学位論文要旨



No 128381
著者(漢字) 柿澤,亮平
著者(英字)
著者(カナ) カキザワ,リョウヘイ
標題(和) バナッハ空間上の半線型放物型発展方程式に対する確定節点
標題(洋) Determining nodes for semilinear parabolic evolution equations in Banach spaces
報告番号 128381
報告番号 甲28381
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第389号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,昌宏
 東京大学 教授 俣野,博
 東京大学 准教授 下村,明洋
 東京大学 教授 片岡,清臣
 東京大学 教授 儀我,美一
内容要旨 要旨を表示する

Rn (n 2 Z; n _ 2) の有界領域Ω上の半線型熱伝導方程式, Navier-Stokes 方程式などに対する初期境界値問題について, Determining nodes と呼ばれる有限個の点からなる集合の存在を考察した. Determiningnodes は時間大域的な解の漸近挙動の観測点からなる集合のことであり, もし存在すれば, Determiningnodes EN での解の漸近挙動というデータから領域Ω での解の漸近挙動を一意に決定することができる.ただし〓本論文では, 導入部(第1 節) を経て次の三つのテーマ

第I 部: Determining nodes のL2 理論(第2 節, 第3 節)

第II 部: Determining nodes のLp 理論(第4 節, 第5 節)

第III 部: 多重連結有界領域上のStokes 方程式に対するレゾルベント問題(第6 節, 第7 節, 第8 節)

について論じ, それらの結果を半線型熱伝導方程式とNavier-Stokes 方程式に応用(第9 節) した.

第I 部では, n = 2 または3 とし, 次のΩ 上の半線型放物型方程式に対する初期境界値問題(1.1) とその定常問題(1.2) について, エネルギー法を用いてDetermining nodes の存在を考察した. ただし, H1-0はL2(Ω) の閉部分空間, V = H10 (Ω) H である.

第I 部の研究内容は, 半線型熱伝導方程式とNavier-Stokes 方程式を含む(1.1) の強解u; v について, 次の定理2.2, 定理2.3 を証明することによってHilbert 空間上の半線型放物型方程式に対するDeterminingnodes のL2 理論を構築したことである.

定理2.2. n = 2 または3, R > 0, f 2 L1((0;1);H), t0 > 0 とし, (H.2){(H.4) が成り立つことと,f1 2 H が存在し,〓

となることを仮定する. このとき, Ω, A, F, M(f; t0) とM(f1) のみに依存する正定数_2 が存在し,0 < dN _ _2 かつ, u 2 S(V (R); f) とするとき, 任意のi = 1; _ _ _ ;N に対して_i 2 R が存在し, u が〓となれば, (1:2) は任意の0 < < 1=2 に対して〓かつ, 任意のi = 1; _ _ _ ;N に対してu1(xi) = _i が成り立つような強解u1 2 S(f1) を一意に持つ.

定理2.3. n = 2 または3, R > 0, f; g 2 L1((0;1);H), t0 > 0 とし, (H.3), (H.4) が成り立つことと,〓となることを仮定する. このとき, Ω, A, F, M(f; t0) とM(g; t0) のみに依存する正定数_3 が存在し,0 < dN _ _3 かつ, u 2 S(V (R); f), v 2 S(V (R); g) とするとき, 任意のi = 1; _ _ _ ;N に対してu; v が〓となれば, 任意の0 < < 1=2 に対して〓となる.

初めてDetermining nodes の存在を考察したのはFoias-Temam [6] である. 彼らはNavier-Stokes 方程式に対する初期境界値問題の強解u; v について, L2 のnode 補間不等式とエネルギー法を用いて定理2.2, 定理2.3 と同様の定理を証明した. 反応拡散方程式系に対する初期境界値問題については, Lu-Shao[18] によってFoias-Temam と同様の結果が得られている. ところが, Foias-Temam とLu-Shao だけでなく, n = 1 におけるFoias-Kukavica [5], Kukavica [15], Oliver-Titi [19] の結果を見ても, 個々の方程式に対するDetermining nodes の存在を扱っており, 理論の統一性に欠けることがこれまでの問題点であった. 定理2.2, 定理2.3 を証明するために, まず, Hilbert 空間の直交分解L2(Ω) = H _H? とL2(Ω)からH への直交射影P を用いて(1.1) を定式化する. そして, L2 のnode 補間不等式とエネルギー法を用いて上の性質を持つDetermining nodes の存在を証明することが第I 部の研究方法である.

第II 部では, 次のXp 上の半線型放物型発展方程式に対する初期値問題(I) について, 解析半群のLp理論を用いてDetermining nodes の存在を考察した. ただし, Xp はLp(Ω) (1 < p < 1) の閉部分空間である.〓

第II 部の研究内容は, 半線型熱伝導方程式とNavier-Stokes 方程式を含む(I) のマイルド解u; v について, 次の定理4.1, 定理4.2 を証明することによってBanach 空間上の半線型放物型発展方程式に対するDetermining nodes のLp 理論を構築したことである. ただし, X_p = D(A_p) (_ _ 0) である.

定理4.1. n=2 < p < 1, 0 _ _0 < 1, R > 0, f; g 2 C((0;1);Xp), t0 > 0 とし, (H.5), (H.6) が成り立つことと,〓となることを仮定する. このとき, n, Ω, p, Ap, F, _0, M(f; t0) とM(g; t0) のみに依存する正定数_1が存在し, 0 < dN _ _1 かつ, u 2 S(X_0p (R); f), v 2 S(X_0p (R); g) とするとき, 任意のi = 1; _ _ _ ;N に対してu; v が〓となれば, (i) 任意の_0 < _ < 1 に対して〓である. (ii) n=(2p) < _ < 1 ならば, 任意のk 2 Z, k _ 0, 0 < < 1, k + _ 2_ n=p に対して〓である

定理4.2. n=2 < p < 1, 0 _ _0 < 1, R > 0, f; g 2 C((0;1);Xp), t0 > 0 とし, (H.5), (H.6) が成り立つことと, ある0 < _1 < _1 に対して〓であることを仮定する. このとき, n, Ω, p, Ap, F, _0, M(f; t0) とM(g; t0) のみに依存する正定数_2が存在し, 0 < dN _ _2 かつ, u 2 S(X_0p (R); f), v 2 S(X_0p (R); g) とするとき, 任意のi = 1; _ _ _ ;N に対してu; v が.〓ならば, (i) 任意の_0 _ _ < 1 に対して〓である. (ii) n=(2p) < _ < 1 ならば, 任意のk 2 Z, k _ 0, 0 < < 1, k + _ 2_ n=p に対して〓である.

これまでKakizawa [14] の結果より, 基礎的なDetermining nodes のL2 理論は完成したように思われたが, 数値解析や工学・産業への応用の観点から, いくつかの問題点が浮き彫りになった.

・(境界条件の多様性) Dirichlet 境界条件や周期境界条件を除き, 例えば, Navier-Stokes 方程式に重要な役割を果たすNavier 境界条件などの物理学的に重要な境界条件が考察されていない.

・(漸近挙動の収束率) たとえDetermining nodes が存在したとしても, 時間大域的な解同士の漸近挙動がどのような収束率で一致するかどうかは不明である.

定理4.1, 定理4.2 を証明するために, まず, Xp の補間不等式を用いてLp のnode 補間不等式(補題4.6) を証明する. これより, n=2 < p < 1とし, 補題4.6 とGiga-Miyakawa [9] と類似の方法を用いて〓 がt に関して一様有界となるようなDetermining nodes の存在を証明することが第II 部の研究方法である. 境界条件の多様性については, 適当な境界条件を伴った線型化作用素がXp でセクトリアルかどうかを確認すれば十分となった. 漸近挙動の収束率についても, 〓 に関する一様有界性を用いて明らかにできた. このように, 本研究は解析半群のLp 理論を用いて初めてDetermining nodes のLp 理論を構築したものであり, 本論文の中で最も重要かつ主要な結果である.

第III 部では, Ω を外側の境界Γ と内側の境界Γ。Γ1 で囲まれたRn (n 2 Z; n >2) の有界領域とし, 次のΩ 上のStokes 方程式に対するレゾルベント問題(1.4) について, Lp 評価を満たす解の存在と一意性を考察した.

第III 部の研究内容は, 次の定理6.1, 定理6.2 を証明することによって,Apu = PpdivT(u, p);〓によって定義されるStokes 作用素Ap を任意の次元に対してDetermining nodes のLp 理論に応用したことである.

定理6.1. 〓 に対して〓が成り立つような解〓を一意に持つ. ただしCp;" はn, Ω, p, ε, μ とK のみに依存する正定数である.

定理6.2. 0 < K <1, 1 < p < 1, 0 < < π/2 とする. このとき, p(Ap) S [ f0g であり, 任意の入∈ SU{0} に対して〓が成り立つ. ただし, Cp;" はn, Ω, p, ", u, とK のみに依存する正定数である. したがって, Ap はLp;〓(Ω)でセクトリアルであり, 任意の0 < 〓1 < ∧1 に対してn, Ω, p, ", u, K と〓1 のみに依存する正定数Cp;";〓1 が存在し, 任意のt > 0 に対して〓が成り立つ. ただし,〓。

非有界領域(全空間Rn, 半空間Rn+, 曲がった半空間Hn!) 上のStokes 方程式に対するレゾルベント問題について, Dirichlet 境界条件においてはFarwig-Sohr [7] によって, Navier 境界条件においてはShibata-Shimada [24] によってLp 評価を満たす解の存在と一意性が得られている. これより, (1.4) については,Solonnikov-Scadilov [25] と類似の方法を用いて(1.4) の広義解の存在と一意性を証明すれば十分と思われた. ところが, 次の発散問題(6.3) について, 彼らはp = 2 とし, n = 3 におけるHelmholtz の定理を用いて次の補題6.1 を証明しており, 次元の任意性を失うことがこれまでの問題点であった.

補題6.1.〓を満たす解u 2 (W1p (Ω))n を持つ. ただし, Cp はn, Ω とp のみに依存する正定数である.

定理6.1, 定理6.2 を証明するために, まず, Bogovskii [2] の結果を用いてSolonnikov-Scadilov の方法を改良し, 任意の次元に対して(1.4) の広義解の存在と一意性を証明する. そして, 局所化法を用いて(1.4) をRn とHn! 上のStokes 方程式に対するレゾルベント問題に帰着させ, Farwig-Sohr とhibata-Shimada の結果を用いてLp 評価を満たす(1.4) の解の存在と一意性を得ることが第III 部の研究方法である. Determining nodes のLp 理論への応用に関しては, 定理6.2 より第II 部の研究結果が境界条件の多様性に耐えうる理論であると裏づけることができた.

第9 節では, Determining nodes の理論を半線型熱伝導方程式とNavier-Stokes 方程式に応用した. 他にもDetermining nodes の理論と関連した研究課題として, 次のΩ 上のNavier-Stokes 方程式に対する初期境界値問題(1.3) について, 定常解の漸近的性質を考察した.

第9 節の研究内容は, 任意のn < p < 1に対して(1.3) の小さな定常解〓 が一意に存在すること(定理9.5) と,〓で漸近安定, つまり 〓をLpo(Ω) で十分小さくするとき, 任意の0< 1 に対して〓が成り立つこと(定理9.6) を証明したことである. (1.3) と類似の問題の定常解の存在, 一意性と漸近安定性については, Itoh-Tanaka-Tani [13] によってL2-Sobolev-Slobodetski空間という複雑な関数空間を用いた結果が得られている. 定理9.5, 定理9.6 を証明するために, まず, 定理6.1 とBanach の不動点定理を用いて定理9.5 を証明する. そして, 定理6.2 とGiga-Miyakawa と類似の方法を用いて定理9.6 を証明することが第9 節の研究方法である. これより, Lp-Sobolev 空間という簡単な関数空間を用いて(1.3)の定常解の存在, 一意性と漸近安定性を得ることができた.

審査要旨 要旨を表示する

柿澤亮平氏は本論文においてバナッハ空間上で半線形放物型発展方程式を考え、その時間発展する解が時間とともにどのような定常解に近づくかという漸近挙動の問題に関して顕著な成果を挙げた。すなわち、今考察している時間発展する解がどのような定常解に時間とともに収束するのかを空間領域Ω の有限の点のみの解の挙動を調べるだけで決定するという半線形放物型方程式の確定節点(determiningnodes) の問題を考察した。このような確定節点の問題は1980 年代にFoias, Temam によってナヴィエ・ストークス方程式に対して考えられた。応用上からは、定常状態が一意的とは限らない場合に、有限個の点での情報からそれを決定する問題としてその重要性は明らかである。そのような時間発展する解の収束先を決定する問題は、Foias-Temam の論文以降、さまざまな研究者によって個別の方程式に限って研究され以下の結果が証明されていた:有限個の点が十分密に分布している(すなわち、相互に距離が十分小さい)ならば、そのような有限個における解の時間t > 0 におけるデータが一致すれば、収束する定常解も同じである。

しかし、一般的な理論はなく、証明はそれぞれの論文で考えられている半線形放物型方程式に依存するものであった。柿澤氏は本論文第一部において一般のヒルベルト空間における半線形放物型発展方程式に対して、確定節点による定常解の一意性を証明し、従来の結果を一般化した。第一部では状態空間としてはL2(Ω) を考えている。このようなL2-理論は取り扱いは簡単であるものの、非線形方程式を扱う際に不可欠な非線形項の評価ためには不都合であり、状態空間としてはp = 2;> 1 として、Lp(Ω)を考えて、確定節点の理論を構築することが望ましい。しかしながら、そのようなLp-理論は空間自体がヒルベルト空間の構造を有していないことから、さまざまな困難がある。柿澤氏は証明に必要な評価をより精密にして、そのような困難を克服して、確定節点のLp-理論を確立し、より広範なバナッハ空間上における半線形放物型発展方程式に研究対象を広げた。

さらに、数値解析や工学・産業への応用の観点から既存の研究に関しては以下の問題点があった:

(境界条件の多様性) Dirichlet 境界条件や周期境界条件を除き, 例えば, ナヴィエ・ストークス方程式に重要な役割を果たすナヴィエの境界条件などの物理学的に重要な境界条件が考察されていない。

(漸近挙動の収束率) たとえ確定節点の存在が証明されたとしても、時間大域的な解の漸近挙動がどのような収束率で一致するかどうかは不明である。

これらの課題に関しても、柿澤氏は本論文において発展方程式の理論を駆使して一般的な枠組みで解決し、既存の研究成果を深化・発展させた。

最後に本論文の第三部では、ナヴィエ・ストークス方程式の混合型境界値問題に関して定常解の存在をLp-空間で証明し、確定節点の問題に関連づけた。

柿澤氏の本論文は応用上からも重要な確定節点の問題に関して、決定的な成果を確立したものである。よって、論文提出者 柿澤亮平 は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

主査: 教授、山本 昌宏

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