が与えられたとき、ネヴァンリンナ理論ではf の値域での振る舞いを調べるためにある類に属する因子(より一般的にはサイクル)Dがとられる。その類に対し定量的不変量として位数関数(特性関数)Tf (r) が定義され、D に対し交点を数え上げる打ち切り個数関数Nk(r, f_D) (k ∈ N ∪ {∞}) 及び接近関数mf (r,D) が定義される。ネヴァンリンナの第一主要定理とは、関係式Tf (r) = Nk(r, f_D) + mf (r,D) + O(1)(r → ∞) のことであり、既に確立されている。これより、N1(r, f_D) < Tf (r) + O(1) が従う。一方複数のDi を用いて逆の評価式CTf (r) <Σi Nk(r, f_Di) + small term (C > 0, 定数)が第二主要定理でこれは限られた場合しか確立されていず、困難な問題として残っている。これが一般的に解決されれば、Kobayashi 予想、Green-Griffiths 予想などが従うことが知られている。 本論文は、この問題についていくつかの新しい知見を与えている。即ち、第二主要定理または類似の評価式を以下の三つの場合に証明する:(i) 複素射影空間への有理型写像、(ii) 関数体上の正則曲線、(iii) 穴あき円板から準アーベル多様体への正則曲線。第1章では、有理型関数とコンパクト複素多様体への有理型写像のネヴァンリンナ理論の概要と第一主要定理を述べる。第2章と第3章では、複素射影空間への有理型写像の第二主要定理と関数体上のCartan-Nochka 定理について考察し、これ等を動く因子の場合に拡張する。動く因子を扱う問題は、歴史的にはネヴァンリンナより古くE. ボレル(1897) からの問題である。第2章では、動く因子に対する打ち切り個数関数による第二主要定理型の不等式を考察する。Ru-Wang (2004) は、動く因子に対する打ち切り個数関数による第二主要定理型の不等式を証明した(以下の評価式で、c = 1/n(2n-1) の場合)。この結果を改良し、次の定理を証明する。定理A. f : Cm → Pn(C) を有理型写像とする。A = {a1, ..., aq} をCm からPn(C)の双対空間Pn(C)_ への有理型写像ai の族で(f, ai) /≡ 0 (1 _< i_ _< q) をみたすものとする。さらに、q > n + 2 としA はある非退化条件を満たすと仮定する。すると、〓がc = 1 で成立する。 さらに、動く超平面に対する打ち切り個数関数によるCartan-Nochka 型の第二主要定理を証明する。 定理B. {ai}qi=1 を双対射影空間Pn(C)_ への有理型写像族で、N 準一般の位置にあり、ai はf に対し位数関数の増大度が小さいものとする。有理型写像f : Cm → Pn(C)は、C({ai}qi=1) 上線形非退化と仮定する。このとき、任意の0 < ε < 1 に対し〓. ここでは、定数P(ε, qN) が、大きくはあるが計算可能な形で求まった点が重要である。(これを∞とした先行結果は、既にある。) 第3 章では、C上の代数関数体上類似を考え、上記定理A の関数体上の類似を示した。 第4 章では、穴あき円板Δ*から準アーベル多様体Aへの正則曲線を扱う。Noguchi-Winkelmann-Yamanoi (2002/08) は、準アーベル多様体A への正則曲線f : C → AとA上の代数的因子D に対して、打ち切りレベル1の個数関数による第二主定理を証明した。ここでは、定義域をΔ*にとり次の定理を得た。 定理C. f : Δ*→ Aを代数非退化正則曲線とし、D をA上の代数的被約因子とする。このとき、Aの非特異同変コンパクト化Aが、f に依らずに(Dには依る)存在し、ある自然数k0 をもって || Tf (r; c1(D )) = Nk0(r, f*D) + 0(Tf (r; c1(D )). 定理Dの応用としてDethloff-Lu によるPicard の大定理型の結果(2001) の別証が得られる。 第5 章では、第2・3章の結果の応用として、Cm からPn(C) への有理型写像の一意性の問題、及びCm の領域からPn((C)) への有理型写像族の有理型正規族(H.Fujimoto による概念) になる為の十分条件について興味深い新結果を得た。 以上を要するに本論文は、多変数複素解析学における高次元ネヴァンリンナ理論を扱い、得られた結果は数理科学上貢献するところ大きく、よって論文提出者Si Duc Quang は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があるものと認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/51751 |