No | 127183 | |
著者(漢字) | 吉冨,修平 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヨシトミ,シュウヘイ | |
標題(和) | トロピカル幾何における加群の生成元 | |
標題(洋) | Generators of modules in tropical geometry | |
報告番号 | 127183 | |
報告番号 | 甲27183 | |
学位授与日 | 2011.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第364号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | トロピカル曲線は、実数トロピカル半体T=(Ru{-∞},〓)の上の幾何学的対象である。加法〓は実数体における最大値演算であり、乗法〓は実数体の加法である。トロピカル曲線Cとその因子Dに対して、Dのセクションの集合M=H0(C,OC(D))には、以下のように定義されたT-加群の構造が入る。 T-加群は半体上の加群として定義される。(M,〓,-∞) がT-加群であるとは、(M,〓,-∞) がトロピカル半群であり、〓がTによるM 上の加法的な半群作用であるということである。トロピカル半群とは、単位元を持つ可換半群で、任意の元v がべき等条件v 〓v=vをみたすもののことである。 T-加群Mは体上の加群に類似している。部分集合S⊂Mは、極小の生成系であるとき、基底であるといわれる。しかし、Mの基底の元の個数は、Mの位相的な次元に等しいとは限らない。私たちは、この論文の中で直進的なT-加群というものを導入する。このクラスは、自由T-加群Tnの、束を保つ部分加群の一般化である。ここで、束を保つ部分加群とは、Tn 上の自然な半順序関係に関して任意の二つの元の下限を保つ部分加群のことである。この論文の主定理は、Mを自由T-加群Tnの有限生成な直進的部分加群とするとき、Mはn個の元で生成されるというものである。 この定理には四つの系がある。半体Tは、準完備な全順序有理トロピカル半体kというものに一般化される。第一の系として、私たちはk-加群の単射準同型の左逆射が存在するための十分条件を見つける。直進的で反射的なk-加群の次元というものは、基底の元の個数として定義される。第二の系として、私たちは直進的で反射的なk-加群の組M⊂Nについて不等式dim(M)≦dim(N)を示す。第三の系として、私たちは有限生成で直進的で前反射的なk-加群は反射的であることを示す。第四の系として、私たちはk-加群の部分加群の有限性について考察する。 この結果は、トロピカル射影空間TPnの中の多面体に応用することができる。Joswig-Kulasによれば、TPnの中の多面体のうち実凸であるものはトロピカル単体であり、したがって高々n+1個の点のトロピカル凸包である。私たちはこの結果の一般化を示す。多面体Pは、対応する部分加群M⊂Tn+1が直進的で反射的ならば、高々n+1個の点のトロピカル凸包である。また、Mは、P が実凸な多面体ならば、直進的で反射的である。 また、この結果はトロピカル曲線にも応用することができる。トロピカル曲線についてのRiemann-Rochの定理がGathmann-Kerberによって証明されている。この定理で述べられているのは、因子Dの不変量r(D)についての等式である。私たちは、r(D) が加群M=H0(C,OC(D))の不変量ではないということを確認して、不等式r(D)≦dim(M)ー1を示す。 | |
審査要旨 | 論文提出者 吉冨 修平氏は、この論文においてトロピカル加群の生成元に関する体系的な研究をおこなった。 抽象的な代数曲線に対応して抽象的なトロピカル曲線がある。トロピカル曲線Cとその上の因子Dが与えられると、大域切断の集合H0(C,D) が定まる。これはトロピカル半体T上の加群、トロピカル加群になる。整数r(D)を、任意にとったR個の点P1,...,Prに対して、集合H0(C,D-ΣPi)が原点{-∞}以外の元を持つようなrの最大値として定義する。これはH0(C,D)の次元から1を引いたものを一般化した不変量であり、リーマンロッホの定理 が成立する。しかしr(D)は抽象的なT加群としてのH0(C,D) から直接定まる量ではない。 そこで吉冨氏は抽象的なT加群に関する基礎理論の研究を行った。ユークリッド空間内のコンパクト凸多面体に対しては、これまでに超平面配置の退化の研究(Postnikov,Stanley)や,トロピカル代数的な凸多面体の研究(Sturmfels)がある。吉冨氏は、トロピカル加群に関する性質として、ストレート加群、反射的加群などの諸概念を新たに導入して、ユークリッド空間内の部分集合が通常の意味で凸であることと、トロピカル加群として凸であることの間の関係を解明した。 主要結果は以下のようなものである: 定理T(n+1)の有限生成部分加群Mと対応するトロピカル射影空間TPn内の多面体(有限個の点のトロピカル凸包)Pを考える。もしもPが実ベクトル空間Rn内の凸集合になっていれば、Mはストレートかつ反射的である。逆に、Mがストレートかつ反射的であれば、Pはn+1個の点のトロピカル凸包として表すことができる。 一般のT 加群に対して、吉冨氏はその次元dimMを、Mに含まれるストレートかつ反射的な部分加群の端点の数の最大値として定義した。そしてトロピカル曲線Cに対して、r(D)とH0(C,D)の次元に関する関係式を証明した: 系2. トロピカル曲線Cとその上の因子Dに対して、不等式 r(D)≦dimH0(C,D)-1 が成り立つ。 吉富氏の研究はトロピカル加群に対する新たな不変量を導入した個性的かつ独創的な研究であり、この方面の研究に新しい知見を与えるものである.こうして定義されたトロピカル加群の不変量は、その幾何学的意味などについてさらに研究の進展が期待される。よって、論文提出者 吉冨 修平は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/51800 |