学位論文要旨



No 214830
著者(漢字) 神田,雄高
著者(英字)
著者(カナ) カンダ,ユタカ
標題(和) 弱凸な概ケラー多様体上のモノポール方程式と擬正則曲線
標題(洋) The monopole equations and J-holomorphic curves on weakly convex almost Kahler4-manifolds
報告番号 214830
報告番号 乙14830
学位授与日 2000.11.10
学位種別 論文博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 第14830号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 教授 野口,潤次郎
 東京大学 教授 森田,茂之
 東京大学 教授 松本,幸夫
 東京大学 教授 古田,幹雄
 東京大学 教授 河野,俊丈
内容要旨 要旨を表示する

 0.Introduction.

 モノポール方程式は、4次元の有向リーマン多様体(X,g)に対して、スピンC構造をひとつ選ぶごとに定義される方程式である。Xが閉ならば、解のモヂュライ空間はコンパクトである。そしてXの自己双対な調和2形式の次元b2+(X)が2以上ならば、Xの有向可微分多様体としての不変量をモヂュライ空間の位相から定義できる。これをXのサイバーグ=ウイッテン(略してSW)不変量とよぶ。

 さて、シンプレクチック多様体(X,ω)に対してωと適合的な概複素構造Jを一つ固定したとき、組(ω,J)をXの概ケーラー構造と呼ぶ。h∈H2(X,Z)をひとつ取ろう。Jに関する非特異な擬正則曲線Dであって[D]=hとなるもの全体のなすモヂュライ空間M(h)は、Xが閉ならば良いコンパクト化M(h)を持つ。M(h)とそれに付随する評価写像euを考え合わせることによりグロモフ=ウイッテン(略してGW)不変量が定まる。これは概複素構造の選び方によらず、(X,ω)のみに依存する。Xが開の場合も、与えられた概ケーラー構造がエンドである種の凸性を持てば、GW不変量が全く同様に定義できる。ただし凸性は概複素構造の取り方で決まる性質なので、一般には(X,ω)のみの不変量でない可能性がある。

 一方、クロンハイマー=ムロフカは、エンドが錐的であるような有向4次元多様体について、エンドに「良い凸性」を持つ概ケーラー構造を置いたとき、モノポール方程式のモヂュライ空間がコンパクトになるような境界条件の設定を与え、SW不変量の定義を拡張した。この不変量はエンドの概ケーラー構造に強く依存するため、3次元接触幾何への深い応用がある。

 さて、4次元概ケーラー多様体(X,ω,J)上のモノポール方程式は微分形式とドルボー作用素の言葉で書き下すことができる。さらにもしJが複素構造ならば、比較的容易な議論より解のモヂュライが効果的因子たちと1対1の対応にあることが示せる。

 タウベスは上の観察に基づき、閉4次元シンプレクチック多様体でb2+が2以上のものに対して、そのSW不変量とGW不変量が等価であることを示した。

 SW不変量が零でない時に、対応する擬正則曲線の存在を導く彼の議論では、まずシンプレクチック形式ωで摂動したモノポーール方程式から出発し、それを正係数rでどんどんリスケールすることを考える。これは概ケーラー構造の定めるリーマン計量をr倍することと同じである。モノポール方程式の変数は正の半スピノル束W+の切断および直線束det(W+)のU(1)接続の組からなるが、rを無限大に飛ばした時、解のU(1)接続の曲率がディストリビューションとしてある擬正則曲線Dに収束することが示される。Dのホモロジー類はその出自から明らかにように、c1(det(W+))のポアンカレ双対である。

 本論文の主目的は、4次元概ケーラー多様体が「弱凸」(weakly convex)である時、クロンハイマー=ムロフカの境界条件を課したモノポール方程式を考え、この状況下に今述べたタウベスの議論を拡張することである。ただし、「弱凸」性はクロンハイマー=ムロフカの意味での凸性(漸近的平坦性)よりやや強い条件である。

 またその応用として、複素2次元の単純特異点の「境界」として得られる3次元コンタクト多様体について、それを凸な境界とするようなコンパクト4次元シンプレクチック多様体(Xo,ω)の位相には強い制約が伴うことを示す。すなわち、(Xo,ω)の交差形式は負定値、カノニカル直線束Kωは自明である。

1.解析的な設定および主定理

 以下、(X,ω,J)を完備な4次元概ケーラー多様体とする。LをX上の複素直線束であって、十分大きなコンパクト集合の外で定まった自明化〓を持つものとする。この時、次のようなモノポール方程式を考える。ただし、rは1以上の実定数とする。変数(α,β,a)はアファイン空間Ω0,0(L)×Ω0,2(L)×A(L)の元である。ただし、A(L)はLのU(1)接続全体、Faはa曲率形式。この空間への,Map(X,U(1))の自然な作用は方程式を不変に保つ。

 この方程式は元(1,0,d)(dは自明な接続)をLが自明な場合の解として持つことに注目せよ。我々の関数空間としては、Ω0,0(L)×Ω0,2(L)xA(L)の元であって、解(1,0,d)との差がコンパクト台を持つものたちの成す部分空間を、p=2のk階ソボレフ・ノルムに関して完備化したものを採用する。同様にゲージ群については、Map(X,U(1))の元であって、十分大きなコンパクト集合の外では1∈U(1)と一致するものたちの成す集合を、p=2のk+1階ソボレフ・ノルムで完備化したものを用いる。これを境界条件として見れば、自明な解(1,0,d)および自明なゲージ変換にソボレフ・ノルムの意味で漸近するよう要請した事になる。ただし、kは十分大きく取っておく。

 [K-M2]で示されたことは、(X,ω,J)が「漸近的に平坦」であるならば、解空間をゲージ群の作用で割った商空間M(L,r)がコンパクトな有限次元ハウスドルフ多様体になることである。次元は組(L,)のチャーン類Cl(L,)で決まり、特に(L,)が自明なとき零に等しい。ただし五は十分大きなコンパクト集合の外で自明化ρを持つから、c1(L,)∈Hcpt2(X,Z)と見なしている。

「主定理」(X,ω,J)が弱凸とする。正の発散実数列{rn}に対してモヂュライ空間の点列{([αn,βη,an],rn)∈M(L,rn)}が与えられた時、適当な部分列をとると、集合列{αn-11(0)}(αnによる零切断の逆像)はハウスドルフ位相の意味であるコンパクトな擬正則曲線Dに収束する。ただし0の各既約成分は被約とは限らず、重複度こみでc1(L,)のポアンカレ双対になる。(ここで[*]のゲージ同値類の意味)

2.主定理の証明

〓とおく。

 少なくともXがコンパクトな場合、rnを無限大に飛ばすとZnはある擬正則曲線Dにハウスドルフ位相の意味で収束し、上で1に広義一様収束することが、すでに[T1]で分かっている。

 一方(X,ω,J)が弱凸とすると、[K-M2]の議論から、rnと(ω,J,L,)のみに依存するコンパクト集合KnであってZn⊂Knとなるものが存在し、各切断αnはエンドの無限遠方で、与えられた単位切断にC0ノルムの意味で漸近している事が分かる。

 これを踏まえると、(X,ω,J)の非コンパクト性から生ずる困難は以下の3点にある。

本論文中の議論もこの順序で進む。

 (1)曲率の反自己双対部分Fan-のC0評価

 (2)全エナジー積分のアプリオリ評価

 (3)Znがエンドの無限遠へ逃げてゆく可能性の排除

 なお以下において、エナジー密度関数rn|1-|αn|2をεnと書き、また記号C及び∈は(ω,J,L,)のみに依存する正定数を表す。

 第1の困難は本質的に、命題6.1の証明のStep2)で定義されたテスト関数qのC0評価をする所にある。このqは[T1]の命題2.4の証明において登場した関数αそのものである。彼の議論では、Enのアプリオリ評価と有界領域上のディリクレ問題のグリーン関数の性質が使われた。我々はこの段階ではEnと扱うべき有界領域の大きさに対するアプリオリ評価を持っていないので、代わりにアプリオリ評価〓(*)とアレキサンドロフ=ベイケルマンの最大値原理を使う。なお命題6.1は命題7.1の証明に必要である。また、我々の与えるFan-のC0評価は、右端の定数項にが掛かっている点で[T1]のものと少し違っているが、これは後で述べる単調公式の改良に関係する。

 第2の困難に対しては、以下のようにZnとX\Kで分けて考える。

 命題7,1から直ちに従う〓という評価を、アプリオリ評価(*)と合わせると、Znを覆うのに必要な半径rn-1/2の測地球たちの個数がCrnで上から押えられる事がわかる。これを仮にネットの個数評価と呼ぼう。

 これはVol(Zn)<Crn-1であることを意味するから、|αn|2の一様有界性と合わせると、直ちに〓が従う。

 点x∈X\ZnのX\Znにおける単射半径を仮にdn(x)とおく。命題3.2から従う指数関数的評価〓を、先程のネットの個数評価と組み合わせて、比較関数Φnを条件εn<Φn onX\Znおよび〓を満たすようにうまく構成する。

 第3の困難は、エナジー密度関数εnに対する単調公式と、上で得たEnのアプリオリ評価を用いて解決される。いま仮にエンドの非常に遠方に、〓なる点列{xn}があるとしよう。この時xnでの単射半径は非常に大きいので、十分大きく取った正数Rに対して、測地球Bn:=B(xn,R)の列がとれる。rnが十分大きくなった時点で、単調公式から従う〓の下限がアプリオリ評価の与える玖の上限を越え矛盾が出る。

 ここで大切なのは、我々の単調公式は[T1]のものより改良されていて、いくらでも大きな測地球に対して適用できる点である。

 以上の議論から、あるコンパクト集合K存在し、すべてのnについてZn⊂Kである事が分かった。このとき評価(〓)から、X\K上で|αn|2が1に一様収束することがいえる。さらに[K-M2]の議論を引くと、これはX\K上でαnが与えられた単位切断に一様収束する事を意味する。よって後はすべて[Tl]の議論に従って、主定理の証明が終る。

審査要旨 要旨を表示する

 スピンc構造の与えられた閉4次元リーマン多様体に対して、そのサイバーグ・ウイッテン不変量は、モノポール方程式の解のモジュライ空間の位相から定義される。また、シンプレクティク閉多様体に対して、そのグロモフ・ウイッテン不変量は、適合する概複素構造をとった後、これに対する擬正則曲線のモジュライ空間の位相から定義される。

 タウベスは、4次元閉多様体において(2次元の自己双対調和2形式の次元b2+が2以上のとき)上の2つの不変量は等価であることを示した。すなわち、モノポール方程式を計量を平坦になる方向にリスケールしたとき、解のU(1)接続の曲率が擬正則曲線に集積していくことを証明した。

 クロンハイマーとムロフカは、エンドが錘的である4次元開多様体に対し、モノポール方程式を考察し、エンドが漸近的平坦性を持つ概ケーラー構造(シンプレクティク構造ωとそれに適合する概複素構造Jの組)を置いて、適当な境界条件を満たす解のモジュライ空間がコンパクトとなることを示し、サイバーグ・ウイッテン不変量の拡張を得た。

 論文提出者神田雄高は、本論文においてエンドが錘的であり、弱凸性をもつ4次元概ケーラー多様体上で、モノポール方程式のクロンハイマー・ムロフカの解のモジュライ空間を考察し、このモノポール方程式の解のU(1)接続の曲率が、タウベスのリスケーリングプロセスにより、有界な擬正則曲線に集積していくことを示した。

 具体的には、次が論文の主定理である。

 エンドが錘的であり、弱凸性をもつ4次元概ケーラー多様体(X,ω,J)の上のモノポール方程式のクロンハイマー・ムロフカの解のモジュライ空間の,点列〓に対し、適当な部分列を取ると、集合{αn-1(0)}はハウスドルフの意味で、あるコンパクトな擬正則曲線Dに収束する。Dはc1(L,〓)のポアンカレ双対となる。

 ここで、Lをコンパクト集合の外では自明化〓を持つX上の複素直線束とし、モノポール方程式はΩ0,0(L)×Ω0,2(L)×λ(L)の元(α,β,α)に対しで与えられ、A(L)はLのU(1)接続の空間、Faは曲率形式で、rは正定数、ゲージ群はMap(X,U(1))である。また、境界条件は(α,β,自明な接続)に漸近するというものである。

 論文提出者は、Xが開多様体であるために現れる困難を、曲率の反自己双対部分Fan-の評価、全エネルギー積分〓のアプリオリ評価、集合〓の有界性を順に示すことにより克服して、上の定理を証明している。この過程は見事である。

 さらに、論文提出者は上の定理を標準的接触構造を持つ3次元球面の有限群Γの自由作用による商空間MΓを境界とするコンパクトシンプレクティク多様体、X0の位相の研究に応用し、そのようなX0はスピン多様体で交差形式は負定値であることを示している。これは、太田・小野によって、ポアンカレホモロジー球面に対して得られていた結果を、新しい方法により広く拡張したものである。

 このように論文提出者の研究は、非常に完成度の高いものであり、3次元接触多様体、4次元シンプレクティク多様体の研究において非常に重要なものである。よって本論文提出者神田雄高は博士(数理科学)の学位を授与されるに十分な資格があるものと認める。

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