No | 127538 | |
著者(漢字) | 權業,善範 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ゴンギョウ,ヨシノリ | |
標題(和) | アバンダンス予想と標準因子公式 | |
標題(洋) | Abundance conjecture and canonical bundle formula | |
報告番号 | 127538 | |
報告番号 | 甲27538 | |
学位授与日 | 2011.09.27 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第382号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1 はじめに 対の特異点などの基本的な用語はChapter 1 に従って用いるとする. また全て複素数体上で考える. まず, 一般化されたアバンダンス予想を述べる. 予想1.1 (一般化されたアバンダンス予想). 対(X; Δ) を射影的lc 対とする. このときv(KX+Δ) とk(KX+Δ)は一致する. さらに, もしKX + Δ がnef ならば, 半豊富である. 特に, KX + Δ がnef の場合, 単にアバンダンス予想と呼ぶ. 数値的小平次元v(KX + Δ) は, 第2 節で定義する. 上の予想は極小モデル理論においてとても重要な予想である. 実際, 予想1.1 から極小モデル予想が従う(cf. Theorem 4.3.2). この要旨では, 第2 節において, 予想1.1 のv(KX +Δ) = 0 の場合の解決(Chapter 2) と標準因子公式を用いたアバンダンス予想への応用(Chapter 4) を述べる. 第3 節では, アバンダンス予想のslc 対への拡張を述べる(Chapter 5). 第4 節では, 標準因子公式の応用として, 劣随伴公式(Chapter 3), 対数的Fano 対, (弱)Fano 多様体の像についての結果(Chapter 6) を述べる. 第5 節では, 数値的小平次元0 のslc 対のアバンダンス定理の応用として高々lc 特異点を持つ弱ファノ多様体の反標準因子の半豊富性の研究結果について述べる(Chapter 7).なお, Chapters 3; 5; 6 は藤野修氏との共同研究であり, Chapter 4 はBrian Lehmann 氏との共同研究である. 2 数値的小平次元0 の極小モデル理論とその周辺 Chapter 2 では, 次を証明した. 定理2.1 (Theorem 2.1.2). 対(X; Δ) をQ-分解的射影dlt 対とする. さらにv(KX + Δ) = 0 を仮定する. このとき(X; Δ) は極小モデルを持つ. ここで, pseudo-effective 因子D と豊富因子A に対して, 〓 と定義する. さらにD の数値的飯高次元v(D) = maxf{σ(D,A)|A : 豊富因子g と定義する. 特にD = KX のとき, v(KX) を数値的小平次元と呼ぶ. (数値的飯高次元v(D) は[N] で, kσ(D) という記号を用いられている).定理2.1 はklt 対の場合, Druel 氏により知られていた(cf. [D]) が, それとは独立に定理2.1 を示した. さらに,Theorem 2.3.2 と合わせると次の川又氏によって証明されたlc 対に対する数値的小平次元が0 のアバンダンス定理([K2]) の別証明を得る. 定理2.2 (Theorem 2.3.3). 対(X; Δ) を射影lc 対とする. さらにv(KX + Δ) = 0 を仮定する. このときk(KX + Δ) = 0 である. 定理2.2 はklt の場合, 中山氏によって証明された([N, V, 4.9 Corollary]). その後この証明とは全く異なる証明を川又氏が見つけ, その結果, lc に拡張することに成功した. 今回の証明は川又氏の証明とは異なる証明である. また, 一般ファイバーが数値的小平次元0 となるファイバー空間に対して次の定理が成り立つ. 定理2.3 (Theorems 4.1.2, 4.3.2). 対(X; Δ) をQ-分解的射影klt 対とする. さらに連結ファイバーを持つ射影射f : X→ Z の一般ファイバーF がv((KX + Δ)|F ) = 0 を満たすとする. このとき, あるZ の双有理モデルZ' とZ' 上のklt 対をなす境界Γ が存在して, その対数的標準因子KZ' + Γ がpseudo-effective となり, 対(Z'; Γ) が対数的標準因子が半豊富となる極小モデル(これを良い極小モデルと呼ぶ) を持つならば, (X; Δ) も良い極小モデルを持つ. このことから予想1.1 は次の予想に帰着される(Theorem 4.1.5). 予想2.4. 射影的klt 対(X; Δ) に対して, その対数的標準因子KX + Δ と任意の動的曲線C の交点数が正とする. このときKX + Δ はbig である. 3 半対数的標準対に対するアバンダンス予想 ここで半対数的標準(slc) 対を定義する. 定義3.1. 純d 次元被約S2-スキームX と, その上のQ-係数有効Weil 因子Δ について, Q-係数Weil 因子KX + Δ がQ-Cartier 因子であるとする. さらにX が余次元1 で正規交叉を仮定する. 既約分解をX =∪Xiとする. 正規化をv : X' :=〓X'i→ =∪Xi とする. ここでいう正規化とは各既約成分を正規化をして非交和をとったものをさす. スキームX 上のQ-因子θ をKX' + θ :=v*(KX + Δ) を満たす因子として定義する. またθi := θjX'i をおく. この対(X; Δ) が半対数標準対(略して, slc 対) とは, (X'i ;θi) はlc となるときをいう. 定理3.2 (Theorem 5.1.3). 対(X; Δ) を射影的slc 対とする. さらに上の対(X';Δ') に対して, KX' +Δ' が半豊富であるとする. このときKX + Δ も半豊富である. この定理の証明では(基本的に)[F] の枠組みを[BCHM] を用いながら遂行していく. その際に必要な鍵となる定理が次である. 定理3.3 (Theorem 5.1.1). 対(X; Δ) を射影的lc 対とする. さらにKX +Δ が半豊富であるとする. このときm(KX + Δ) がCartier 因子となる自然数m に対してpm(Bir(X; Δ)) は有限群である. ここでpm(Bir(X; Δ)) は次で定められる. まず双有理写像φ : X →X がB-双有理写像とは共通の対数的特異点解消α,β : W→X がφ・ α = β とα*(KX + Δ) = β*(KX + Δ) を満たすように存在する時を言う. さらに, 〓 は引き戻しで定義される自然な群準同型写像である. この定理の主張は中村氏{上野氏, Deligne 氏らによるコンパクトMoishezon 多様体上の多重標準表現の有限性(cf. [NU]) の対数版となっている. また, 定理3.2 とKeel{Matsuki{McKernan の議論[KeMaMc] を組み合わせることにより, lc 対に対するアバンダンス予想はklt対に対する良い極小モデルの存在から従うことがわかる(Theorem 5.4.7). 4 標準因子公式の双有理幾何への応用 以下, K を有理数体Q もしくは実数体R とする. まず次の補題が成り立つ. これはgenerically finite 射に対する標準因子公式である。 補題4.1 (Lemma 3.1.1). 射f : X→Y を正規多様体の間のgenerically finite 射とする. さらに, ある有効K-因子Δ が存在し, (X; Δ) がlc となるとする. このとき, もしKX +Δ~K;f 0 ならば, ある有効K-因子Γ が存在し(Y; Γ) がlc であり, かつKX + Δ →K f+~(KY +Γ) をみたす. さらに(X; Δ) がklt の場合, Γ を(Y,Γ; )もklt となるように選べる. この補題の応用として次の川又劣随伴定理([K1]) の一般化を得る. 定理4.2 (Theorem 3.1.2). 正規多様体X が射影的もしくはアフィンであるとする. さらに, ある有効K-因子Δ が存在し, (X; Δ) がlc となるとする. このとき(X; Δ) に関する極小lc center W に対して, ある有効K-因子ΔW が存在し, (KX + Δ)|W ~K KW + ΔW をみたし, かつ, (W;ΔW) がklt である. さらなる応用として, 川又の半正値性定理の応用(Theorem 6.3.1) と合わせることで, Schwede とSmith による問題([SS, Remark 6.5]) の解決を含む次の定理が証明される. 定理4.3 (Corollary 6.3.8). 射影射f : X→Y を正規射影多様体の間の全射とする(連結ファイバーでなくともよい). さらに, X 上にある有効Q-因子Δ が存在し, (X; Δ) がklt かつΓ(KX +Δ) が豊富であるとする. このとき, ある有効Q-因子Γ が存在し(Y; Γ ) がklt かつΓ (KY +Γ ) が豊富である. 定理4.3 でのf が連結ファイバーを持つ場合の証明をさらに発展させることで次を得た. 定理4.4 (Theorem 6.1.1). 非特異射影多様体の間の全射f : X →Y を非特異射であるとする. このとき-KXが豊富(resp. nef かつbig) であるならば, -KY も豊富(resp. nef かつbig) である. すなわち, Kollar{宮岡{森による結果[KoMiMo] と弱Fano 多様体の非特異射による像の結果の両方に対して, 正標数還元を用いない証明を与えた. また上の証明には大域的F-正則多様体の理論を用いた別証もある(Section 6.6). 5 高々lc 特異点を持つ弱ファノ多様体について 第2 節と第3 節の応用として, 次が得られる. 定理5.1 (Theorem 7.3.1). 対(X; Δ) をlc 対で-(KX + Δ) がnef かつ巨大とする. このとき, (X; Δ) の任意のlc center が高々1 次元ならば-(KX + Δ) は半豊富である. なお, lc center の次元が2 以上の場合, 上の定理が成り立たない例が存在する(Example 7.5.2). | |
審査要旨 | 權業善範氏が学位論文において得た結果は,いくつかの重要な場合のアバンダンス予想の解決とその応用,および標準因子公式の高次元代数多様体の問題への応用である. アバンダンス予想とは,極小モデルの標準因子が半豊富であろうという予想であり,極小モデルが,その標準因子が数値的に有効という性質よりなおよい性質を持つということを期待するものである.近年は,一般化したアバンダンス予想というものも定式化され,それが極小モデルの構成自体にも有用であることが分かってきており,極小モデル理論においてアバンダンス予想の重要性は増した. 權業氏のアバンダンス予想に関する研究は,数値的に自明な半対数標準対について予想を解決したことに始まる.その手法は,まず正規なスキームの場合(対数標準対の場合)に予想を解決し,一般の非正規なスキーム(一般に可約)の場合をそれに帰着するというものである.さらに,この非正規な場合を正規な場合に帰着させるという手法を発展させることで,アバンダンス予想は,数値的に有効な対数標準対の場合に正しければ,数値的に有効な半対数標準対の場合にも正しいということを示した.この結果は,将来的にアバンダンス予想を次元によって解決していく際の重要なステップになると考えられるが,そればかりでなく,Birkar氏,Kollar氏によって他の応用を見出され,すでに高い評価を得ている. また,数値的に有効でない場合についても,数値的小平次元がゼロの対数標準対に対して一般化されたアバンダンス予想が正しいことを示した.それは,数値的小平次元がゼロの因子的対数末端対に対して極小モデルを構成し,上記の数値的に自明な対数標準対についての(上記の通りすでに解決された)予想に帰着させることで示された.極小モデルを構成しているので,この仕事により,数値的小平次元がゼロの因子的対数末端対に対して極小モデル理論が完成したことになる.今後も大いに参照されていく結果であろう。 なお,アバンダンス予想を研究するきっかけとなったのは,対数標準特異点を持つFano多様体の標準因子が一般に半豊富にならないことを示した研究である.權業氏は,当初,上記の数値的に自明な半対数標準対について予想を仮定して結果を得ていたのだった.この研究はアバンダンス予想の興味深い応用と見ることが出来る. 標準因子公式の応用については,非特異射による非特異弱ファノ多様体の像もまた非特異弱ファノ多様体になることを示した.これは,条件および結論を非特異ファノ多様体としたKollar-Miyaoka-Moriの結果の一般化であるが,その証明法は正標数への還元であったので別手法による一般化である.問題自体は,標準因子公式とは無関係に見えるので意外性のある結果である.また,その研究と相まって,川又劣随伴定理の精密化にも成功している. また標準因子公式と数値的小平次元がゼロの因子的対数末端対に対する極小モデル理論を巧みに応用することで,アバンダンス予想に関する次の結果を得た:もし,射影的川又末端対の対数標準因子について任意の動的曲線との交点数が正ならば巨大である,という性質が成り立っならば,アバンダンス予想は正しい. 以上述べたように權業氏は極小モデル理論において重要なアバンダンス予想の解決に向けて重要な業績をあげ,また,標準因子公式の高次元多様体の構造解明への意外性のある応用を見出した.いずれも質の高い研究業績であり,極小モデル理論,高次元代数多様体論の最新の手法を駆使してなされている.これは,權業氏がそれらの素養を充分身につけている証であるばかりでなく,自ら問題を見つけ,どのような手法でその問題にアプローチしてよいかを見抜くことに長けていることも示している.よって,論文提出者權業善範は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める. 東京大学大学院数理科学研究科・准教授 高木寛通 | |
UTokyo Repositoryリンク |