No | 126119 | |
著者(漢字) | 阿部,知行 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アベ,トモユキ | |
標題(和) | Swan導手と特性サイクルの比較について | |
標題(洋) | Comparison between Swan conductors and characteristic cycles | |
報告番号 | 126119 | |
報告番号 | 甲26119 | |
学位授与日 | 2010.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第361号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | まず, [主論文] では数論的D 加群の理論とl 進コホモロジーの分岐理論の関係について研究している. k を標数0 の体としてU をk 上滑らかな代数多様体, L をU 上の滑らかなl 進層(ここでl はp = ch(k) とは互いに素なものとする)とし, コンパクト台を持つL のU 上のコホモロジーのオイラー・ポアンカレ標数をχc(U,L) とする. するとχc(U,L) = rk(L) _ χc(U,Ql) という非常に簡明な関係式を持つことが古くから知られている. k の標数がp > 0 になると状況が一変し、一般に等しくはならず, その差を計算することは分岐理論の主題でもある. 曲線の場合には差はSwan 導手と呼ばれる数で表すことができ, Grothendieck-Ogg-Shafarevich (G-O-S) の定理と呼ばれている. 一般の滑らかな代数多様体に関してはBloch, Laumon,Kato, S. Saito などの研究があり, 近年加藤和也先生と斎藤毅先生による共同論文[KS] により一般の滑らかな代数多様体上の滑らかな層に対してSwan 導手という0 次元代数サイクルが定義された. これはG-O-S の定理の類似を満たし, 良いものといえる. しかし古典的にはHasse-Arf の定理に相当するSwan 導手の整数性の問題が予想という形で残された. なお, [KS] ではこの整数性の予想から長く懸案であったSerre のArtin指標に関する予想が導かれることが示されていて, その意味でも重要であると思われる. [主論文] で私はX上のunit-root F-overconvergent isocrystal のSwan 導手を数論的D 加群の特性サイクルを用いて定義し,それがKato-Saito のSwan 導手と同様の性質を満たすことを示した. 特性サイクルに対しては解析的D 加群の場合と同様にKashiwara-Dubson の公式およびそれを相対化したものを示すことができる. これを用いることによってKato-Saito のSwan 導手との比較定理を特異点の解消を仮定して示すことができ, 整数性の予想をその仮定の下で示すことに成功した. これらのことを示すためには, アイディアは古典的なものの,数論的D 加群の基礎理論の欠如による困難を回避するために技術的な議論が必要になってくる. 特異点の解消を外すのは困難で, さらなる特性多様体および特性サイクルの研究が必要になってくると思われ今後の研究につながっていくものである. この論文以前, 数論的D 加群の理論が実際の応用で用いられたケースは少なく, 今回の結果はそのような貴重な例の一つということができる. この研究により数論的D 加群の特性サイクルが分岐理論と深くかかわっていることが分かる. しかし特性サイクルは今のところ任意の連接的Dy 加群に対して定義されているわけではなく, Frobenius 構造という非常に強い構造をもつもののみに対して構成されている. これを一般的なものに対しても定義しようと試みるのは自然なことである. それをするためには余接束の上に超局所化すると見通しが良くなると思われる.[参考論文1] では超局所微分層の構成とその基礎的な性質を示し, それらを用いることで曲線上の場合の特性サイクルの定義に成功している. 微分作用素の成す環Dy はレベルm の微分作用環b D(m) の順極限で定義されている. 各b D(m) の超局所化をするのは形式的で容易であるが, 出てくるレベルの異なる超局所環同士に射がなくなってしまう. この困難の処理が最も技術的な部分である. p 進コホモロジーの理論には有限性の問題が非常に重要な問題としてある. この問題の中核はtemperateな局所化に対してホロノミック性が保存されるという柏原先生の定理の類似にある. これを柏原先生はb 関数の存在を示すことによって示した. 今回の場合ナイーブにb 関数を定義してしまうと意味のないもになってしまうところに難しさがある. 曲線の場合はb 関数は微分方程式の指数と密接に関係しているべきであり,これはよく研究されている. もしb 関数による証明が存在しているのであれば, b 関数が1 になる特異点で正則特異部が存在しない場合有限性が示されるはずである. この期待が正しいことを[参考論文2] で示している. | |
審査要旨 | 正標数の体上の多様体上のエタール層にたいしそのオイラー数を計算することは数論幾何の重要な問題として活発な研究がなされている。曲線の場合には,Grothendieck-Ogg-Shafarevichの公式により,Swan導手とよばれるエタール層の分岐を統制する局所的な不変量を用いて問題となっているエタール層のオイラー数を計算することができる。これを高次元化することが重要な問題となっている。これまでに,Deligne, Laumon, Bloch, 加藤和也, 等による研究があったが,近年に加藤和也と斎藤毅により大きな進展がもたらされた。彼等は高次元の多様体上のエタール層にたいしそのSwan導手を0次元代数的サイクルとして定義し,それを用いてG-O-S公式の高次元版を示すことに成功した。しかし彼等は重要な問題を残した。彼等の定義したSwan導手は係数が有理数のサイクルとして定義されているのだが,実際には係数は整数になるであろうと予想されるのである。この予想の1次元の場合は古典的なHasse-Arfの定理にあたるもので重要である。 阿部氏はこの予想を正標数の体上の特異点の解消を仮定して解決することに成功したのである。しかし彼の業績の核心部分は,特異点の解消に依存しないものなのでこれを説明する。阿部氏は,加藤-斎藤の方法とは全く異なる数論的D加群の理論を用いたSwan導手の定義を与えることにより上述の問題を解くという,極めて独創的で斬新な発想によりアプローチしたのである。数論的D加群の理論は,正標数の体上の多様体にたいするD加群の理論で,近年Berthelotにより開発されつつあるものである。その構成は標数0の場合よりはるかに難解で,まず多様体をそれが定義されている体を剰余体とする完備離散付値環上の形式的スキームに持ち上げ,その上の無限階数を許した微分作用素環を適当な位相について完備化して定義される。阿部氏は数論的D加群にたいし,その特性多様体を用いてSwan導手を定義した。さらにそれを計算するための道具として、相対的な柏原-Dubsonの公式の数論的D加群での類似公式を証明した。 最後に自分が定義したD加群のSwan導手と加藤-斎藤のSwan導手を幾何学的に交点理論を用いて比較したのである。この最後の段階で正標数の体上の特異点の解消が必要となる。数論的D加群の理論にはいまだ未整備な部分も多く残されていて,阿部氏は、数論的D加群を上述の問題へ応用するためにいくつかの技術的な問題を独力で克服している。この点においても阿部氏の業績は高く評価される。 以上により、論文提出者阿部知行は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める。 | |
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