学位論文要旨



No 214799
著者(漢字) 中村,淳一
著者(英字)
著者(カナ) ナカムラ,ジュンイチ
標題(和) 高性能CMOSイメージセンサの画素構造とオンチップ信号処理
標題(洋) Pixel Structures and On-Focal-Plane Signal Processing for High Performance CMOS Active Pixel Image Sensors
報告番号 214799
報告番号 乙14799
学位授与日 2000.09.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14799号
研究科 工学系研究科
専攻 電子情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 相澤,清晴
 東京大学 教授 鳳,紘一郎
 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 浅田,邦博
 東京大学 助教授 廣瀬,明
内容要旨 要旨を表示する

 CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサはオンチップに信号処理回路や駆動回路を集積化することができ、単一電源駆動が可能かつ低消費電力という特長から携帯用機器への応用開発が活発化している。しかし、ディジタルスティルカメラや科学計測用途のような空間的高分解能、低雑音を要求される応用に対しては、通常用いられている画素構造では原理的に発生するリセット雑音のため、低雑音を誇るCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサのレベルに到達する事は不可能である。

 しかし、CMOSイメージセンサの雑音レベルが、CCDイメージセンサと同等のレベルまで低減された時には、上記の優れた特長のためCCDイメージセンサに置き換わり、画像入力デバイスの主流になるものと期待される。

 本論文では、高精細、高感度なCCDイメージセンサの性能レベルに迫るCMOSイメージセンサを実現するための基礎検討を行う。まず、画素レベルの検討を行い、各画素に信号増幅トランジスタを持ついわゆるアクティブピクセルセンサを採用する事によりもたらされる利点を整理する。そして、リセット雑音を発生させない、あるいはリセット雑音が発生しても後段のオンチップ信号処理回路にてそれを抑圧できる画素により、CCDイメージセンサよりも低い雑音レベルを実現できる事を示す。

 次に、信号処理回路をオンチップに集積化可能というCMOSイメージセンサの特長を積極的に利用して高感度/低雑音を実現するため、画素毎の増幅器の特性ばらつきを抑圧する固定パターン雑音抑圧回路、高分解能A/D変換回路を検討した。固定パターン雑音抑圧回路により画素毎にばらつくオフセット成分を除去し信号成分のみを抽出する。ただちにその狭帯域なアナログ信号をディジタル信号に変換し、後段でのS/Nの劣化を抑えるアーキテクチャを想定した。

 具体的には、電荷リセットを完全電荷転送モードで行いリセット雑音を発生させないことを狙った画素構造について検討した。まず、従来提案されてきたフローティングゲート検出型画素に比べ、構造的に簡単で、そのため、画素の微細化に適したSimple Floating Gate(SFG)画素を提案し、実験的にその動作を確認した。また、その特性評価、解析から、改良すべき点を抽出し、新たにImproved Simple Floating Gate(ISFG)画素を提案、2層ポリ、3層メタル2μm CMOSプロセスを用いた試作画素において雑音電荷数20電子を得た。この値からスケーリングにより0.35μm CMOSプロセスを用いた場合、数電子の入力換算雑音電子数が予測され、CCDイメージセンサ(雑音電荷数10〜20電子)より低雑音のイメージセンサ実現の見通しが得られた。

 固定パターン雑音抑圧回路、高分解能A/D変換回路は、広い意味で増幅型CMOSイメージセンサのひとつである電荷変調デバイス(Charge Modulation Device: CMD)イメージセンサ用に検討された。高精細(1024×1024画素以上)、高分解能(11-16ビット)の科学計測用ディジタル出カイメージセンサの実現を想定した。CMDイメージセンサは電流出力であるため、固定パターン雑音抑圧回路、高分解能A/D変換回路とも電流メモリと呼ばれる基本回路をベースとする電流モードの回路を検討した。電流モード固定パターン雑音抑圧回路は、nチャネル電流メモリとpチャネル電流メモリから構成されたシングルエンドデザインとし、後段の電流モード高分解能A/D変換回路に接続できるようにした。

 A/D変換回路は11-16ビットの高分解能を得るため、オーバーサンプリングΔ-Σ方式の回路とした。この方式は、精密なアナログ部品を必要としない。また、十分な変換時間を充てることができるよう、列毎あるいは数列に1個のA/D変換回路を設けそれらを並列に動作させる列並列アーキテクチャを前提とした。基本回路として、スイッチングに伴うクロックフィードスルーが、電流レベルに依らず一定値となる新しい電流メモリを考案した。変換時間177μs、実効11ビットのA/D変換回路を試作した。その設計および評価結果を記述した。

 本論文では、さらにオンチップにアナログ信号処理回路を集積化することにより機能を付加する検討を行った。この際、高精細化に対応できるようアナログ信号処理回路はイメージングエリアの外に置いた。

 まず増幅型イメージセンサの非破壊読み出しを利用し、簡単なWinner-take-all回路を画素出力線に接続することにより画素内の信号電荷積分の様子をリアルタイムでモニターできる機能を実現した。この機能により、イメージセンサの信号積分時間を精度よくリアルタイムに制御することができる。

 次に、複数の入力信号の重み付けアナログ演算を実行するニューロンMOSFETを用い、画像の平滑化を行い、原画像との差分をとることでエッジ検出機能を持たせたイメージセンサを提案し、試作デバイスによりその動作を確認した。画像のエッジ検出をリアルタイムで行うことにより、後段での画像処理の負荷を軽減することができる。また、原画像そのものも取り出すことができる。

 以上の検討は、イメージセンサ上に機能を付加した高精細、高感度なCMOSアクティブピクセルセンサ実現のための新たな一歩となる。最後にCMOSイメージセンサの研究開発の今後について私見を述べた。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「Pixel Structures and On-Focal-Plane Processing for High Performance CMOS Active Pixel Image Sensors(高性能CMOSイメージセンサの画素構造とオンチップ信号処理)」と題し、8章よりなり英文で書かれている。CMOSイメージセンサは、低消費電力であり、オンチップに信号処理回路、周辺回路が統合集積化できることから、CCDに対抗する新しいイメージセンサとして活発に研究開発が行われている。本論文では、CMOSイメージセンサの高精細、高感度化のための基礎検討とA/D変換及びアナログ信号処理機能のイメージセンサ上での実現に関して論じている。

 第1章は「Introduction」であり、CMOSイメージセンサの歴史的背景、CCDと比較を行い、高感度、高精細なCMOSイメージセンサを実現するために必要とされる技術を論じ、本論文の位置付けをしている。

 第2章は「New Pixel Structure -Part1-Simple Floating Gate Pixel」と題し、CMOSイメージセンサのための微細化に適した画素構造を提案している、従来より提案されているフローティングゲート検出型の画素構造に比して、簡単な構造で完全電荷転送を行なう画素が実現できる。32x27画素アレイの試作を行ない、基本特性の解析、動作の検証を行なっている。

 第3章は「New Pixel Structure -Part2-An Improved Simple Floating Gate Pixel」と題し、第2章で提案した画素構造の改良を提案している。第2章で提案したSimple Floating Gate Pixelでは、フォトゲートの電圧がMOSFETのゲートに直接加わるため、動作電圧範囲が狭まり、転送電荷の容量を低下させていた。その欠点を改善するために、光電変換のためのフォトゲートと検出のためのフローティングゲートを分離した構造を提案した。提案画素の試作を行ない、基本特性の検証を行なった。2μmのCMOSプロセスでの試作画素にて雑音電荷数20電子を得ることができた。0.35μmのCMOSプロセスを用いた場合には、CCDの雑音電荷数(10〜20電子)より低雑音のCMOSイメージセンサが実現できることが期待される。

 第4章は「Current-Mode Fixed Pattern Noise(FPN)Suppression」と題し、固定パターンノイズの抑圧回路について論じている。ここでは、CMOSイメージセンサの中でも電荷変調デバイス(CMD)用に電流モードでの固定パターンノイズの抑圧を検討している。固定パターンノイズ抑圧回路は2つの電流メモリセルからなり、列ごとに配置され列並列処理が行なわれる。試作回路による特性解析を行なっている。十分なノイズ抑圧は、それに続くAD変換のダイナミックレンジを十分に利用するために重要である。

 第5章は「Current-Mode Second-Order Incrementa1 Δ-Σ Analog-to-Digital Converter For Focal Plane Applications」と題し、センサ面上でのAD変換について論じている。AD変換はワンチップカメラのための撮像面上機能として最も重要である。CMDイメージセンサについて検討し、電流モードでのAD変換回路を提案した。11〜16ビットの高分解能をうるためにオーバーサンプリングΔ-Σ方式を取りいれ、列並列に動作させるアーキテクチャを論じている。スイッチングに伴うクロックフィードスルーが、電流レベルによらず一定となる新しい電流メモリを考案し、変換時間177μs、実効11ビットのAD変換回路を試作している。また、オンチップAD変換を有するイメージセンサの設計についても論じている。

 第6章は「Nondestructive Readout in Active Pixel Sensors」と題し、CMOSイメージセンサでの非破壊読み出しとアナログ信号処理について検討している。非破壊読み出しは、CCDでは実現困難な機能であり、これにより撮像面上での多くの画像処理の実現につなげる事ができる。CMOSイメージセンサの非破壊読み出しを利用して、kTCノイズの抑圧、winner-take-all回路を利用した画素の電荷蓄積状態のリアルタイムモニタリングを実現した。

 第7章は「Image Smoothing using a Neuron MOSFET」と題し、撮像面上でのフィルタリングなどのアナログ信号処理を論じている。信号の重みづけアナログ演算素子であるNeuron MOSFETを用いることにより、画像の平滑化を撮像面上で実現した。また、平滑画像と差分をとることによりエッジ検出機能も実現できる。試作デバイスで検証を行ない、CMOSイメージセンサでの機能統合を実例により示している。

 第8章は「Conclusion and Future Prospects」であり、本論文の成果をまとめるとともに将来の展望を論じている。

 以上を要するに、本論文では、CCDの性能レベルに迫る高精細、高感度なCMOSイメージセンサのための基礎検討、及びCCDでは困難なオンチップ信号処理の実現を示しており、今後の電子工学の進展に寄与するところが少なくない。

 よって著者は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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