学位論文要旨



No 129489
著者(漢字) ウズン,メジトケレム
著者(英字) Uzun,MecitKerem
著者(カナ) ウズン,メジトケレム
標題(和) p-進数体の上モチフィックホモロジーと類体論
標題(洋) Motivic Homology and Class Field Theory over p-adic Fields
報告番号 129489
報告番号 甲29489
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第404号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 宮岡,洋一
 東京大学 教授 寺杣,友秀
 東京大学 教授 辻,雄
 東京大学 准教授 志甫,淳
 東京工業大学 教授 斎藤,秀司
内容要旨 要旨を表示する

本論文の目的は、ρ-進体κ上の(必ずしもプロパーとは限らない)スムーズな多様体Uの基本群のアーベル化を、Uにκ上良い還元をもつスムーズなコンパクト化が存在する場合に記述することである。プロパーな場合に用いられた群SK1は、モチフィックホモロジーにおきかえる。

先ずUがκ上スムーズな多様体である場合,Ivorra[4]のe-進実現を用いてモチフィックホモロジーからコンパクト台つきエタールコホモロジーへの射

C(ij)(U,n):HMi(U,Z/n(j))→H(2d-i)(et,c)(U,Z/n(d-j)).

を構成する。

主に、c(-1,-1)(X,n)を調べたい。このとき、ターゲットはPoincare双対性によってπ(ab)1(U)/nと同一視され、ソースはX上の点と曲線から定まるあるデータを用いて記述できる[5]。Yamazaki[5]の結果によれば、この後者がSK1のプロパーでない場合におけるよい代替のひとつである。このc(-1,-1)(X,n)を使って、相互写像を構成することができる。この相互写像の核と余核を調べることが本論文の目的である。Katoホモロジーの消滅に関するいくつかの結果[1-3]を用いて次の定理を証明する。

主定理.κがQρの有限状拡大であり、Uがκ上のスムーズなd次元多様体であるとする。また、Uはあるスムーズでκ上に良い還元をもつ射影多様体Xの開部分多様体となっていると仮定する。このとき、各自然数n>0に対して

C(-1,-1)(U,n):HM-1(U,Z/n(-1)) ≅→H(2d+1)(et,c)(U,Z/n(d+1))

は標準的な同型を与える。

[1] U. Jannsen and S. Saito, Kato conjecture and motivic cohornology over finite fields. http: //arxiv.org/abs/0910.2815.[2] U. Jannsen and S. Saito, Kato homology of arithmetic schemes and higher class field theory over local fields. Documenta Math. Extra Volume: Kazuya Kato's Fiftieth Birthday, 2003.[3] M. Kerz and S. Saito, Cohomological Hasse principle and motivic cohomology for arithmetic schemes. Publ. Math. IHES 115, 2012.[4] F. Ivorra, Realisation e-adique des motifs triangules geometriques I. Doc. Math. 12, 2007.[5] T. Yamazaki, Brauer-Manin pairing, class field theory and motivic homology. http://arxiv.org/pdf/1009.4026.
審査要旨 要旨を表示する

Uzun Mecit Kerem氏は,本論文で,ρ進体上のスムーズな開代数多様体の類体論を研究し,整数環上スムーズなコンパクト化の存在という仮定のもとで高次元類体論の同形を証明しました.これは,Moritz Kerz氏と齋藤秀司氏による最近の加藤ホモロジーの消滅に関する結果を巧みに使うもので,先行結果を大きく改良するものです.

κをρ進体Qpの有限次拡大とし,Xをκ上スムーズなスキームとする.X(a)で閉包の次元がaの点のなすXの部分集合を表すと,局所類体論と基本群の関手性より,標準射

⊕ (x∈X(0))k(x)× → π(ab)1(X) (1)

が定まる.Xがさらにプロパーと仮定すると,(1)は馴記号が定める射

⊕(x∈X(1))K2(y) → ⊕x∈X(0)k(x)× (2)

の余核からの射

SK1(X)→π(ab)1(X)(3)

をひきおこす.Xがプロパーという仮定のもとでも,Xがよい還元をもたなければ射(3)は一般には同形とは限らないことが知られている.

Uzun氏は本論文で,まずプロパーなXがよい還元をもつと仮定すれば射(3)の射影有限完備化が同形であることを,上記の加藤ホモロジーの消滅を使って示した.さらにこのこととモチヴィック・ホモロジーの理論とくにIvorraによるe進実現の構成を使って,整数環上のスムーズなコンパクト化をもつρ進体上のスムーズなd次元スキームUと自然数n≧1に対し,モチヴィック・ホモロジー群からの標準同形

HM(-1)(U,Z/nZ(-1))→π(ab)1(U)/π(ab)1(U)n (4)

を示した.

(4)の左辺のモチヴィック・ホモロジー群HM-1(U,Z/nZ(-1))は山崎隆雄氏により,射(2)の⊕(χ∈x(1))K2(y)の部分群への制限の余核C1(X)としての表示が与えられている.山崎氏は(4)が同形であることを,Xが曲線の積である場合や幾何的に有理曲面である場合などに証明していた.Uzun氏の今回の結果は,この結果を大きく改良するものである.

証明の方針は次のとおりである.まず高次Chow群からエタール・コホモロジーへの標準射

CH(d+1)(U,1;Z/nZ)→H(2d+1)(et)(U,Z/nZ(d+1)) (5)

を考察する.U=Xがプロパーのときには,(5)の左辺の高次Chow群はモチヴィック・ホモロジー群の双対性よりHM(-1)(U,Z/nZ(-1))と標準的に同一視される.ポワンカレ双対性と局所類体論より,標準同形π(ab)1(U)/π(ab)1(U)n→H(2d+1)(c et)(U,Z/nZ(d+1))があるから,これもU=Xがプロパーのときには右辺はπab1(U)/πab1(U)nと同一視される.(5)の両辺にそれぞれ収束するniveauスペクトル系列を比較すると,ホモロジー代数の議論により(5)の核と余核は加藤ホモロジーで抑えられる.この部分が技術的には本論文の鍵となるところである.X=Uがプロパーでよい還元をもつと仮定すると,Kerz氏と齋藤秀司氏の結果によりこの加藤ホモロジーは0であり,この場合に同形(4)が得られる.

一般の場合には,補集合X-Uの次元に関する帰納法で,X=Uがプロパーでよい還元をもつ場合に帰着させて証明する.この場合には,モチヴィック・ホモロジーとコンパクト台エタール・コホモロジーの局所化長完全系列を比較する.このずれを統制することが必要となるが,上と同様の議論でやはりずれは加藤ホモロジーで抑えられ,この場合には加藤ホモロジーは明らかな理由で0になる.

以上の結果は,局所体上の多様体の高次元類体論とその高次のモチヴィック・ホモロジーへの拡張に対して新しい知見を与えるものとして評価される.よって論文提出者Uzun Mecit Kerem氏は博士(数理科学)の学位をうけるにふさわしい充分な資格があると認める.

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