学位論文要旨



No 215568
著者(漢字) 篠田,正人
著者(英字)
著者(カナ) シノダ,マサト
標題(和) フラクタル格子上のパーコレーション
標題(洋)
報告番号 215568
報告番号 乙15568
学位授与日 2003.02.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 第15568号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 楠岡,成雄
 東京大学 教授 舟木,直久
 東京大学 教授 時弘,哲治
 東京大学 助教授 吉田,朋広
 東京大学 助教授 高橋,明彦
 名古屋大学 教授 長田,博文
内容要旨 要旨を表示する

 本論文ではフラクタル格子におけるパーコレーションの問題を考えた.パーコレーションにおいて平行移動不変性のないグラフではZd格子上とどのような違いがあるか,またフラクタルの持つ特別な性質がパーコレーションを考えることで見出せないか,といった点などを動機として研究を行った.

 フラクタルはfinite ramifiedであるもの(有限個の点を除去すると不連結になるもの)およびinfinite ramifiedであるもの(有限個の点の除去では分離できないもの)の2種類に分類できる.この論文では前者の典型例であるSierpinski gasket格子,および後者の典型例であるSierpinski carpet格子におけるパーコレーションについて研究した.

 まず,Sierpinski gasket格子でのパーコレーションについて考えた.O=(0,0),a0=(1/2,√3/2),b0=(1,0)とする.F0を△Oa0b0の3頂点およびそれらを結ぶ辺からなるグラフとする.{Fn}n=0,1,2,…をFn+1=Fn∪(Fn+an)∪(Fn+bn)で与えられるグラフの列とする.ここでA+a={x+a|x∈A},kA={kx|x∈A},an=2na0,bn=2nb0である.F=∪∞n=0Fnとする.この中の長さ1の辺がそれぞれ独立に確率pでopen,確率1-pでclosedとするbond percolationを考える.Ppを対応する確率測度,Oからopenな辺のみを通って到達できる点の集合をCとする.θ(p)=Pp(|C|=∞)とし,臨界確率をpc=inf{p|θ(p)>0}とする.このときpc=1である.correlation lengthを定める.この関数がp↑pcでどのような振る舞いをするかを調べた.d次元正方格子ではp↑pcでξ(p)〓|pc-p|(-ν)であると予想されているが,このSierpinski gasket格子ではこれと異なった発散のオーダーであることがわかった.

Theorem1

 〓さらに〓

 そしてこのときのhyperscaling relationについて考察を行った.また,このξ(p)のオーダーについてはさらに詳細まで計算することが可能であり,他のfinite ramifiedなフラクタル格子(snowflake, pentakun)においても同様に求めることができることを示した.

 次に,Sierpinski carpet格子でのパーコレーションについて考えた.一般化されたSierpinski carpet格子をZ2の部分グラフとして定義する.L≧2,T⊂{0,1,…,L-1}2とする.ただし(0,0)∈Tを仮定する.グラフGT=(VT,ET)を以下のように構成する.

 L=3,T={(i,j)|0≦i,j≦2,(i,j)≠(1,1)}のときのGTが最も知られたSierpinski carpet格子(図1)である.このGTにおけるbond percolationを考え,その臨界確率をpc(GT)とする.Tにどのような条件があればpc(GT)<1となるか,すなわち自明でない相転移が存在するか,を考える.{(i,j)|i∈{0,L-1}orj∈{0,L-1}}⊂Tならばpc(GT)<1という結果がKumagai(1997)によって得られている.これを以下のように拡張した.ここでTl={j|(0,j)∈T},Tr={j|(L-1,j)∈T},Td={i|(i,0)∈T},Tu={i|(i,L-1)∈T}と書くことにする.

Theorem2

 任意のt∈Tに対しT\{t}は連結,(3)および|Ti∩Tr|≧2かつ|Td∩Tu|≧2.(4)を仮定する.このときpc(GT)<1である.

 また,pc(GT)<1となるためのTの必要条件,およびGTの等周次元と臨界確率との関係についても考察を行った.

 Sierpinski carpet格子においてoriented percolationについても考えた.これはopenな辺を通過するとき,右または上向き(各座標成分の正方向)にしか通れない,という制限をつけたものである.特にTが対称性を持つ場合について考えた.L=2a+b(a,b>0),Ta,b={0,1,…,L-1}2\{a,a+1,…,a+b-1}2とする.

Theorem3 a≦bならば〓

 この結果は,Z2から取り除かれる部分がある程度大きければoriented percolationにおいては自明でない相転移が起こらないことを示している.よく知られたようにpc(Z2)<1であり,この点においてSierpinski carpet格子とZ2には大きな違いがあることがわかる.なお残念ながら,現段階ではa>bの場合に自明でない相転移があるかどうかはわかっていない.

 同様に,Sierpinski carpetの高次元化のひとつであるMenger spongeの格子についても,穴が十分大きければ自明でない相転移歩起こらないことを示した.

図1:the Sierpinski carpet lattice

審査要旨 要旨を表示する

 本論文では、フラクタル格子におけるパーコレーションの問題を取り扱っている。G=(V,E)を連結な無限グラフとする。ここでVは頂点集合、EはVの2つの元を結ぶ辺の集合である。V,Eは高々可算、また各点から出る辺の本数は有限とする。[0,1]区間に値を取るパラメータpを決め、Eの元が独立にそれぞれ確率Pでつながっており、確率1-Pで切れているとする。頂点υ∈Vからつながっている点の集合C(υ)が定まる。Pp(|C(υ)|=∞)をθ(p)で表す。θはpに関して単調非減少である。臨界確率pcをpc=inf{p|θ(p)>0}で定める。また、ωn∈G,n=1,2,…,でυからの距離がnであるような適当な列を取り〓と定める。本論文ではこれらの量についてフラクタル格子について研究している。そして、以下の結果を得ている。

 定理1(1)d-次元pre-Sierpinskiの場合

 (2)pentakun格子の場合

 (3)snowflake格子の場合

 また、pre-Sierpinski gasketにおけるcorrelation lengthの存在、臨界指数の発散、hyperscaling relationの成立をrecursion formulaを用いて証明し、correlation lengthの発散のさらに詳細なオーダーを計算する方法を述べ、d次元pre-Sierpinski gasketなどの場合に実際の計算を行っている。

 さらに本論文では一般化されたSierpinski carpet格子をZ2の部分グラフとして定義し、pc<1,pc=1となるための十分条件を与えている。L≧2,T⊂{0,1,…,L-1}2とする。ただし(0,0)∈Tを仮定する。グラフGT=(VT,ET)を以下のように構成する。

 Tl={j|(0,j)∈T},Tr={j|(L-1,j)∈T},Td={i|(i,0)∈T},Tu={i|(i,L-1)∈T}とおく。

 定理2(1)任意のt∈Tに対しT\{t}は連結、|Tl∩Tr|≧2かつ|Td∩Tu|≧2ならばpc<1である。

 (2)以下の(i),(ii)のいずれかが満たされているならばpc=1である。

 (i)あるj0に対し|{i|(i,j0)∈T}|≦1

 (ii)|Tl∩Tr|≦1.

 上記の定理に関しては熊谷による研究があるが、本論文の結果はこれを含むより広い例に対して適用可能である。また、有向グラフに対するパーコレーションについても結果を与えている。

 以上のように本論文は独創性のあるきわめて質の高いもので、論文提出者篠田正人は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51211