学位論文要旨



No 127191
著者(漢字) 中原,健二
著者(英字)
著者(カナ) ナカハラ,ケンジ
標題(和) 分布がファットテールをもつ場合の独立同分布の確率変数和の分布の一様評価について
標題(洋) Uniform Estimates for Distributions of Sums of i.i.d. Random Variables with Fat Tail
報告番号 127191
報告番号 甲27191
学位授与日 2011.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第372号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 楠岡,成雄
 東京大学 教授 舟木,直久
 東京大学 教授 時弘,哲治
 東京大学 教授 吉田,朋広
 東京大学 准教授 稲葉,寿
 東京大学 特任教授 志賀,徳造
内容要旨 要旨を表示する

本論文では独立同分布の確率変数和の分布の一様評価について論じる. 特に分布関数をF(x), 上側分布関数 F(x)=1ーF(x)とおくときF(x) が指数ーα (α > 0)のregularly varying 関数と呼ばれるクラスに属する場合について述べる. これは大雑把にいうと F(x) がxーαのオーダーで減衰する場合である. このような場合, 分布はファットテールを持つといわれる. このとき和の分布もファットテールを持つ.

以下, 確率空間(Ω;F; P) 上に独立同分布な確率変数列X1;X2; …でE[X1]=0となるものをとり、その和の分布について考える. またX1の分布μ, 分布関数をF, 上側分布関数をFとおく. すなわちF(x)=μ((-∞; x]), F(x)=μ((x; ∞))=1-F(x)とおく. このときE[X21 ] <∞ならば中心極限定理が成り立つ.つまりσ=E[X21 ](1/29とおくと

が成り立つ. ここで〓とおいた. 和の分布の正規分布による近似は平均値の周りでは精度は良いが平均値から大きく離れたところでは精度が悪くなる. 正規分布による近似がどの範囲まで有効に成り立つかという問題もよく研究されている. この問題についてはCramer[2]による次の結果が有名である. 以下E[X21 ]=1とする.

Theorem 1. あるc > 0 が存在してE[exp(cjX1j)] < 1が成り立つとする. このとき任意のa 2 (0; 1=6)と任意の非増加正数列"(n) ! 0に対してcn=na"(n)とおくと

が成り立つ.

一方で平均値から大きく離れたところ(大偏差)の和の分布を求めることは大偏差の問題と呼ばれ多くの研究がなされている. 特に分布関数がregularly varying 関数と呼ばれるクラスに属するときは極限の形がきれいにでることもあり, 多くの研究がなされている. 以下では次を仮定する.

(A1) あるα > 0に対して, F(x)は指数ーαのregularly varying 関数

次が成り立つことが知られている.

Theorem 2. α> 1に対して(A1)を仮定する. このとき任意のγ> 0に対して

が成り立つ.

この定理は1 < α< 2の場合にHeyde[4], α > 2の場合にA. Nagaev[5],[6] が, 一般の場合にはCline-Hsing[1] が示した

中心極限定理と大偏差の問題を合わせて和の分布を実数軸上または[1;∞) 上で一様に評価する研究も行われている. 応用上, 和の分布の平均値の近くとも大偏差ともいえないところの値を評価したい場合がある. このときは和の分布の一様評価が必要となる. 一様評価についてはF(x) が指数-α(α> 2)のregularly varying 関数の場合にA. agaev[5]とS. Nagaev[7]は独立に次を示した.

Theorem 3.α > 2に対して(A1)と次の(A2)を仮定する.

(A2) ある 〓

またE[X21 ]=1とする. このとき

一様評価についてはRozovskii[8] らによってより一般の場合に示された. A. Nagaev らの評価は収束の速さについては議論されていなかったが, 指数ーα(α > 2)のregularly varying 関数の場合に収束の速さを込めた評価がFushiya-Kusuoka[3]によって示された.

本論文では F(x) が指数-2のregularly varying 関数の場合についての結果を示す. F(x) が指数-α(0 < α < 2)のegularly varying 関数の場合は和の極限分布は指数αの安定分布になりF(x) が指数-α(α >2)のregularly varying 関数の場合には正規分布(指数2の安定分布)になることが知られている. したがって指数-2の場合がちょうど境界の値となっており, そのため和の分布の評価を示すことも難しい.

さらにこの場合は必ずしもE[X21 ] < 1ではないことに注意しておく. (A1),(A2)に加えて次を仮定する.

A3) μは密度関数p : R →[0;∞)をもち, さらにpは右連続関数で有界な全変動をもつとする.

まずE[X21 ] < 1の場合の結果を述べる.

と定義する. このとき次を示した.

Theorem 4. α= 2に対して(A1), (A2), (A3)を仮定する. またE[X21 ]=1と仮定する. このとき任意のδ∈(0; 1)に対してあるC > 0 が存在して

が成り立つ. 特に

注意. 仮定(A1), (A2)のもとL(n1=2) → 0 (n →∞) が成り立つ.

Φ0(vn(-1/2)s) + n F(n(1/2)s) がsの範囲によってΦ0(vn-(1/2)n s)とF(n(1/2)s)のどちらが大きいかを考える.次のことを示すのは難しくない.

任意のa∈(0; 2)に対してn→∞のとき

同様に任意のb∈ (2;∞)に対してn→ ∞のとき

よって〓が主要項であることがわかる.

α=2の場合には一般には式(2)は成り立たない. 式(2) が成り立つための条件として次を示した.

Theorem 5. α= 2に対して(A1), (A2)を仮定する. またE[X21 ]=1と仮定する. このとき次が成り立つ.

(1)〓が成り立つ.

(2)〓ならば式(5)は成り立たない.

これより〓のときは式(2)は成り立ち, そうでなければ成り立たないことがわかる.

Theorem 4ではE[X21 ]=1と仮定したが一般にE[X21 ] < ∞とは限らない場合にも同様の結果が成り立つ. 〓となることに注意しておく. またH2 : N ×R → Rを

と定義する. このとき次を示した.

Theorem 6.α=2に対して(A1), (A2), (A3)を仮定する. このとき任意のσ∈ (0; 1)に対してあるC > 0 が存在して

が成り立つ. 特に

注意. 仮定(A1), (A2)のもとn F(tn)→0; n →∞ が成り立つ.

本論文では第1章で全体を概観し, 第2章で F(x) が指数ー2のregularly varying 関数で分散が存在する場合についての結果を示す. 第3章で分散が必ずしも存在するとは限らない場合についての結果を示す.

[1] Cline, D.B.H. and Hsing, T. Large deviation probabilities for sums and maxima of random variables with heavy or subexponetial tails. preprint, Texas A&M University (1991).[2] Cram´er, Sur un nouveau th´eor`eme limite de la th´eorie des probabilit´es. Actualit_es Sci. Indust. 736 Paris (1939).[3] Fushiya, H., and S. Kusuoka, Uniform Estimate for Distributions of the Sum of i.i.d. Random Variables with Fat Tail, J. Math. Sci. Univ. Tokyo 17 (2010), 79-121.[4] Heyde, C.C., A contribution to the theory of large deviations for sums of independent random variables, Z. Wahrscheinlichleitstheorie verw. Gebiete 7 (1967), 303-308.
審査要旨 要旨を表示する

本論文は、独立同分布の確率変数の和の分布の一様評価について、特に確率分布の裾野がー2のregularly varyingである場合について調べたものである。

(Ω,F, P)を確率空間とし、X1,X2, ・・・は独立同分布な確率変数列で、E[X21]=1, E[X1]=0と仮定する。X1の分布をμ, F=μ((x, ∞)) =1 ーF(x)とおく。この時、中心極限定理が成立するが、さらに詳しく、一様評価を示すことがこの論文の目的である。

以下のことを仮定する。

(A1) あるα > 0に対して、F(x)はx → ∞の時、指数-αのregularlyvarying 関数

(A2) あるδ0 > 0に対してR 0-∞ |x|α+δ0 μ(dx) < ∞.

(A3) μは密度関数ρ : R → [0, ∞)をもち、さらにρは右連続関数で有界な全変動をもつとする。

今、〓x ≧ 1,とおく。さらに、

とおく。この時、次を示した.

定理1 α=2とする。このとき

定理2 α=2とする。

(1)〓が成り立つ.

(2)〓ならば式(2)は成り立たない.

α > 2の時、仮定(A-1),(A-2)の下で式(2) が成り立つことはA. Nagaev及びS. Nagaev が独立に示している。本論文の結果により、α=2の時は式(2)は一般には成立せず、式(1)のように修正せねばならないことがわかる。

これまではE[X21]=1と仮定したが一般にE[X21]=∞の場合にも同様の結果が成り立つことも論文では示している。

〓とおく。このとき次を示した。

定理3 α=2に対して(A1), (A2), (A3)を仮定し、さらにE[X21]=∞,E[X1]=0と仮定する。このとき

論文では、これらの定理を証明するために、より精密な以下の評価を示している。

とおき、H2 : N× R → Rを

で定義する。

定理4 α=2に対して(A1), (A2), (A3)を仮定し、E[X1]=0とする.このとき任意のδ ∈ (0, 1)に対してあるC > 0 が存在して

が成り立つ。

このように本論文では独立確率変数の和の分布という古典的な対象に対して、評価が最も複雑となる分布関数が指数ー2のregularly varying 関数となる場合に一様評価の定理を与えた。これは確率論の観点から高く評価できるものである。

よって、論文提出者 中原 健二は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51808