学位論文要旨



No 127188
著者(漢字) 三内,顕義
著者(英字)
著者(カナ) サンナイ,アキヨシ
標題(和) 正標数における局所コホモロジー群の分離拡大による消滅
標題(洋) Annihilation of local cohomology groups by separable extensions in positive characteristic
報告番号 127188
報告番号 甲27188
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第369号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川又,雄二郎
 東京大学 教授 宮岡,洋一
 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 寺杣,友秀
 東京大学 准教授 高木,寛通
 法政大学 教授 桂,利行
内容要旨 要旨を表示する

可換環論における重要なホモロジカル予想の一つとしてビッグコーエンマコーレー代数の存在というものがある。それは任意の局所整域Rに対して以下のような性質を持つRの拡大環Sが存在するかということである。

「任意のRの巴系がSにおいて正則列をなしている。」

この環Sに対しNoether性などは要請していないことに注意する。

また、現在ではこの予想から正則局所環に対する直和因子予想、Torの消滅などいくつかのホモロジカル予想が従うことが知られている。

この予想は歴史的にはHochster、HunekeらによってM. Hochster and C. Huneke,、Infinite integral extensions and big Cohen-Macaulay algebras、Ann. of Math. (2) 135 (1992)、でRが局所エクセレント整域で標数が正の場合に示された。具体的には彼らはRの商体の代数閉包を一つ固定し、その中での整閉包(R+と呼ばれる)が上記の性質を満たすことを示した。この証明は大変長く難解なものだったが、21世紀に入り、Huneke、Lyubeznikらはこの定理をRの標数が正で、Gorenstein局所環の像である場合(論理的包含はないが弱いと思われる条件)に拡張し、簡潔で代数的に意味付けしやすい証明を行った。(C. Huneke and G. Lyubeznik,、Absolute integral closure in positive characteristic Adv. Math. 210 (2007))今回申請者の学位申請論文はこの仕事の拡張であるが、その前にHuneke、Lyubeznikらの鍵となる定理を復習する。Huneke、Lyubeznikらはグロタンディークの局所双対性を巧妙に用いて、局所コホモロジーに関する次の定理を証明した。

定理 Rを標数が正で、Gorenstein局所環の像であるとする。この時Rの有限拡大環Sが存在し、誘導する最高次でない局所コホモロジー間の射は零射となる。

この定理と巴系の個数に関する帰納法を用いることで次の系を得ることができる。

系 上と同じ仮定の下、R+はそれ自身コーエンマコーレー環でありまたRのビッグコーエンマコーレー代数である。

この定理は標数0では成り立たないことに注意する。なぜならばRを正規でコーエンマコーレーでない環(例えばアーベル曲面の座標環)とする。すると任意の有限拡大Sに対し、trace写像が存在し、それはR加群としての分割を与えている。特に局所コホモロジー間の写像は単射である。よってこのRに対し定理を満たすような有限拡大Sは存在しないことがわかる。

しかし申請者はUtah大学のAnurag Singh氏と共同研究で上記の定理のSを分離的に取れること示した。

定理 Rを標数が正で、Gorenstein局所環の像であるとする。この時Rの有限拡大環Sが存在し、誘導する最高次でない局所コホモロジー間の射は零射となる。さらにRとSの商体の間の拡大はガロア拡大に取ることができる。特にRからSへの拡大は分離的である。」系として次が従う。

系 上と同じ仮定の下、R+sep(Rの商体の分離閉包の中での整閉包)はそれ自身コーエンマコーレー環でありまたRのビッグコーエンマコーレー代数である。

この系の場合についてもHunekeによって等標数0の場合は一般にはR^+はビッグコーエンマコーレー代数にならないことが示されていることに注意する。

また申請者は次数付けを持つ場合のR(+GR)(Rの商体の代数閉包の中での斉次整閉包)の構造についても調べいくつかの結果を得た。

命題 R(+GR)のa-不変量は0以下である。

命題 一般にR(+GR,sep)(Rの商体の代数閉包の中での斉次分離閉包)はRのビッグコーエンマコーレー代数にはならない。

Hochster、HunekeらによってR(+GR)はビッグコーエンマコーレー代数になることが示されており、ビッグコーエンマコーレー代数の理論は局所環の場合と次数付き環の場合に並行であると考えられていたが上記の二つ目の結果と前述の系によりそうではないことが示された。

審査要旨 要旨を表示する

可換環論の重要な予想としてビッグコーエンマコーレイ代数の存在がある:「任意の局所整域に対して拡大環が存在して、Rの任意のパラメーター系がSにおいては正則列になる」.Hochster-HunekeはRr が正標数の局所エクセレント整域の場合にこれを証明した。さらに最近に至りHuneke-LyubeznikはRが正標数でゴレンシュタイン局所環の像になっている場合にもっとわかりやすい証明を見つけた。その証明のキーポイントは、局所コホモロジー群の消滅定理である:「局所整域RRが正標数でゴレンシュタイン局所環の像になっているならば、Rの有限次拡大環S が存在して、対応する局所コホモロジー群の間の引き戻し写像は最高次を除いて0になる」。なお、このような主張は標数00では成り立たないことに注意する。この主張の系として、Rの商体の代数的閉包の中でのRの整閉包R+はビッグコーエンマコーレイ代数になることがわかる。

論文提出者三内 顕義氏は、ユタ大学のAnurag Singh 氏との共同研究において、上に述べS_ が分離拡大で実現されることを証明した:

定理 局所整域が正標数でゴレンシュタイン局所環の像になっているならばRの有限次拡大環Sであって商体の拡大がガロア拡大になるようなものが存在して、対応する局所コホモロジー群の間の引き戻し写像は最高次を除いて0になる。

この主張は標数0では成立しないのに、正標数では分離拡大で実現できるというのは不思議であるとも言える。

系2. Rの商体の分離閉包の中でのRの整閉包R(+sep)はビッグコーエンマコーレイ代数になる。

なお、Hunekeによれば、R が等標数0を持つ場合にはR(+sep)はビッグコーエンマコーレイ代数にはならない。ここでも正標数の不思議な性質が現れている。

さらに論文提出者三内 顕義氏は、R が局所環ではなく次数付き環である場合も考察した。Hochster-HunekeはRの商体の代数閉包のRの中でのRの斉次整閉包R(+Gr)はビッグコーエンマコーレイ代数になることを証明している。しかし、Rの商体の分離閉包の中でのRの斉次整閉包R(+Gr, sep)はビッグコーエンマコーレイ代数に必ずしもならないということが、この共同研究において証明されている。一般的に言って、次数付き環と局所環は平行した議論ができる場合が多いが、この場合についてはそうではないという事実を発見したことになる。

この共同研究において三内氏は証明の論点の最も重要な部分に貢献している。よって、論文提出者 三内 顕義は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51805