No | 128386 | |
著者(漢字) | 田,然 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | デン,ゼン | |
標題(和) | Cechコホモロジーの明示的計算とDavenport不等式の拡張 | |
標題(洋) | The explicit calculation of Cech cohomology and an extension of Davenport's inequality | |
報告番号 | 128386 | |
報告番号 | 甲28386 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第394号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 背景 C(t) 上の楕円曲線E の方程式をWeierstrass 標準形でy2 = 4x3 - 3ax + b (a; b ∈ C[t]) と書いたとする。C(t) のプレースv を一つ固定すると、ある定数Cabv が存在して、任意の有理点(r; s) ∈ E(C(t)) に対し、付値v(r) ≧ Cabv であることはManin(1966) によって証明された。これは方程式y2 = 4x3-3ax + b の多項式解が有限個しかないとするSiegel の定理を簡単に導きだす強力な命題である。 E をP1 へのelliptic fibration を持つ、C 上の代数曲面だと思うと、幾何的にv(r) は、(r; s) の表すセクションと0-セクションとのv においての交点重複度と比例している。この交点重複度が一定以上となる全ての有理点の集合Ei := {(r; s) ∈ E(C(t)); v(r) -2i} は、E(C(t)) の部分群で、Ei ⊃ Ei+1 であり、i=Ei+1 がtorsion-free であることは簡単なレンマだが、これとMordell-Weilの定理と組み合わせて上のManin の命題(そしてSiegel の定理)がすぐ従うことはVoloch(1994)が気付いた。 しかしManin の命題における定数Ca;b;v の明示的表示とrankEi の評価が問題となる。これの評価はE の多項式解の個数の評価につながる。 座標変換でγ がt = ∞での付値と思ってもかまわない。このときγ= -deg で、ただし有理式に対してdeg は分子と分母の多項式の次数の差を表す。E の多項式解(r; s) に対するdeg r の評価について以下のような結果が知られている: 定理(Davenport の不等式) 楕円曲線〓の整点(r; s) について不等式〓が成り立つ。 もっと一般的な楕円曲線に対して次の評価がある: 定理(Hindry-Silverman) 楕円曲線〓の整点(r; s) は〓をみたす。ここでN0 は異なる零点の個数を表す。 主定理 本論文の主定理は次のようなものである。 記号 楕円曲線E : y2 = 4x3 - 3ax + b (a; b ∈ C[t]) に対して次を定義し: n をdeg a ≦ 4n; deg b ≦6n をみたす最小の整数とする。 Δ = a3 b2, Λ = 2b'a - 3ba', Φ = 13 (b')2 ー 34a(a')2 とおく。 P2 = ΔΛ, P1 = Δ'Λ - ΔΛ', P0 = 112(Δ''Λ - Δ'Λ' + ΦΛ) とおく。 p; q ∈ C[t] に対し、p(p; q) = ΔΛq' - ΔΛ'q + 1112Δ'Λq - 6(P2p'' + P1p' + P0p) とおく。 B = {p(p; q) MOD Λ2} とおく。ここでMOD Λ2 は、多項式をΛ2 で割っての余りを表す。次を仮定する: a; b がminimal、つまり定数でない多項式l でl4 がa を割り切り、l6 がb を割り切るようなものは存在しないとする。 Λ≠ 0つまりE のJ-不変量は定数でないとする。 定理 上の記号下で、 〓 2〓 この定理はHindry-Silverman の評価よりもいい不等式をもたらす。 特に楕円曲線E : y2 = x3 + x + h の有理点(r; s) に適用する場合、よりきれいな不等式〓および評価1. 0 ≦ i ≦ deg Λ - deg gcd(Δ;Δ') なるi に対しrankEN0(Δ)-i≦ i2. j ≧ deg Λ - deg gcd(Δ;Δ') なるj に対しrankEN0(Δ)-n-j ≦jを得ることができる。 証明の概略 Manin の写像の次数 K = C(t);L = K(x; y); y2 = 4x3-3ax+b とおく。K 上の導分a/atに対応してΩL=K=d(L) のK-導分、Gauss-Manin 接続a を定義することができる。relative な一次形式dx/y∈ ΩL=K のΩL=K=d(L)における同値類は、a に関してある二階の微分方程式をみたす。この方程式は (P2aa + P1a+ P0)dxy∈ d(L)と計算された。 (P2aa + P1a + P0) dxy∈ d(L) となるので、楕円曲線E : y2 = 4x3 - 3ax + b の有理点s = (r; s)に対して〓は積分経路によらずに定まり有理関数となる。この写像μ : E(K) - K はManin の写像と呼ばれる。μ は加群の準同型でそのカーネルはE(K) のtorsion-part である 主定理の証明は、deg μ(s) とdeg r との間の関係に対する気付きから始まった。論文の§2 で、ほとんどの場合deg μ(s) = -12 deg r + deg(ΔΛ) - 2 であることを証明する。 Manin の写像のコホモロジー的な意味 以下では次の記号を使う: E の小平-Neron モデルをE とおく H1prim( e E;Ω1e E) = {c ∈ H1( e E;Ω1e/ E); c:f = 0} とおく。ここでc:f は交叉を表す。 任意のc ∈ H1prim( e E;Ω1e E) に対して、c のH1(EΔ;Ω1EΔ) への制限はH1(EΔ; _※Ω1A) の像に入り、それを下の図式に沿って ∈ H0(A;R1_※C xO1A) によって表すことができる。 H1(EΔ; κ※Ω1A)=→ H0(A;R1κ※κ※Ω1A) → H0(A;R1κ※C x Ω1A)←.-d-t=H0(A;R1κ※C xO1A)よって写像μ : H1prim( e E;Ω1e/ E) → C(t) を 〓で定義することができる。ここで〓がcup 積であり、〓がGauss-Manin 接続である。κ の任意のセクションs に対してu(s) = μ(c(OE (s - o))) であることを論文の§3 で証明した。 写像μ の像 Algebraic de Rham cohomology を使って、H1(E;Ω1e/ E) の生成元を明示的に計算し、上の定義にたどってμ の像を計算した。μ の像は多項式でβ+Λ2; β ∈ B; ∈ C[t]; deg ≦degΔ-deg Λ-2の形で書ける。degμ(s)とdeg r の間に関係あるので、deg μに対する評価はdeg r の評価となり、一定次数以下の多項式たちのC-ベクトル空間としての次元に対する評価はEi のランクに対する評価となる。このように主定理は証明される。 Algebraic de Rham cohomology の計算 C 上の非特異代数多様体X のalgebraic de Rham cohomology は二重複体〓のコホモロジーである。ここでC(X;ΩiX) はCech 複体である。 これを計算するために、任意の射影多様体上のcoherent sheaf F に対してCech cohomology を計算する機構を開発した。その方法は自由分解F ← ζ:〓をとって二重複体〓を考えるものである。 n≧ 1 なるn に対してHi(Pr;OPr (-n)) = 0 (0 ≦ i ≦ r -1) であり、Hr(Pr;OPr (-n)) の基底は{Xl00...Xlrr|li ≧-1;Σli = -n} と明示的に書ける。上の二重複体は同型Hi(X;F)=hr-i(Hr(Pr; F.)) を与えてくれるもので、この二重複体を使って自動的にdiagram chasing をし、Cech cohomology を計算してくれるプログラムをSingular を使って作成した。本論文の結果は、このコンピューター.プログラムの計算によるところが大きい. | |
審査要旨 | 提出論文は、多項式環C[t] 上,方程式y2 = 4x3 -3ax + b (a, b ∈ C[t],Δ = a3 - b2 ≠ 0)で定義される楕円曲線E のC(t) 有理点(x, y) = (r, s), r, s ∈ C(t) を考察し,r の次数deg r (有理式r の次数とは,r のt = ∞ における増大度,すなわちr = P/Q と多項式の比として表したときdeg r =deg P -deg Q である.上記楕円曲線を射影直線上の楕円曲面,有理点を楕円曲面の切断σ(t) と見れば,deg r は本質的にはt = ∞ におけるσ(t) と0 切断の局所交点数である)について,新しい知見を与えている Yu. Manin は1966 年,関数体上の曲線に対するMordell 予想を,代数多様体でパラメトライズされた曲線として実現される幾何学モデルに付随するHodge 構造の変動によって定まる自然な接続,いわゆるGauss-Manin接続を導入することによって解決した.その論文の中で,上記の楕円曲線E = Ea,b に対して定数C = Ca,b が定まって,有理点(x, y) = (r, s) に対して,deg(r) ≦-C が成立することを指摘した.この結果は,直ちにMordell-Weil の定理や整数点に関するSiegel の定理を導く強力なものである.しかしながら,Manin はこの定数C = Ca,b を明示的な形では与えていない. 一方Davenport (1965) は,E0,b : y2 = 4x3 + b に対しては〓が成立する(言い換えれば,二つの多項式f, g ∈ C[t] がb = 4f3 -g2≠ 0をみたせばdeg f ≦ 2b-2 が成立する) ことを示している.その後Hindry-Silverman (1988) は一般のEa,b の有理点(x, y) = (r, s) に対する評価 deg r≦ 4 deg Δred - 4 +deg Δ/6を示した.ここでΔ = a3 -b2 は判別式,Δred は被約判別式である.これら二つの結果は,Manin の方法とは異なり,古典的なSiegel の定理の方法を改良して用いている. 提出論文は,上記Manin によるGauss-Manin 接続の具体的計算を実行し,deg r に対する新しい不等式を証明した.本論文で得られた不等式は当然ながら,Hindry-Silverman のものとは独立であるが,判別式Δの根の重複度が小さい場合(より「一般的な」場合)には,より良い不等式を与える.記号がきわめて煩雑になるため,本論文の不等式を最も強い形で書き下すことはしないが,結果をより精密化するための技術的補正項を省き,本質的部分だけに単純化した形は,2db/dta - 3da/dtb≠ 0 (すなわちEa,b のJ-不変量が定数でない)場合,deg r≦ 2 degΔ + 2 deg(2dbdta -3dadtb)- 2である.この不等式を使うと,一般論により,Ea,b のMordell-Weil 階数もエフェクティブに上から評価することができる. Davenport の定理にあらわれる楕円曲線E0,b の場合はJ 不変量が定数(モジュライが一定)であるから,上記の不等式そのものは適用できないが,Gauss-Manin 接続それ自身は非自明で,その計算によりDavenport不等式の精密化であるdeg r≦2 deg bred - 2という不等式を本論文では得ている(ここでbred は多項式b の被約部分). 実は上記の不等式は,a = 0 という条件を弱めa = (定数) としたときもdeg r≦2 deg Δred - 2という形に一般化され,これは従来の文献には見えない新しい結果である. 本論文の主要結果の証明に用いられた手法は,本質的にはManin のアイデアによるもので,決して新しいものではない.しかしながらGauss-Manin 接続の計算,すなわち楕円曲面の相対微分形式をファイバーに沿って0 切断から与えられた切断σ まで積分し,それを底空間のパラメータで微分するという操作(Gauss-Manin 接続の作用)を具体的に実行することは,決して容易なことではなく,かなりの計算力が必要である.またこうして得られた不等式は,しばしば古典的方法によって証明されたHindry-Silverman やDavenport の定理より良い評価を与えており,関数体上の楕円曲線の理論に,一定の新しい貢献をしたものと認められる.また本論文で用いられた方法は,一般の一変数関数体上定義された楕円曲線の場合にも容易に一般化できるものである よって、論文提出者 田然は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい十分な資格があると認める. | |
UTokyo Repositoryリンク |