学位論文要旨



No 126428
著者(漢字) 今井,直毅
著者(英字)
著者(カナ) イマイ,ナオキ
標題(和) Galois表現の有限平坦モデルのモジュライ空間について
標題(洋) On the moduli spaces of finite flat models of Galois representations
報告番号 126428
報告番号 甲26428
学位授与日 2010.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第363号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 齋藤,秀司
 東京大学 教授 辻,雄
 東京大学 准教授 志甫,淳
 京都大学 准教授 伊藤,哲史
内容要旨 要旨を表示する

この論文では,2 次元局所Galois 表現の有限平坦モデルのモジュライ空間について調べる.論文は四つの節から成り,第一節で有限平坦モデルのモジュライ空間について説明した後,おおまかに言って,第二節で連結成分を,第三節で次元を,第四節で有理点の数を調べている.

論文の内容について述べるために,まず有限平坦モデルのモジュライ空間について説明する.pを2 でない素数とし,Kをp 進体,Fを標数p の有限体とする.絶対Galois 群GK のF 上の連続2 次元表現VFを考える.VF の有限平坦モデルとは,F の作用付きのOK 上の有限平坦群スキームGと,GKとF の作用と可換な同型VF-G(K) の組のことである.このとき,次の性質をみたすような,F 上射影的なスキームGRVF;0 が存在する.

F の任意の有限次拡大体Fに対して,VF= VFFFの有限平坦モデル全体とGRVF0のF有理点全体の間に自然な一対一対応がある.

このスキームGRVF;0をVF の有限平坦モデルのモジュライ空間という.

次に論文の内容について説明する.まず第一節では,有限平坦モデルのモジュライ空間の性質を説明し,そのモジュライ空間と変形環の間の関係について述べた.第二節では,GRVF;0 のうちp 進Hodge 型が全て1 でnon-ordinary であるという条件で定まる部分スキームが一つの連結成分であるというKisin 予想を証明した.その応用として,ある変形環とHecke 環を比較するR=T 型の定理が導かれる.第三節では,GRVF;0 のゼータ関数の形を決定し,Kを固定しVFを動かした時のGRVF;0 の次元の範囲を,K の絶対分岐指数を用いて決定した.これは,K の絶対分岐指数がp1より小さいならば有限平坦モデルは高々一つであるというRaynaud の定理の2 次元表現に対するある種の一般化を与えている.第四節では,VF が自明表現の場合にGRVF;0 のゼータ関数を具体的に計算することによって,階数2 の定数群スキームに対してOK 上のモデルの個数を絶対分岐指数eを用いて表した.ただし技術的な制約から,第三部ではK がQp 上完全分岐であると仮定している.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、局所体のGalois表現の有限平坦モデルのモジュライ空間について、その連結性、次元、ゼータ関数などの、幾何的、数論的性質を調べたものである。中でも連結性についてKisinによる予想を肯定的に解決し、応用として大域体のGalois表現の保形性についてR=Tとよばれる型の結果を導いている。

Galois表現の変形環は、WilesによるFermat予想の証明の中で決定的な役割を果たして以来、数論の重要な対象として活発に研究されている。Galois表現の保形性はLanglands対応のかなめであるが、その変形環に対しR=Tとよばれる性質を示すことで、保形性を証明できるようになった。さらに、この方法のKisinによる改良以降、局所体のGalois表現の変形環の整域性が証明の急所であることが明らかになり、有限平坦モデルを用いて得られる変形環のスペクトルの改変は、この整域性の証明の有効な手段として用いられている。

一般に、変形環はそれ自体の環論的な考察は困難である。しかし、局所体上のGalois表現を群スキームと同一視すると、その整数環上の有限平坦モデルのモジュライ空間として、その変形環のスペクトルの改変が得られる。そしてこのモジュライ空間は、整数環上の有限平坦群スキームに対応するフィルトレイション付き加群を考えることで、線形代数的に扱うことができ、ここから変形環の環論的性質を導くことが可能となる。

本論文では、局所体上の2次元Galois表現について、この変形環のスペクトルの改変、とくにその中心ファイバーについて、その幾何的、数論的性質を詳細に調べたものである。詳しく言うと、多少不正確な表現ではあるが、変形のうちで標数0にもちあげたときにHodgeフィルトレイションがちょうど全体の半分になるという条件に対応する部分のモジュライ空間を扱っている。この部分は、対応するHilbert保形形式でいえば重さが平行な部分にあたり、Galois表現への応用上もっとも重要な部分である。

このモジュライ空間は通常群スキームのモジュライと非通常群スキームのモジュライの無縁和に分解し、さらに通常群スキームのモジュライは非常に簡明である。非通常群スキームのモジュライについては、Kisinが局所体の剰余体が素体の場合にその連結性を示しており、一般にも連結であることを予想した。剰余体が素体でない場合には、Geeが、Galois表現が自明という仮定の下に、この連結性の予想を証明し、Galois表現の保形性もちあげ定理を証明している。

本論文の主定理では、このKisinとGeeの方法を精密化することで、Kisinの予想した連結性を証明している。この方法は有限平坦群スキームにともなうKisin加群を、行列をもちいて具体的に記述し、モジュライの各点が射影直線の鎖で結べることを示すというものである。従来示されていた場合と異なり、ここでは係数環と剰余体のテンソル積が直積分解するため扱う線形代数的対象が複雑になり、込み入った議論のくり返しとなるが、それを手際よく処理することで上記の結果を導いている。これは世界的にも高く評価される業績であり、論文のこの部分は、すでにAmerican Journal of Mathematicsに掲載が決定している。このほか、上記のモジュライ空間に対し、その次元のシャープな評価、合同ゼータ関数の決定など興味深い結果を証明している。

本論文で得られた結果は、局所体のGalois表現の有限平坦モデルのモジュライ空間という、Galois表現の保形性という整数論の重要な問題と深く結びついた対象に対し、その連結性の予想を証明するという、高く評価できるものである。よって、論文提出者今井直毅は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51799